地 踏み歩くは修羅 ~Walk stepping on land Shura~
「急げ!敵が来るぞ!」
「10時方向に敵数4!撃て!」
「伏せろ!矢が飛んでくるぞ!!」
ノイッシュ城の見晴らしのいい屋上を伝ってヴェルディ王の元へと急ぐ。
屋上は森や湿原を渡って攻めてきた歩兵対策に迎撃できるように大砲が設置されている。
だが、今回の戦闘でその最新鋭の大砲が使われることはなく、宝の持ち腐れというばかりに障害物と化していた。
それを矢から防ぐ盾として利用しながらフリーデンのネスト部隊は突き進んでいた。
「敵は片付けた!」
「よし、アルファーチームは門の開閉、ブラボーチームはその援護だ。一刻も早く戦車隊をなかに入れるんだ!」
「「「「「了解!」」」」」
今回の作戦は敵の殲滅ではない。この城を牛耳るヴェルディ王の捕縛が最優先目標だ。
そのためには制圧の要となる戦車隊を敷地内に入れ、片付かせてもらうのだ。
このネスト部隊を指揮するのは日本人だ。カオルが具現化した日本人であり、その天賊の才といえる実力により、指揮することとなった和の侍だ。
「隊長、その銃で大丈夫なのですか?」
「うん、私にはこれが似合うんだ~。それに使いなれてるしね。」
副隊長のイブが隣にいる一人の女性に声をかけた。
そのイブの質問に楽観的だが、やけにのんびりとした声質で返したのはその女性だ。
武蔵と同様に黒髪を持つが手を加えないままにしている武蔵に対し、ボサボサかつ長い部分は一本にして三つ編みにしており、ゆるふわな髪形だ。
デザードカラーの迷彩服のみ着飾り、タクティカルベストやゴーグルも着けておらず、相棒といえる前時代の古銃を手にしていた。
彼女の名は船坂 弘。大日本帝国陸軍の軍曹で、相棒である三八式歩兵銃と銃剣のみで戦場に返り咲く。
腰には日本刀を帯びており、鍔は菊の紋だ。
菊は天皇家の象徴とされ、後鳥羽上皇が菊を愛していたことから菊花紋章という定義が出来たとされる。
太平洋戦争の旧日本軍には天皇陛下から拝借した銃という意味でどの銃にも菊の紋章が彩飾されていたほとだ。
だが、この世界に菊花紋章の意味はなく、彼女も愛国心など持ち合わせていない。
彼女はおのが主君のカオルのために出陣したのだ。
「来たぞ!敵だ!」
仲間の誰かが敵を発見したようだ。
すると船坂軍曹は他の隊員より迅速に三八式歩兵銃の銃口を敵に差し向け、撃ち殺した。
「その早業は敵どころが仲間さえも仰天した」
「なにしてんの~?早くしないと敵さん来ちゃうよ?」
天真爛漫な笑顔なのに寒気がする。決してその笑顔のせいではないと信じたい
/※/
「ここか。門扉を開くところは」
数々の敵兵を撃ち殺し、辿り着いたのはあの鋼鉄の門を開閉するための仕切りがあり、門を閉ざしていた。
「あの仕切りを外せ!」
「副隊長!敵が!」
扉を開かせまいと言わんばかりに邪魔をしてくるノイッシュ城の兵士達。
彼らは残り少ない数で門が開かれるのを阻止してくる。
「何としても奴等を止めろ!門を開かせるな!総員、突撃!」
槍を持った重装備の鎧騎士が迫り来る。
彼らは一心不乱に剣や槍を振りかざし、ネスト部隊の排除に取り掛かった。
だが、その進撃も塞がれることとなる。
「ガァ!」
「うわぁ!あ、足が・・・!」
「え、ええい!怯むな!すぐに態勢を整えでぇっ!?」
扉の鍵となる仕切りが外されたことにより、門の前で今と今と待っていた戦車隊が乱入してきた。
開門と同時に雪崩れ込んで来た歩兵達によって騎士達は蜂の巣となる。
さっきの部隊長も開門と同時に飛び込んできたケリーによって喉を日本刀で真っ二つに切り裂かれたのだ。
「やっと入れるな。遅すぎてこの壁を登ってやろうかと思ったよ」
「まったくだ。待ちすぎて戦車が錆びるぜ」
軽口を叩きながら戦車隊を先導するケリーとミハエル。
彼女らは部下達に指揮すると互いに戦闘準備にはいる。
片やは日本刀を携えて、もう片方はHK416を構えた。
「ゴメンねぇ。敵が多くて殺すのに手間取ってたんだ~。」
全身を血で真っ赤に染まりあげている船坂は二人に駆け寄る。
さすがの二人もその異様な風貌に言葉を飲む。
「・・・離れろ、血の匂いで鼻が曲がる」
「オレもだ。おい、そこの川で洗ってこい」
これが彼女の実力だ。
かつてはパラオのマリアナ戦役最後の戦いであるアンガウルの戦いで戦果を挙げた。
敵味方から『生きている英霊』、『不死身の分隊長』などという異名を持ち、伝説となった実績もある。
まさしく不死の身で敵を死へ誘う死神のようだ。
「ここら辺の敵は皆私が片付けたからあとは奥にいる敵だけだね。先陣は私がやるよ」
「あたしもだ。ミハエルは戦車隊を率いな。」
「へいへい。おら、さっさと動きな。敵はもう眼前だよ!」
船坂とケリーは歩兵を率いて戦闘、ミハエルは戦車隊を率いての砲撃を開始する。
最初の一撃はM109 A6 PALADINだ。
その雄々しい砲身を天高く聳えさせ、いかにも牙を尖らせる獣のようだ。
騎士の名は伊達ではない。あきらかに計り知れない実力をもつ強者だ
ドォン!
