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王を殺す簒奪者 ~Usurper to kill the king~



白い羽が乾燥地帯を吹き抜ける砂風に揺られることで、ススキの葉を連想させる。

ここ、ベルクート地帯では年中を通して風が吹き荒れ、生態系にも大きな影響を与えている。年々植物は枯れていき、日に日に動物の骨が散乱している。ここの地帯の恐ろしさを表してるようだ。


特に恐ろしいのはこの地域を照りつける太陽だ。


一年の降水量は一日の降水量にも満たないらしく、青天の霹靂ともいえる日照りだ。つねに顔を出している太陽はこの地帯の奥奥にも照り飛ばし、ここ一帯をフライパンみたいに熱をもたせていく。


そんな中、その荒れた土地にその華奢な身を寝かせ、匍匐姿勢を保っている少女がいた。


「へへ~、また当たりだね。」


カルロス・ハスコックはこの砂漠と同じ色に染め上げられたM40A3を撃つ。


さっきから何発の弾丸を撃っただろうか。排莢口から飛び出た薬莢は低い方へ転がり、薬莢の池を作り出す。この量からしてかなりの弾丸を撃ったようだ。


すでに帝国の騎士も数が少なくなり、見つける方が困難になってきてる。それでも銀の鎧に反射した日光を頼りに引き金をひいた。


騎士は各々が絶命の瞬間を激写したような苦悶の表情だ。強張り、驚き、激痛に曝された己の身体を労るように銃創を押さえている。


撃たれてまだ生きてる者もいるが、それはほんの一部だ。大半は死してこの地帯を飛び回るコンドルのような鳥に死肉をつつかれる。


そのコンドルは彼女が知ってるコンドルではなく、それを倍加したような風貌だ。


それはまるで、史上最大の翼を持つ鳥、"アルゲンタヴィス"のようだ。

古代より蘇りしその雄々しい翼を広げ、大空を切り裂いていく。


だが、カルロスはその鳥に負けぬような射撃を繰り出し、敵を翻弄していく。


「ふぅ~、これで片付いたか。」


最後の薬莢をコッキングをすることで排莢する。


敵はみな片付けた。スコープを通して見ると全滅した敵騎士を傍らに喜びの声をあげる亜人たちがいる。皆、嬉々とした笑顔と動きを魅せ、心から解放されたことを喜んでいる。


そうこうしていると遠くからバババッと歯切れのいい音が近づいてくる。増援のUH―60のようだ。


「やれやれ、待ちくたびれたよ。」


その場に寝転がり、仲間が来るのを待つことにした。




▼△▼△▼△▼△




「羽毛が生えてるとは変わってるさね。それに成人だというのに小さくないかい?」


「はい・・・私達ハーピィは空を飛べるように体躯が進化したので見た目とは年齢が違うんです。」


増援のヘリを操縦していた『ソ連人民最大の敵』とスターリンに名指しされたほどのハンスはこの世界の亜人に興味津々だ。

とやかく質問しまくり、色々聞こうとしている。


彼女たちは亜人保護のために輸送用のヘリで増援に来た。

主な主要ヘリはUH―60ブラックホークだが、体格の大きいアラクネやラミア、ケンタウルスなどはUH―60ブラックホークには入りきらない。

そのためにCH―47チヌークを使用した。これで体躯のある大型亜人の移動も可能だ。


その運搬隊を仕切るのがハンスだ。彼女は腹心の部下であるエルンストと共にアパッチに乗って援護を担当している。


とはいえ、ハンスが乗ってるアパッチは一人用だ。副座席は無人でそこには誰も乗せようとしない。

普通はエルンストが乗るのが当たり前だ。だが、彼女は『自機が墜落したらエルンストも道連れだろ?そうしたら指揮する奴がいなくなっちまうさね。だったら同乗はしないほうがいいさね』と一点張りだ。


