鎖を解き放つ者達 ~Sha who unleash a chain~
「急げ!さっさと亜人を連れ出せ!」
「大人しくしろ!殺されたいか?」
「やめて!子供だけは!!」
公国と帝国の国境沿いの村では火の手が上がってる。こんな秘境の村で火事かと思いきや、それは間違いだ。
火事ならとっくに消火活動していても可笑しくない。だが、誰一人そんな行動をするものはおらず、むしろ手を加えることさえもしない。
一部に至ってはそれを楽しみ、なされるままで見ていた。
「そこの女!さっさと子供をよこせ、さもなくば死にたいか!」
「お願い、どうかお許しを!」
ここの村では亜人撤廃のための略奪行為が行われようとしていた。
いままで帝国に見つからないようにひっそりと生活していた村だが、ついに村が見つかってしまった。
なんとか抵抗するものの、圧倒的な武力の差を見せつけられては勝てるわけもなく、まんまと略奪を許してしまう。
帝国騎士は大人と子供に分けている。大人の場合 男は労働力、女は性奴隷に。男児は労働力、女児はその手の好色家が高く買い取ってくれるらしい。
どれに転んでも地獄しか待っていない。なかには死んだほうがマシと言うものもいた。
用意された荷馬車に貨物のように乗せられ、都市部へ移行されるのだ。
「やめてくれ!女房が困ってるだろ!」
子供を奪われそうになり、おもわず抵抗する母親に寄り添う旦那らしき亜人。
彼は帝国騎士に怯えながらも懸命に母子の命を守ろうとする。
「なんだ貴様は?死にたくなければそこをどけ。」
「頼む、もうこんなことは止めてくれ。」
「もう一度だけ警告する。そこをどけ!」
「嫌だ!」
騎士の警告にも屈せず、頑なに否定した。だが、それを易々と許すわけがない。
「ならば死ぬがよい!」
腰の鞘から剣を抜く。彩飾が施された絢爛とした剣だ。人を殺すのには勿体ない。
「あなた!」
「くっ・・・蛮人めが・・・」
「死ねぇ!」
仲間に亜人を押さえつけてもらい、大きく剣を振りかぶる。それは斬首刑を模したようだ。
そしてそのままうなじに向かって降り下ろす
ーーはずだった
ブシャ
果実の果肉を切り裂いた時の音のようなみずみずしい音がした。
だがそれは、果実の果肉の音ではなく、人間を体を断ち切る音だった。
見れば剣を振りかぶろうとしていた騎士の頭部がない。首から一刀両断されたかのように頭部が無くなっていたのだ。
いきなりの光景に全員が息を飲んだ。
「な、なんだこれは!」
「敵襲か!?総員、配置につけ!」
「早くしろ!亜人より敵の殲滅だ!」
村を統べていた帝国軍は敵襲により、一気に乱れていく。この場を仕切る上官の元、すぐに編隊が組まれたが見えない敵を相手に恐怖し、それどころではなかった。
「おのれ・・・どこにいる!」
そう愚痴を漏らす。これには周りの騎士も激しく同感だ。いままで自分達が戦ったことのない相手に戸惑い、精神の亀裂が生じている。
次に殺されるのは誰だろうか?と各々が思案し始める。
それに答えるように銃撃が示してくれた。
「うっ・・・!」
正面を向いていた一騎士の胸に穴が開いた。指がすっぽりと収まるぐらいの大きさだ。
たくさんの人がこうも入り乱れるなか、正確に狙いつけるとはかなりの腕利きだろう。
こんな芸当が出来るのは決まっている。
「・・・命中。」
シモだ。
彼女は先程まで略奪の被害に遭っていた村から150mほど離れた茂みで匍匐姿勢をしている。
狙いは亜人に仇なす帝国騎士だ。彼女は部隊が彼の村に到着するまでの時間稼ぎを任されている。
ここ一帯は村人が帝国から見つからないようにと草木が生え並んだ地帯だ。
移動するだけでも足を草木にとられ、思うように進みづらい。
HMMMVも用意されてるが、あの車体では木や芦垣に邪魔され、役にたたない。
故に村までの移動は歩兵の足だけだ。その間の時間稼ぎとしてシモが騎士の足止めとなる。
