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影より覗く者 ~Those who peek than shadow~

コンコン


扉をノックする音。木の扉なので反発力のある高い音がした。


「入るぞ」


声の主はセニア。開けるとギギギとドアの軋む音が鳴り響き、その可憐な姿を露にしていく。

いつもと同じ鎧姿だ。その手には洋紙が握られている。


「なんだ?こんな朝早くから」


時計を見ると短針は9を指している。つまりは9時だ。朝起きるのが遅いセニアにしては早いほうかと思う。


俺はすでに風呂に入って今は被害報告や現時点の基地の備品など書類に目を向けている。

そこへセニアが来たって訳だ。


「吉報だ。公国から手紙が届いたんだが内容が面白い」


「どれどれ?」


横からお邪魔して覗き見る。でも読めない。この世界の文字はまだ慣れていないからだ。それを知ってか代わりにセニアが読んでくれる。


「帝国と密通していた裏切り者も所在が判明した。私も確認したが結構な数だったぞ。」


「へー。それで捕まえるのか?」


「いや、まだだ。今動くと察知させる危険がある。願わくば一網打尽がいいんだが・・・」


「そんな都合いいのがあるわけないだろ。ここはゆっくり時間をかけて・・・」


「それなら大丈夫ですよ」


ここで第3者の声が乱入する。扉のほうを見れば武蔵だ。風呂からあがったのか寝間着姿で黒髪が艶々している。


「半蔵」


「はっ!ここに!」


どこからか半蔵が現れる。相変わらず綺麗な顔立ちだ。しかし、いつもどこにいるんだが。


すると半蔵は武蔵に何かのプリントを渡してきた。重要なファイルだろうか。


「以前、公国内の貴族の身元や役職、家族関係などその人物のすべてを調べ、独自の調査をしました。すると黒い噂のある人物を次々と突き止とめました」


「いつの間に・・・」


そんなこと頼んだ覚えもないし、願った覚えもない。明らかに武藏の独断だろう。


「そこで割り出したのは複数の貴族、おそらくその書状に書かれているのと同じ人物達だと思われます。」


なんと、武蔵達も同じことをしていたとは


「そして調査で分かったことがあります。数日後、その貴族達を中心にクーデターを起こそうと画策中と判明しまいた。」


「クーデター!?」


「残念ですが、この国の現状を宜しくないと思われている豚がいるのです。祭日は三日後。ウィンチェスター家の屋敷で反女王派の貴族を交えて作戦を取り立てるかと。」


「ウィンチェスター家だと!?あいつは黒い噂が絶えない貴族だ。やはり黒だったか」


「そいつの家に集まるということは一網打尽できるチャンスだと」


「はい。手間をかけずに一気に束縛できる。これを見逃すことはないかと。」


「だそうだ。どうする、セニア。」


「決まっている!ならばその裏切り者を牢屋にぶちこむまでだ!」


決意を改めるセニア。その目には闘志がみなぎっており、飄々とさせていた。