彼女らしいといえば彼女らしい台詞だ。部下思いがよく分かる。


「これで全員さね?」


「はい、一応私達が確認したところ、このベルクート砂漠に住む民族はこれで全員です。」


「そうかい。だったらあの馬鹿を連れて早く帰りたいね。」


口を溢すようにしてある一点の方向をみる。ハンスのいう馬鹿とはーーー



「ガッハッハッハ!この酒うめぇなー!!」


ケリーである。

単なる好奇心でヘリに同乗したものの、敵はすでにカルロスが片付けてしまったので退屈なのだ。その退屈しのぎに亜人からわけてもらった自家製果実酒をガブガブとイッキ飲みしていた。


酒豪の名は伊達ではない。ギリシャ神話の酒の神 バッカスのような飲みっぷりだ。その胃には何ガロン入るのだろうか。


「ケリー、飲み過ぎには注意しな。酔って戦闘に差し支えるなよ?」


「心配すんなって、姉御ぉ!私はまだまだイケるってばよ!」


とは言うものの、尋常じゃない飲みっぷりだ。あまりの酒豪さに亜人も軽く引いてる。


ケリーの酒宴を尻目にチラッと時計を見てみる。すでに予定時間を過ぎてる。そろそろ移動しなければ砂漠特有の温度激変に襲われてしまう。そうなる前に離陸しなければ。


「さあ、出発だよ。ほら、さっさと積み荷を搬入しな。いつまで酒飲んでんだい?あんたも手伝いな。」


一人で宴会をしてるケリーを無理矢理動かし、ヘリに乗らせる。


乗せ終わるとヘリが次々と離陸していく。大量のヘリが一気に離陸する光景は圧巻だ。


ハンスもまた、操縦レバーを引いて離陸し、上昇していく。


「これで任務は達成さね。けどなんか、嫌な予感がするさね・・・」


拭い切れない不安が心を埋め尽くす。。それは、自らの身を滅ぼすのような得体の知れない何かが波のように押し寄せる恐怖だ。


その時だった


「ぐっ・・・!?」


突然、このヘリに強力な力を持った物が衝突した。衝突の際に激しい轟音と揺れが襲う。


テールローターがポッキリと折れ、ホバリングが不完全になる。


ヘリのメインローターが回転することで、揚力を生み出している。このとき、機体側がローターを回転させることの反作用として、ローターが機体を逆方向に回転させようとするモーメントが生じる。これを「反トルク」、カウンタートルク、トルク効果などと呼ばれる。


しかし、テールローターを失ったことでその効果は機能しなくなり、揚力を保てなくなる。


今、そのAH―64アパッチは墜落を迎えようとしていた。


「こりゃ、ヤバイね・・・」


そう思念したとき、今まで味わったことのないとてつもない衝撃がハンスを襲った。


そして、ハンスの身体は黒煙に蒔かれて消えた。




/※/




「隊長!」


エルンストはハンスのAH―64アパッチが円転しながら墜ちていく様をただ眺めることしか出来なかった。


突然現れた謎の粘着物のような物体がおのが隊長の機体のローターを破壊したのは覚えてる。


そこからほとんど覚えてない。それほどのショックを受け、とり乱しているからだ。


『隊長の機が墜ちた!』


『急げ!救出作業に移るぞ!』


隊長が墜ちたことで第1航空部隊にも混乱が投じられ、浮き足が見られる。

それに加えて追い討ち掛けるようにさらに謎の粘着物が投擲された。


「っ!? 緊急上昇!」


パイロットの慌てる声がする。スライムのような青色の透明な球体が飛来し、この隊の一角のヘリに当たろうとした。


幸い、パイロットの賢明な判断で球体を回避し、墜落は免れた。


その球体を飛ばした主が砂の中から顔を出してきた。


「なんだあれは・・・!?」


蛇のように長い胴体に赤褐色のブヨブヨした皮膚。その先に生え並ぶのはハエトリクサのような頭と鮫のような鋭い牙と大きく開いた口。細く透明な涎が牙を伝ってポタポタこぼれ落ちる。