狙撃隊はシモを初めとした数人の狙撃兵だ。シモほどではないが、それぞれが訓練で優秀な成績を残した兵士だ。
彼女らは亜人も守るために狙撃銃を構える。
「隊長、指示を。」
シモの相方、観測手のミルフィが問う。
「・・・性別・種族差別を有する帝国共を殺す。それが私に課せられた使命。」
「わかりました。総員、聞こえたか?」
『了解!』
各諸点で息を潜めてる女性兵士たちが返事する。インカム越しにガチャンとコッキングする音がした。
音からしても高い音。かなりいい素材を使ってるからだろう。
だが、シモはそんな銃は使わない。仲間たちから最新式の銃をオススメされても、使う気にはなれない。
自分には愛銃がある。モシン・ナガンM28がある。と、なんども断ってきた。
この銃は自分を裏切らない。撃ちたい時に撃ち、帯びたい時に帯びる。それが名銃の条件だ。
そして、プロフェッショナルの理でもある。
「12時の方向に敵5。人質はいません。」
「・・・排除する。」
サプレッサーを付けていないために発砲音がこだました。
シモの主観から見え、重なる二人の騎士の頭部を弾丸が貫く。
さすがは世界トップクラスのスナイパーだ。他の兵士より正確に、的確に狙いを定めていく。
「・・・死ね」
冷酷な声でそう切り離す。普段は無表情で無感情のシモだが、今日に関しては怒りに満ちてる。
それもそのはず、彼女がこうも怒ってるのは帝国のせいだ。亜人撤廃と男尊女卑、この帝国が捧げる教訓に腹が立ってしょうがない。
かつて、100年ほどソビエトの支配下に置かれたフィンランドはソ連兵の言いなりにされていた。フィンランド人というだけで罵られ、悲観で奴隷のような待遇で生活してきた。差別は心苦しい物だ
そして男尊女卑。彼女が育ったフィンランドは男女平等の先進国だ。フリーデンでも女性が多く、カオルも差別は嫌っている。そのために男尊女卑の現実を見たことはない。眼前に広がるこの光景に驚愕と憤怒を隠せなかった。
この二つを撤廃させる。そのために銃の引き金を引き続けた。
バンッ!
/※/
「散開!」
浅い森のなかで一兵士がそう叫んだ。
ジャングルのような緑、黒、茶色の三色のまだら模様の迷彩服に身を包んだ集団が茂みに隠れ、前進していく。
ここは長い歳月を掛けて育った植物たちが織り成す自然公園のような地帯だ。花草は腰の高さまで生え、長いつるが足に絡んでくる。
これほど嫌となる道はない。いちいち足を気にしてる暇もないために、どんどん進んでいく。
「この先が例の村だ。今は狙撃隊が足止めしてるが、いつまでもつかわからん。急ぐぞ。」
その隊長の言葉に近くにいた兵士が頷く。ここからはたった今略奪が行われていた村だ。それを阻止するために今作戦を任せれている。
「五秒前だ。4・・・・3・・・・2・・・・1・・・・go!」
ゼロ秒ピッタリに突撃が開始される。西から狙撃しているに対し、東から突撃が乱入された。東西の各所から放たれたフリーデン軍の一手は帝国軍内で混乱を起こさせるには十分な材料だ。
各自が武器を乱射する。ほとんどがHK416ではあるが、中にはM249 MINIMIやベネリM4などを携えている兵士もいる。
ありとあらゆる戦闘事態に応じた装備だ。今作戦のような村では死角から来る敵にはベネリM4が有効だし、固まった敵部隊にはマシンガンのM249 MINIMIが最適だ。
さすがは『陸軍の頭脳』と呼ばれたクレイトンの策だ。無駄がなく、なおかつ的確な指示に兵士たちは感銘を受ける。高じた士気はやがて全体を巻き込んで一団と化した
「救護班は他種族の救援を!敵は皆殺しだ、逃がすな!」
血も涙もないような鬼軍曹の命令を聞きながら引き金を引き続ける。
弾丸の雨は武勇溢れる騎士の身体を貫きながら襲いかかる。
