空より地を制する猪 ~Boar to win the earth form the sky~
――ザー ――ザー――ジッ
『こちら本部HQ―9。そちらの様子は?』
「こちらスカイモール2。現在、目的地に向かって飛行中。」
『了解。そのまま進んでターゲット撃破だ。健闘を祈る』
「了解。通信アウト。・・・ふぅ~。」
溜め息とともにヘッドホンを外す。エルンストは通信装置をすべてOFFにして操縦捍の操作に集中した。
今回の作戦は魔物の生息地域の爆撃。なんでも、魔物が1ヶ所に生息している地域を吹き飛ばして欲しいとのことだ。極稀に近況の村を襲撃したりして被害が絶えないらしく、このまま野放しにするとさらに被害が増えるかもしれないので任務を承った。
そんな魔物が住むのはジャングル地帯。公国より南に向かった秘境の地だ。
コックピットから覗く景色は絶景だ。アマゾンのような広々とした熱帯雨林。ギアナ高地のような突き出た高地。その高地には薄く雲が覆い重なるように漂っている。
そんな無人のジャングルの上空を広い翼を広げてひたすら西へと向かう一団の影があった。
「まもなく目的地です。気合いをいれましょう」
エルンストは無線を通して総員に呼び掛ける。ほとんどのパイロットが返答したのに誰か一人だけ返答してない者がいるのに気づく。
「ちょっとハンス大佐。今の話聞いてましたか?」
『ああ、もちろんさね。ちゃんと聞いてたさ』
少し訛ってる変な女性がめんどくさそうに返答してくる。
その直後もバリバリという、なにかを食べてる音がする。コノヤロ、仕事してんのか?と疑問に思うエルンストであった。
「ハンス大佐。もしかして煎餅食べてます?」
『そうさね。海苔煎餅さ。いるか?』
「飛行中なのにどう受けとれと?」
ドスの効いた声で跳ね返す。だがヘッドホン越しの音声は無視してるのか、効果がなかったのか驚かない。
『そう怒るな。あたしが悪かったさね』
「はぁ~。ちゃんと仕事してくださいよね。貴女はこの隊の隊長なんですから。」
返事がないかわりにヘッドホンからバリバリと煎餅をかじる音がした。おそらくこれはイエスというわけだ。言葉に出してないのになぜこうにも意思で会話ができるのだろろか。長年パートナーだったせいなのか。ならば年月とは恐ろしい物だと実感するエルンストだった。
ハンス・ウルリッヒ・ルーデル。それが煎餅食べてる上官の名前だ。世界大戦中のドイツ空軍軍人でヨーロッパ東部戦線において、戦車500両、車両800台を撃破する戦果を挙げた。『戦車撃破王』とも呼ばれ、あのスターリンからは『ソ連人民最大の敵』と恐れられ、ヒトラーからも重宝された爆撃隊のエースだ。
そんなハンスは呑気に煎餅食べてる。エルンストはあまりの悲しさに悲嘆してしまった。
ハンスを支えるエルンスト・ガーデルマンはハンスの相棒として名高き軍人だ。撃墜され命の危機だったハンスを助けた話はあまりにも有名である。
「これより作戦地域に進行する。敵は発見しだい発砲せよ」
『了解!』
彼女らが乗機してるA―10 サンダーボルトⅡの爆撃隊は矢印を描くように編成してる。
世界最強の攻撃機ことA―10サンダーボルトⅡは大型のターボファンエンジンとドループを持つ長スパンの直線翼により低高度低速度域で良好な運動性を発揮し、正確な爆撃を可能とした対地攻撃機だ。
さらにチタン装甲を採用し、エンジン一基でも飛行可能なタフな攻撃機でもある。
A―10サンダーボルトⅡには空対地ミサイル AGM―65マベリック、CBU―87 クラスター爆弾、GBU―12 ペイヴウェイⅡが搭載され、爆撃に特化した装備だ。
『前方に敵複数!』
突如誰かがそう叫んだ。彼女と言う通り、前方の樹木が抜けた場所に動く物体がいた。
「・・・あれはミノタウロスか?」
エルンストは一目でわかったようだ。たしかに牛の頭と巨体な人間が組合わさった怪物はまさにミノタウロスそのものだった。
あちらはこのA―10サンダーボルトⅡが珍しいのか、あるいは敵視してるのか、突然雄叫びをあげた。
「スカイモール3。排除せよ」
「了解」
エルンストの命令に左端を飛んでたA―10がナイフエッジをしながら編隊を離れていく。
『スカイモール3、ミサイル発射!』
左翼のミサイルポッドから別離した空対地ミサイル AGM―65 マベリックは白煙を描きなから空中を滑空してジャングルの緑色に溶け込む。
ドォォォン!