「それでどうする?」


「当日、このウィンチェスター家の周りは外部の人間に侵入されないように騎士を配置する模様です。その数100人。」


「100人か・・・それだけ拒みたいのか」


「全員がウィンチェスター家の配下なので女王には怪しまれず、ただの警備だと言って誤魔化すのでしょう。陸からは侵入不可能。なら、空から奇襲をかけます」


「なるほど、いい考えだな。」


「カオル、どういう事だ?」


「それは当日のお楽しみっててわけだ。」




/※/



バババババッと空気を切り裂き、エンジンの音が交わりつつある。

黒いボディーが青天の色彩に溶け込み、まるで空を飛ぶ虫のような編隊を組んでいる。


『こちらリベル1、全機に告ぐ。まもなく敵陣地だ。総員、準備を整えておけ』


無線にて通知が送られると機内は緊張一色に包まれる。各々の表情にはやはり緊迫とした顔付きだ。そのほとんどが新米の兵士だからだろうか。


「だらしねぇな、お前ら。」


横からケリーが話しかける。彼女は愛銃のM500を腰に、その手にはM249を携え、ろくに武装をしていない。タンクトップにズボンと軽装だ。


「そう言うな、ケリー。誰だって緊張するもんだ。」


緊張している新米兵をからかうケリーをどやす。緊張からさらに緊張させてどうすんだ。


俺達はCH―47 chinook(チヌーク)に乗り、兵員輸送の現場に一緒だ。陸は数々の見張りがいるため、堂々と侵入したら報告され、逃げられる可能性もある。そのため、こうして空から奇襲をかけるほかない。


CH―47チヌークの機勢は決して乱れない編隊をくんで空を駆け行く


「いいか、再度、確認を行う。敵はウィンチェスター家の屋敷にいる。我々はそこへ奇襲をかけることとなる。敵兵は射殺、もしくは捕虜とし、貴族は捕縛しろ。」


「「「はっ!」」」


『総督、まもなくウィンチェスター家領地です。』


「さて、まもなくだ。」


高度1000メートル以上の空を飛ぶCH―47チヌークは着地する様子がない。


「な、なあカオル。このヘリは着地しないのか?」


俺の隣に座るセニアはこの状況に緊張しながらも質問をぶつける。

以前ヘリに乗ったことのあるセニアはこの空飛ぶ乗り物は必ずしも地に足をつけるものだと認識したのだ。しかしこの機はいっこうに着地する素振りを見せない。まもなく敵地だというのに。


「当たり前だ。今回は着地しない。」


「え?。だったらどうやって領地へ入るのだ。まさかここから飛び降りる気か?」


ハハハッと軽口を叩きながら冗談を吹かしてくる。そういえば伝えてないな。飛び降りることを。


「そうだが?」


「・・・」


セニアが笑顔で固まる。それはそうだ。冗談かと思っていたら実際は本気で飛び降りると知ったらその表情するよね。


すると機内に赤ランプとブザーが鳴り響く。パトランプのような深い紅色のランプが回転し、耳障りなほどの高音のブザーが耳を掻き乱してくる。

セニアはおもわず驚き、耳を両手で塞いでしまった。


(・・・これはなんだ!?)