槍や剣、盾の近接武器を使用する帝国軍と重火器を使用するフリーデン軍の激戦だ。圧倒的な武力差ではあるが、帝国は負けずとも剣を振るう。
まるで1879年に大英帝国と南アフリカのズールー族間に起きたズールー戦争のようだ。
あの戦争でも裸で槍と盾だけのズールー族は大敗した。数では向こうが上ではあったが、大英帝国が誇る最新の重火器には手も足も出ず、大敗を決してしまった。
今戦闘ではそのズールー戦争の再現みたいだ。雲泥の差の両軍はアリのような進撃を始める。
だが、さすがに重火器に対抗する術はなく、帝国軍は次々と撤退を始めていく。
それを見逃さなかった軍曹。すぐさま森の外で待機させてたHMMMVに通信すると追跡に向かわせる。
あらかじめ予測していた事態だ。そのためにHMMMVを待機させて正解だった。
予想外のことに帝国軍はHMMMVに搭載されたM2 重機関銃や40mm 擲弾発射器Mk19 の餌食と変わり果てていく。
戦闘開始からわずか10分ほどで勝敗は決した。
「よし、敵は全滅した。本部に任務完了だと伝えろ。各自、敵の死体の片付けだ。。救護班は他種族の手当てだ。わかったか?」
「「「はい!」」」
軍曹の一声にキビキビ動く。フリーデン軍の負傷者はいない。問題は亜人のほうだ。
彼の者達の頬や腕に痣が出来てることから帝国軍に暴行された節が見られる。老若男女種族構わずだ。よほど帝国軍が冷酷な集団だと証明できる
担架で怪我人を運びだし、治療を施してやる。怪我はそれほど重傷ではない。軽い擦り傷や切り傷、痣などの軽傷。最新の治療器具の出番はなさそうだ。
「ここは様々な種族がいるんだな。」
「はい、元々は狐耳族の村だったようですが、東から流れてきた難民の種族を匿ったために村人が増殖したようです。種類だけでも狐耳族、狗耳族、猫耳族、エルフ、アラクネ、ラミア、ドワーフ、ハーピィなどが住んでいます。種族ごとに身体の作りも違うので救護班が困ってました。」
「気の毒にな。たしかに鱗と皮膚は構造的に違うな。」
ゲラゲラとから笑いしながら部下と亜人の交流を眺め見る。最初は見慣れぬ服装をしている兵士に仰天するが、自分達を助けてくれたことに感謝を述べ、緊張の輪が解けたようだ。
「・・・はい」
「ありがとー!お姉ちゃん!」
後ろではシモも子供達とたまむれている。持参したお菓子を開け、子供に配ってるようだ。なんとも可愛らしい光景だろう。
シモは元々子供好きだ。身体も精神も子供っぽいので向こうからすれば親近感がわくのだろう。
「そういえば、他の部隊はどうなんだ?」
軍曹はふと、思い出したようにそう問う。それに対して兵士は簡潔に纏めた答えを教えた。
「順調ですよ。どの部隊もうまくやってるはずです。」
/※/
ここは乾燥地帯の一角。一年を通して横殴りの砂風が吹き、立ち入る者を拒絶させる魔の領域だ。砂漠化が進み植物は枯れ果て、生物のサイクルが乱れつつある。それでも止まることない砂嵐が襲う。
この地帯には民家が点々とある。ここでしか採れない鉱物や植物は貴重な収入源だ。そのためにここを根城にしている種族もいる。
帝国の撤廃制度から逃れてきた難民だ。人目つかないこの地帯でひっそりと暮らしている彼らは今日まで帝国に見つかることなく、平和な日々を暮らしていた。
しかし、帝国の魔の手が忍び寄り、彼らの生活を貪ろうとしている。
シモら狙撃隊を含む第2救援隊が村を解放し終えた同時刻、ここでも帝国軍による亜人虐殺が行われようとしていた。
「ここにもいたぞ!このやろ、手間をかけさせやがって!」
「押さえつけろ!女は傷を付けるな!高い金で買う奴がいるからな。」
簡易的なテントで暮らしていたエルフ族は隠れようとしたが、あっけなく見つかり、暑い日差しの当たる陽向に晒し出される。
後ろの馬車には同じように連れ出された亜人達が口と手足を不自由にされ、同情の目線を向けてくる。