ミサイルはミノタウロスに直撃したようだ。赤い粉塵を撒き散らし、爆炎と黒煙をあげ、森の一角を破壊した。
そしてその天まで昇る黒煙はミサイルの威力を証明してくれる。
「よくやったスカイモール3。全機、これより爆撃空域に入る。敵を根絶やしにするまで攻撃は終わらないぞ」
『了解!』
『了解さね』
並列しながら飛行していたA―10は編成を崩し、各機入り乱れた飛行を魅せる。
各々は敵の拠点の森、木々で覆い茂った辺り目掛けてミサイルや爆弾を投擲していく。
ウオオオォォォォォォ!?
ミサイルを喰らったのか、森の方から魔物の断末魔がこだました。それは彼女ら、爆撃隊への私怨が混じった断末魔だった。
『クラスター爆弾、投下。』
のんびりとしたハンスの攻撃宣誓からのクラスター爆弾。爆弾は一物の固まりから内蔵された多数の子爆弾が広範囲を爆撃していく。
『ほほ~。綺麗な花火さね』
クラスター爆弾が弾ける様はたしかに花火のようだ。幾つもの閃光と火薬の匂いが交わり、花火を連想させる。
すると魔物たちは森を抜けた。見晴らしのいい丘のようだ
木々はなく、腰より低い葦や草花が生え並ぶ森丘へと魔物たちは集まっていく。正々堂々戦うつもりなのかはわからないがこちらとしては絶好の攻撃ポイントだ。
ガガガガガガガガガガガガガ!!
固定武装のGAU―8 30mmガトリング砲が火を吹く。
30×173mmの大型弾丸は宇宙を駆ける流星群の如く、丘上の魔物たちを殲滅していく。毎分3,900発という猛攻たる銃撃は魔物の身体を完膚なきほどに破壊し、紅く妖しい華美を咲かせては散らしていく。
その弾圧的射撃の爪痕はまさしく地獄。緑深い野原は数分前とは豹変し、1面レッドカーペットのような赤面を作り出した。
「ペイヴウェイ投下!」
撃ち漏らしたオーガのような巨人へとレーザー誘導爆弾 GBU―12ペイヴウェイⅡをプレゼントしたやる。
極炎の火柱を立ち上げてオーガは炎の海へと消え、塵と化した。
焼け跡にはオーガの肉塊らしき、炭が残っていた。
と、ここでハンスから通信が入る。
『そろそろ帰還さね。ここで退くよ』
「え?でも敵は・・・」
『もうあたしが片付けたさ。もう一人も残ってないさね』
いつのまに倒したのだろうか。すでに他の草原は焼け野原と成り果て、見るものを驚嘆させる。
これが『戦車撃破王』の由縁なのか?と思い、改めて見直したエルンストであった。
『ほら、ぐずぐずしないでさっさと退くよ。ほらエルンスト、置いてくさね』
「わかってますよ。置いていかないでください。」
五機の猪は夕陽が沈みかけた赤き空を滑るように基地へと帰っていった。