なにかの警報だろう。だが機内にいる兵士やカオルは慌てる様子は見られない。


『レッドランプ始動!システムオールグリーン!後方ハッチ、開きます』


機内に肌寒さを感じさせる旋風が迷いこむ。突風のような凩だ。どうやら、後ろのハッチが開き、徐々に外の景色を映し出す。


「これは?」

ここから飛び降りる!お前はケリーと一緒にいろ!」


「と、いうわけだ。動くなよ、騎士さま。」


いきなりケリーが後ろに周りを腹部や肩部になにかを繋げている。


2人羽織のように密着しつつベルトで繋がれているセニアは驚愕に包まれる。これからなにが起こるのだろうか


するとどうだろう。自分と同等の装備を身につけた兵士がなんの躊躇いもなく、水平に定められたハッチから次々と身を投げだしていく。

この光景を始めて見るものは頭がイカれたのか、自殺志願者なのか、そのどちらかしか選択肢がない。まさにセニアはそう思議している。


「さて、次はあたしらの番だ」


「え?ちょ・・まって・・・いや・・あの・・うわぁぁぁぁ!」


順番が回ってきて驚きを隠せないまま、ケリーに無理矢理押し出される。


気づいたときには空を鳥のように飛んでいた自分がいた。




/※/




「まったく。いきなり押さなくてもいいだろ!」


「いや~。やっぱり気持ちいいな。」


パラシュートを展開してなんとか地に着陸した。


セニアには話していなかったが今回の奇襲作戦はパラシュートによる落下傘部隊の出番だ。


落下傘部隊と言えば旧日本軍のパレンバン攻略時の落下傘部隊だよな。

あの時の栄光を語り繕った軍歌『空の神兵』をよく下校帰りに口ずさんで周りから引かれたのはいい思い出だった。


「さて、悠長出来るのはここまです。我々はすでに敵の領地にいるのですから。」


ようやくここで武蔵が出てきた。いつ登場するのかと思って待っていたからな


「まずは作戦だ。ここらは高い草木が多いために身を隠すのには最適な環境だ。これに乗じてウィンチェスター家まで行く。道中の敵兵は無力化しろ。いいな?」


「「「はっ!」


中隊を組んで前進する。中央にカオル、武蔵、セニアをいれることで守り、ケリーがその指揮をとる。


すでに先頭の偵察隊は巡回兵を始末してどんどん先へ進んでいく。どうやらクーデターを阻止することは出来そうだ



/※/




「さて、今日皆さんに集まったのは他でもない」


ここはウィンチェスター家の屋敷の大広間。そこには公国の名高い貴族達がテーブルを囲うようにして座っており、これからことを議論しようとしている。


「ウィンチェスター伯爵、あの女王のことですか?」


「そうだ。あの女のせいで我々は動ける範囲は減り、脱税もいずれ公にされる危険も生じた。」


「それは私もです」


「私も」


次々と同感していく貴族達。彼らは国民主権の政策を実地するアリアのせいで懐に入る財産が少ないのが気に入らないのだ。


「なぜ、我々のような高貴な者が姓もない奴等のために汗をかかなければならない。」


それが根掛かりなのだ。国民はいわば我々を生かすための労働者。情けをかけることなく、金を蝕めばいい。なのにあの女は国民のためと名君気取りで国を動かしている。いくら先代国王の妻だからといって我慢ならない。


それが彼らの本心だ。


「ここにいる方々は私の高潔ある計画に賛同してくれた同士達だ。」


「計画?」


「はい。まず一週間後に開かれる女王の誕生パーティーでは女王自らが城下町を参列し、国民と戯れます。そこへ暗殺者を送り込みます」


「しかし、護衛にやられるのでは?」


「それは想定済みです。暗殺者と護衛が戦闘中に本命を差し向け、女王を殺す。当然、暗殺者は捨て駒。責はなにも知らない暗殺者が被るので我々に火種が飛んでくることはありません。」


「おおっ!」


「さすがですぞ!」


ウィンチェスター伯爵の計画に皆が驚喜する。これならあの忌々しい女王を消すことが出来ると信じていた。


彼らが現れる前までは


タァーン!


どこからか長音の物音らしき音がした。それは南の方向。この家の真正面からだ。


「何事だ!」


他の貴族達が騒ぎ始める。すると、そこへ一人の配下である騎士がやって来た


「も、申し上げます!何者かがこの屋敷を襲撃!甚大な被害が出ている模様です!」


「なんだと!?だったら部下を動員させろ!我々の目障りとなる存在は潰せ!」


「そ、それが・・・。部下を向かわせたところ・・・」


若い騎士の頬を流れるように冷や汗が伝い、顎へと集まり、やがて水滴と化した。


そして彼は重々しい口調でこう言い放った


「全滅しました」





/※/




「あれがウィンチェスター家の屋敷か。ずいぶんと大きいな」


「ウィンチェスター伯爵は主に貿易を担当している。懐に札束があっても不思議じゃない。」


落下傘部隊、つまりは奇襲部隊のカオルらの周りにはおびただしい数の死体が散乱していた。それは領地に侵入した族を討伐しようと勇敢に戦い、散った裏切り者の哀れな末路だった。


「たくっ・・・。もっと骨のある奴はいないのか。」


まだまだ弾薬が余っているM249を持ちながらを唾を吐き捨てる。ケリーはあまりの弱さに落胆して岩に腰かけるほどの余裕さを見せていた。


「それでどうする?今から乗り込むか?」


「いや、迂闊に入ると待ち伏せを受ける危険がある。ここは向こうからこちらに出てきて貰おう。」


「なら呼び鈴はあたしに任せな。」


自ら呼び鈴を鳴らすというケリー。なんだがカオルらは嫌な予感がした。


「おらーー!!さっさと出てこいやぁーー!!!」


ガガガガガガガガガガガガガガガガ!!