彼らも同様に売られようとしている亜人だ。それぞれの馬車に乗せられ、今日中にも帝国で取引されるだろう。
「ガキはそっちの馬車に乗せろ。女は丁重に扱え。」
「隊長、男はどうします?」
つい今しがたまで抵抗していた夫が手足を拘束され、晒し者にされる。
この男をどうするか、周りの騎士と相談する隊長。彼もまた、亜人撤廃の肯定派である。
「そうだな。馬車はどうだ?」
「それが・・・満杯でして・・」
「そうか、ならしょうがない。見世物として殺してやろう。」
「へへへ、それはいいですね!」
殺すと聞いた瞬間、男の顔が青ざめる。この外道供が言ってることは決して冗談ではない。本気で自分を殺すのだと、理解する。
男は頭を項垂れ、絶望の節に落とされた気分に陥る。
「最近、弓の腕が落ちたからな。そこのテントの骨組みに繋げ。」
なにかを察したように部下達はせっせと男を骨組みに縛り付ける。骨組みは地中深くに刺さっており、男を固定するには手頃だ。
まさしくこれから銃殺刑が起ころうとしている。
「や、やめてくれ!」
「そうはいかんな。貴様ら亜人は一人残らず処分する。イーゲル神のご教授だからな。」
隊長が弓を引き、矢じりを男の方へと差し向ける。
男の家族はおもわず目を反らす。愛する旦那の死に様を直視出来ないようだ。
「頑張ってください、隊長ーー!」
「外したら隊長の名が泣きますぜ!」
外野はこの状況を面白がり、男に不安を催す。男は半分涙目だ。それに釣られたかのように男の家族にも涙が伺える。ましてや子供もだ。
それを面白がるとはどこまで頭がイカれた連中なのだろうとーーー
この惨状を遠くからスコープ越しで見ている少女は常々思う。
「なんて最低な連中・・・。今からでも殺したいね。」
この乾燥地帯に適したデザートカラーの迷彩服、それに応じた茶色柄の塗装を施したM40a3を匍匐姿勢で構えてる。
そして、その赤毛の短髪を包むベレー帽には白い羽毛が付けられている。
"白毛戦士"ことカルロス・ハンコックはあの帝国軍とエルフの家族の様子を監視していた。
彼女に与えられた指令は偵察任務。亜人撤廃を促す帝国の侵略を本部に伝え、排除を決する役割だ。
この地帯に属する村を保護するためにバギーで移動し、目的の村を覗いたところこの状態というわけだ。
倍率のいいスコープから見えるのは腹立たしい暴行の数々。長時間見てて気持ちのいい物ではなく、何度歯軋りをしたことか。
だが、命令を待たずして撃つのは軍人の落ち度に関わる。あの家族の命が最優先なのは誰でもわかるが、ここは冷静に行動を移していく。
そのためにこの光景をインカムを通して後方の部隊に伝える。
「こちら『ホークアイ』、ポイント3ー4ー8にて敵を発見。人質を取り、亜人男性を暴行している。」
『こちらHQー2、了解。今すぐ増援を送る。それまで敵を足止めしてくれ。』
通信が終わると再びスコープを覗く。まだ矢は発射されてない。しかし今にも射ちそうな上、増援も来る気配はない。
ここは命令通り足止めをするのが得策だ。
バンッ!
M40A3が牙を剥く。7,62mm NATO弾が放たれ、矢を射とうとしている隊長の眉間にぶち当たる。
隊長は脳髄を撒き散らして崩落した。
「へへ。」
口元を歪めてペロリと舌なめずりをする。妖しげながら可憐な舌なめずりだ。ここに第三者がいればおもわず見続けるほどの妖艶な仕草でもある。
スコープ越しでは隊長が死んだことで浮き足たってる。とやかく辺りを見回し、敵の位置を掴もうとしている。
だが、そう簡単には見つからないだろう。カルロスはデザートカラーの迷彩を着て数百メートル離れた所に潜んでいる。
向こうからはこっちは針の穴ほどにしか見えない。見つける方が困難だ。
「さあ、ボクを見つけられるかな、ゴミ虫ども。」
カルロスは冷ややかな声でそう言い放つ。されどもその呟きは砂風に掻き消され、風音と化した。