見るからにして凶暴な化け物だ。頭を左右に揺らして分身してるようだ。


「あれは!キングワーム!」


後ろでエルフの若者がそう叫んだ。


「キングワーム?」


「はい、このベルクート地帯を統べるモンスターです。普段は大人しく、争い事を好まないのですが・・・」


ヘリのローター音に起こされて怒ってるのか。


キングワームと呼ばれたその芋虫はウネウネと器用に身体を動かし、その巨体を陸に上がらせていく。大きさは推定80~100メートルほどだ。ヘリなど軽々と飲み込んでしまいそうだ。


しかも溶液を球体状にして飛ばしてきた。


「気をつけてください!あの溶液は何でも溶かします!」



ハンスの機体はキングワームのすぐそばに墜落した。下手すればハンスもろとも機体を飲み込む可能性もある。迂闊に手が出せぬまま、この様を眺めるしかない。


「おい!姉御はどうすんだ!?」


エルンストと同じくUH―60ブラックホークに乗っているケリーがそう尋ねた。しかしながら、エルンストはその問いに答えられずに黙っている。


するとヘッドオンの奥からジジジッとノイズの走る音と聞き慣れた声が息切れしていた。


ゼーハーゼーハーと一定の呼吸音を吐きながら懸命に話そうとしている。その声はさっきまで聞いていた声だ。


『ハー・・・ハー・・・、ペッ。・・・エルンスト、聞こえるかい?』


ハンスだ。苦しそうな声を上げながらヘッドオン越しに話しかけてきた。


「隊長!ご無事でしたか!」


『ああ・・・足と腹をやられたけんどね。なんとか生きてるよ。』


「なんとかその化け物から逃げてください!部下が引き付けますので!」


ハンスをある程度キングワームから離れさせ、救出する。部下を総動員させて別方向から機銃で翻弄させながらだ。これなら負担も少なく、ハンスを救出できるだろう。


だが、エルンストのその決死の案を真っ先からボツにした。


『悪いけど・・・操縦席が足に食い込んでね。動きたくとも動けないのさ。はは、無様なもんさね。』


「そんな・・・」


ハンスが生き残っていたというのに、再び地獄のドン底に叩き落とされた。そんな気分だ。

機体が足に食い込んでいるのならすぐに瓦礫を撤去させ、解体していき、ハンスの身体をあの機体から救助しなければならない。しかし、それには人員と時間を費やし、手間も掛かる。


そうなれば全体の救助が大幅に遅れ、皆してあのワームの腹の中に収まることになってしまうだろう。


『逃げな・・・このままじゃ、あんたらも奴の栄養になっちまうさね。』


「ふざけんな!あんたの撤退命令なんて聞けるか!」


ハンスの撤退命令に真っ先から拒絶する。そして、すべての通信をオンにすると言い放った。



「アパッチ1~5の各班、西側から害虫を誘き寄せろ!その間に私達が救出する!」


『『『『『り、了解!』』』』』


「ケリー、ガンナーは任したぞ!あのデカブツに鉛弾をぶちこんでやれ!」


「オーケー!これだな?」


ケリーはUH―60ブラックホークのドアガンナーの部分に設置してあるM134ミニガンの狙いをつけ、引き金を引く


ガガガガカガガガガカッ!


「ひゃっはー!!」


毎分3000発を越える弾丸がベルト給弾の中を通って薬室に送り込まれ、流星群のような放射を魅せる。それに伴い大量の薬莢が宙に散乱し、日に照らされ反射する雨の如く光り輝く。


弾丸の雨と化した弾幕は当然キングワームにも着弾した。


キシャアァァァァァァ!?