獣の遠吠えのような轟音が高々に天まで、地の果てまでこだました。
火山が噴火したように着弾した城の部位は弾け飛び、その開いた部分は煙に満ちた。
砲撃しながらの前進を繰り返しながら戦車隊は進撃していく。
「来たぞ!奴等だ!」
「あの鉄の乗り物に近づくな!弾丸を貰うぞ!」
ノイッシュ城の兵士がこちらの戦車に警戒心と恐怖心を抱きながら軽震する。
ならば歩兵から倒そうと目論む騎士もいたが、彼らも戦車レベルの軍人に命を摂られることになった。
「おらおらーー!!どきやがれザコ共!!」
「ふんふーん。あらよっと!」
ケリーと船坂によって二人の兵士の胴体が崩れ落ちた。
どちらも胸から血を流し、肺を傷つけられ、呼吸も儘ならない。
口から酸素といっしょに紅蓮の液体が流れ滴る。
「けっ!どいつもこいつも骨がねぇな。少しはましな奴いないのか?」
「ケリーちゃん、残念だけどここは人数は多いだけでほとんどが雇われだね。武器も旧式だし。」
たしかに船坂の言う通り、武器は旧式だ。
ほとんどが錆びかけ、年代の入って使い古された業物だろう。
この時代の武器は皆、中世のヨーロッパに実在していた武器ばかりだ。
十字剣や大型の盾、槍はもちろんのこと銃もある。
銃はフリントロックと呼ばれる単発式の携帯銃や長銃がほとんどで射程距離や装填時間もこちらの銃に劣り、なおかつ雨天の気候時には火薬が湿気ってしまい、役に立たない面もある。
魔法があるようだが研究も進まず、さらには人間には一部を除いて使うことが出来ないらしい。
なんでも、悪用を防ぐために一般市民には口外していない。
軍専用の一武力となっている。とはいえ、人間は魔力が極端に低い生物なので使える人間も限られていく。
そんな魔法も使えない烏合の衆のような敵兵など、彼女達の敵ではない。
人形を倒すかのように次々と殺戮を続けていった。
「おい、サラ。サラ、聞こえてるか?おい・・・?」
副心のサラが返事をしない。まさか殺られてしまったのか?