屋敷に向かって乱射する。凄まじい弾幕は屋敷全体に行き渡り、窓ガラスを撃ち破り、風穴を空けていった。


「バカヤロ!撃ってどうする!捕まえるのが目的なのに殺したら元も子もないだろ?」


常識はずれのケリーを押さえ込む。危ない危ない。


「貴様ら!ここをどこだと思ってる!ドレイク公国が代々続く名家、ウィンチェスター伯爵の屋敷であるぞ!」


呼び鈴の効果が発揮した。一応良かった良かった。


やけに豪華な服装をした老年のジジイが出てきた。すごいご立腹のようだ。


「ウィンチェスター伯爵!我々は女王陛下より家宅捜査を命じられた。貴殿がクーデターを画策していたと知ってな!」


(なっ!?どこでそのことを!あの計画は極一部の人間にしか話していない秘匿情報のはずだ!)


ウィンチェスターは激しく狼狽えた。クーデター計画を知るはずのない小娘がなぜ、知っているのか分からなかったからだ。


それはカオル達の働きによって明らかとなったことなのを彼は知るよしはなかった。


しかしウィンチェスターは激しく動揺した自信の心情を抑え、冷静に振る舞った


「クーデター?そんな国の恥となり、裏切り者の烙印を押されるようなことをするとでも?私は誰よりも国を愛し、女王を愛しているのです。こんな愛国心を持つ老い耄れに手を出す貴殿方が国の恥ではないのですか?」


余裕の立ち振舞いだ。だが、セニアに代わってカオルが前に出てくると顔付きが変わった。


「小僧、何者だ。」


「フリーデン国総督、大場 カオルと申します。」


「ふん!同盟を結んだ国の王がなぜここへいる?」


吐き捨てるかのような荒々しい口調だ。彼は警戒している。帝国の軍隊を意図も簡単に撤退させる国の王が眼前にいるからだ。


「こちらのセニア同様、貴殿の屋敷を調べるためです。我々の考えでは貴方と同じくクーデターを企んでいる輩がいるのでは?」


「口の聞き方に気をつけろ、クソガキ。先程も言ったように愛国を為す私がなぜクーデターなど画策しなければならない。そもそも、証拠もないのに犯人扱いとは・・・」


「証拠ならある。」


その台詞にウィンチェスターは口が止まる。


するとカオルは懐からボイスレコーダーを取り出した。

カオルは皆に聞こえるように音声を最大にしてスイッチを押した。


『それでウィンチェスター伯爵。クーデターの日は?』


『ふふふっ。決行日はあの女の誕生パーティーの日にち。まずは反女王派の貴族達を集めて協力を要請しよう。』


『ほう、それでどう殺るのですか?』


『それは後日、私の屋敷でだ。あそこなら他人に聞かれることもない。なに、族の侵入は配下の者が受け持つので気にせずに』


『なるほど。では私はこれで』


これで会話は途切れる。


一通りの会話の後には証拠を突きつけられ、余裕の表情が消し飛んだウィンチェスターがいた。


「これは部下が屋根裏から録音したものだ。見事に重要な部分だけ録音出来たのは幸いだ。さあ、これでもしらを切るつもりか?」


「くっ!・・・・バカな・・・」


ウィンチェスターは膝を屈した。完全なる敗北。彼を地に屈させるには充分だった。


「直ちに全員捕縛しろ!例外はない!」


カオルの命にて反女王派のクーデターは未遂に終わった。

ウィンチェスターを主犯とし、画策していた反女王派は全員が逮捕され、貴族の権限を剥奪され後日裁判を執り行うとのことだった。









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