堅さを保ちながらも柔軟性のあるブヨブヨした皮膚を抉るように弾丸は奥深くまで貫く。それに比例して身体中を激痛が走り抜く。


いっぽうケリーは弾幕を尽かさない。銃身が赤く腫れ上がろうと、反動で狙いがつけられなくとも、決してその引き金を引くことを止めることはない。


そのせいでカラカラと銃身が回る音だけがした。


「おい!弾薬だ!」


「は、はい!」


同乗する兵士を急かしながらも奮闘する素振りを見せる。


他の機体も同じだ。AH―64アパッチは攻撃ヘリのためにM230 30mmチェーンガン、AGM―114 ヘルファイアなどを戦禍に投下する。


ミニガンと同等の破壊力を持つM230 30mmチェーンガンとアメリカ軍御用のAGM―144 ヘルファイアはその芋虫を完膚なきごとに叩きのめす。


みるみるにキングワームは身体の箇所を千切られ、肉塊へと変わり果てていく。


「今だ!奴が怯んだぞ。隊長を救出しろ!」


怒濤の銃撃におもわず身を怯ませるキングワーム。そのおかげで若干隙が出来て着陸も可能となった。


しかし、その手を阻むようにして別の刺客が顔をだす。


『副隊長!キングワームがもう一体出ました!』


『第3機からもです!今度は2体確認!』


「なっ!?」


仲間のピンチに駆けつけたかのように、キングワームがゾロゾロと姿を見せる。合計4体。どれしもギチギチと歯を軋り、警戒する。


その異様の光景に兵士たちはたじろう。


「怯むな!奴を殺し、隊長をお助けするんだ!各機、射撃開始!」


しばらく怯えていたがエルンストの声で我にかえり、みなイキイキと放射する。

高度30メートルを維持しながらAHー64アパッチは両翼のハイドラ 70 FFAR から火が放たれ、空行く鳥の大群の如く滑空し、一匹目のキングワームの身体をグチャグチャにしていく。


「次だ!あの小さいのを狙うぞ!」


エルンストが目標に定めたのは一回り小さいキングワームだ。まだ幼体なのだろう。しかしアパッチの容赦ない弾丸のシャワーを浴びることに変わりはない。


不屈に溶液を飛ばすものの空を飛ぶアパッチには届きやしない。無惨にかわされ、さらに攻撃を受ける。


しかしキングワームもバカではない。ヘリが一体に夢中になってしまい、後ろが疎かだ。


別のキングワームが飛ばした溶液が一機のアパッチの腹部に命中する。


『うわぁぁぁぁぁっ!!』


『メーデー、メーデー!墜落する!繰り返す、この機は墜落する!総員、衝撃にそなえ・・・』


インカムの通して阿鼻叫喚の悲鳴が届いてきた。

黒煙を空へと散らしながら体勢を崩し、墜ちていく。墜落した衝撃でメインローターが破壊され、機体の部分も剥がれ、砂の原に身を委ねられる。


火災はまだ起きてはないが、大きく機体は変形してしまった。


「おい、ホッパー3応答しろ!」


『こ、こちら・・・ホッパー3。砂のおかげで無事です。しかしナビが怪我を・・・』


「すぐにブラックホークを寄越す。聞いただろ、救護班はすぐに兵士の救助を。シータ、ヘラン、お前の機体で援護しろ。」


『『了解。』』


一機のUH―60ブラックホークと二機のAH―64アパッチが先ほど墜落したアパッチの救助に向かうために編隊を離れる。


あのアパッチは無事だろう。それよりハンスだ。さっきから通信が途切れ、状態もわからずだ。


すでに死んだのか、と悪い想像をしてしまうが真っ先に否定する。あのハンス・ウルリッヒ・ルーデルだ。死ぬなど彼女が機乗を拒否するに等しいことだ。


おそらく気絶したのに違いない。そう自分に言い聞かすことで平静を保った。


「キングワーム2体目、3体目撃破!」


「よし!あとはあのデカブツだけだ!」


(待っててください隊長!今すぐ助けてやりますから!)


エルンストの思いは全身を強張らせ、その操縦レバーにも伝わった。










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