と、ここで辺りを見回してみるとサラどころが他の部下もいない。
「おい船坂。どうやらはぐれたようだぞ。」
「あちゃ~、少し集中し過ぎたかな。ずいぶん奥まで来ちゃったね」
「たくっ、あいつらは行動が遅いぜ。少しは足を鍛えろよ」
自分達以外は瓦礫と敵兵しかいない。完全に孤立無援の独りぼっちだ。
「今だ!奴等は二人だけだ!今のいつに畳み掛けろ!」
やけにゴージャスな金ぴか軍服に身を包んだ将軍が一声出せば周りに兵士が集まる。
その数40人近く。重装備で連携もとれており、20倍近い戦力差がある。
だが、その差は彼女達、戦闘狂コンビには関係ない。一人で数十人分の実力を兼ね備えているからだ。
「囲まれたな。」
「うん、そうだね~。ここは平等にきっちり半分こしよ?」
「おういいぜ。先にバテたら負けだ。一撃もらっても負けだからな」
「おーけー。」
二人は互いに背中を合わせ、正面の敵に目を向けた。
自分の背中は相棒に任せる。口で言わずとも、その背中が物を言ってた。
それはまるで、17世後期の女海賊 アン・ボニーとメアリー・リードがコルケ島で敵の海賊に囲まれた際に、背中合わせで戦ったような描写だった。
アンがフリントロックを構えるようにケリーはM500を、メアリーがカットラスを携えるように船坂は銃剣付きの三八式歩兵銃を差し向けた。
遠くでミハエル隊のPALADINの砲撃音がすると、それをスターターピストルに見立て一斉に敵勢の中へと突入した。
/※/
あちこちで様々な轟音が蔓延るなか、ここでもさらなる狂音が交わりあう。
人声、金属音、発砲音など、聞き慣れた音から普段耳にしない音までがこだましている。
なかでも極めつけはズブッという生々しい音だ。
それは人間を刺す音。固形物でありながらその身体を刺す禍々しい嫌な音は何度も耳にしている。
それもそのはず、眼前で広がる光景が音源だからだ。
「よーいしょっと!」
船坂は相棒の三八式歩兵銃の銃床を顔面に叩きつけ、騎士を撲殺した。
ドォンドォン!
ケリーは両手のM500の対を撃ち、脳髄を抉りだした。
お互いは眼前の敵だけに集中し、次々と猛打していく。
彼女達を止める術はない。ただ一つあるとすると、彼女達が飽きるまでだ。
カチッカチッ
M500の弾丸が切れればそれをカバーするように船坂が正面に躍り出る。
悪鬼羅刹の如く奮闘した後、再装填したらすぐに態勢を整えてぶちかました。
ヒットアンドウェイを繰り返しながら敵の戦力を削っていった。
第二次世界大戦の東西の英雄が羅刹と化している。
連合国側のチャールズ・ケリーと枢軸国側の船坂 弘。彼女達はこの世とあの世の狭間といえるこの戦場で武器を振るう。
「せいの~っせ!」
銃床を槍の穂先のように用いて突きを食らわせる。
そして、反対側の銃剣を後方の敵目掛けて突く。
「ぐふっ・・・!ゴホッ!」
「痛い?痛いよね?だったら、ーーーーーーー死んじゃないなよ」
胸を銃剣で突かれ、口から血を流している騎士を再見すると、子供のように面白がる。
そして、そのまま銃の引き金を引き、弾丸の追い討ちをかけた。
あまりの惨いさに周りの騎士たちも息を飲む。
さらに、ケリーは両手のM500を連続で発砲したあと、グリップを用いた打撃戦に移る。
まるで、石のように丈夫なグリップでの打撃は額を割り、骨への間接攻撃となる。
時々聞こえるペキッという鈍い音を耳にしながらあらゆる手を駆使して無数の屍へと葬り去っていく。
「お、鬼だ・・・」
どこかの騎士がそう呟いた。そう奇観しても構わない。彼女らに敵に情けをかけるつもりなどない。仲間になれば心強い味方だが、敵となれば自軍を壊滅しかねない兵だ。
鬼という表現は正しい。
「に、逃げろ!奴等に敵うわけねぇ!」
「殺される前に逃げるんだ!」
ここで彼女達に敵わないと自覚してか、一部の騎士が逃げるために退きだした。
一人から二人、三人から四人へと逃亡する騎士の数はどんどん増え続け、やがては彼女らを囲っていた全員が一時撤退を行する。
だが、それを易々と許すような二人ではない。
ケリーと船坂は互いを見つめるとニヤリと笑っては騎士の後ろへ付きまとう。
恐怖の鬼ごっこの始まりだ。
「あはは!待ってよ~。」
「けっ、逃がすかよ!」
数多の人を殺しておきながらこの身軽さ。身体は疲労で貯まってるはずなのに、陸上競技の選手のように俊敏な動きを魅せる。
この速さに勝てるわけもなく、一人目の犠牲者が決まった。
「ひぃ!?」
「つ~か~ま~え~た♪」
「や、やめてぐべぇ!?」
捕まったのは一番後方を走っていた若い青年だ。戦闘に慣れていないので、おそらく新米だろう。
だが、その若い命の灯火もここで消え失せることとなった。
「さて次だな」
「よ~い、ドン!」
まだまだ鬼ごっこは始まったばかり。再び二人の凶刃が彼らを地獄の底へと誘うのであった。




