国境沿いの英雄達 ~Heroes along the border~
PALADIN
それは中世フランスの物語に登場するシャルル・マニュー大帝にしかえる12勇士のひとり。
そのパラディンの名を引き継ぐ自走榴弾砲のM109A6が己の巨体を砂漠に君臨しながらキャタピラを前へ前へと進み行く。
半世紀近くかけて開発された自走榴弾砲 M109A6は155mm 口径という戦車にも見られない大口径の持ち主だ。さらに弾道コンピューターと自動射撃位置航法システムが組み合わされたAFCS ⅩⅩⅡ(自動射撃統制装置)を採用。老練かつ強力な自走榴弾砲と化したのだ。
ドォーーン!
主砲を帝国側に向けて砲撃する。砲弾は宙を滑空して砂漠の土砂のなかへと深く入り込み、辺りの人間を巻き添えにしていった。
「ぐわぁーー!!」
「あ、足が!!」
付近にいただけというのにその尊い命を散らしていく。だがM109A6は容赦なく、かつ躊躇なく砲撃を続けていく
その他の戦車である10式戦車、M1A2などもM109A6に続いて砲撃する。
「今が好機!全軍、奴等を追い込め!」
サラの発令にそれぞれが迫撃準備に取りかかった。それにかわって帝国騎士達は初めて見る鉄の怪物に恐れを抱いて腰を抜かす。中にはあまりの恐怖に下半身を濡らすものもいた。
砲撃するM109A6に駆け寄るケリー。その様を見てるのはキューポラから上半身を覗かせるミハエルだった。
「たくっ。おせーぞ、ミハエル。」
「すまない。オレの部下のエルンが遅れてな」
「違いますから!貴女が遅れたんです!」
遅れたことをエルンに擦り付ける責任転嫁っ娘ことミハエル。
本名はミハエル・ヴィットマンといい、第二次世界大戦のドイツ第三帝国親衛隊員。武装親衛隊の第1SS装甲師団ライプシュタンダルテ・SS・アドルフ・ヒトラー (LSSAH)に所属しており、戦車138両破壊した経歴を持ち、世界でも有名な戦車兵でもある。特にイギリス戦車部隊を単騎で壊滅的被害へ誘ったヴィレル・ボカージュの戦いは有名だ。
「それで援軍の数は?」
「戦車15両、装甲車15両で合計30両だ。」
「それだけ来りゃ、充分だ。そこをどけ」
彼女が居座るキューポラから無理矢理ミハエルを退かす。突然のことに躊躇いながらも疑問をぶつける。
「なんだよいきなり」
「それ、M2だろ?あたしに撃たせろ」
「バカ言うな。これはオレが撃つんだ」
「いいや、あたしだ。あとお前、エーリヒとキャラかぶってんだよ。」
「な、なにを言う!」
「だってさ、どっちも自分のこと『オレ』って言うだろ?しかも髪型も似てるしな。」
「こ、これは偶然だ!故意ではない!」
「はいはい、いいからそこ退きな。」
特に気にしてる部分を指摘されたのか、もうキューポラことは忘れてしまった。
ケリーはM2重機関銃のコッキングレバーを引くと逃げ行く帝国騎士らに向かって制圧射撃を行使する。
M2重機関銃の鉛弾は弾幕を張り、数十メートル先の人間の身体へと襲いかかる。鎧を貫き、皮膚を破り、内臓を破壊していく。
「はっはははー!!」
ここでもなにかに酔狂したかのように狂い出す。この光景を見慣れているサラはおもわず嘆息した。
「それよりもあのゴーレムをなんとかするぞ。オレ達に対抗しようとしてるのか、こっちに向かってきてるな」
「気をつけな。あいつは弾丸が効かねぇ。RPGでも無理だった」
「バカ言ってんじゃねぇ。こいつを何だと思ってる。おい、エンス。」
「はい!総員、ゴーレムに主砲構え!」
ゴォンとその砲身の先をゴーレムに向けて合わせていく。やがて、標準が合ったのか停止した。
「主砲、てぇー!」
エンスの活令に一斉にその砲身から火が吹く。命中したかと思えばゴーレムの胸部を破壊して石の破片をぶちまけた。
「おおー!」
「まだまだぁ!!」
その砲撃は止まることなく石の巨人へと砲弾の雨を降らしていくのであった。
/※/
「あっ!そこに敵が!」
「・・・排除する」
「ちょっと!ボクの獲物を盗らないでよ!」
ギャーギャー騒いで狙撃している3人衆。女3人寄れば姦しいとはよく言うが、これではただやかましいだけだ。
「・・・どれくらい殺っただろう」
「ざっと見て50人は殺ったと思うな」
「・・・そりゃマシンガンだから」
カルロスはM249で狙撃しているのでシモのモシン・ナガンM2とは連射力も装弾数もけた違い。もちろん効率が良い狙撃が可能だ。
だが、
バスっ!
「・・・命中」
正確さでいえぱシモが圧倒的に上をいく。
スコープを付けての狙撃と無しでの狙撃、どちらが優秀かは一目瞭然だろう。カルロスは弾数と連射、シモは正確さを売りにしてるようなものだ。
「もう30分は経ちました。そろそろ戦車隊が来ると思います」
「だったら、とっとと来てほしいね。だってゴーレムがこっちに来てるもん」
カルロスの言う通り、1体のゴーレムがこちらに向かってきてる。1歩1歩踏み締める度に辺りに軽い地響きが襲う。この防衛線を突破される訳にはいかない。
タタタタタタタタタタタタタタタッ!
ゴーレムに対してM249を撃ってみる。しかし、5,56mm×45mm NATO弾はその鋼の身体を貫通するどころがヒビを与えることさえ出来なかった。
「ちっ!報告通り、魔法で強化されてるってわけか。こりゃ戦車隊を待ったほうがいいね」
「・・・だけど、それだと防衛線を突破される」
「ど、どうします?このままでは」
なす術がない。それは屈辱的でもあり、落胆たることであった。
黙りとした空気が流れる。だがその沈黙を破ったのは以外な人物だった?
「・・・私がやる」
「ヘイヘ少尉!?」
シモは愛銃であるモシン・ナガンM28をミルフィに預けてはその横、バイポットを展開していままで置いてあったM82 バレットをコッキングする。
「・・・これなら打ち破られる。あの胸の赤い核を狙う」
迫り来るゴーレムの胸部、鳩尾部分に整合されたゴーレムの心臓ともいえる核へとバレルを差し向ける。その雄々しい頭角が怪物の証を物語っていた。
「・・・援護をお願い」
「もちろんとも!」
ゴーレムとともに迫り来る敵兵を殲滅させるためにカルロスが足止め役を買ってくれる。
一方、ミルフィはシモを見る。ミルフィの眼に映えたのはいつになく真剣なシモの表情だった。
「・・・距離およそ200フィート。風向き、西南西へ5m/s。視界良好。安全装置解除。コンディションオールクリア。目標を・・・」
普段の舌足らずな口調のシモとはまるで別人のように流暢な口調だ。しかも体感だけで風向きや風速、距離を特定してる。
これでは観測手の自分の立場がないではないかとミルフィが思ったのは余談であった。
「・・・排除する」
ドォン!
凄まじい衝撃と轟音がシモを襲う。それはカルロスとミルフィも同様だ。あまりの轟音に耳を塞ぐほどに。
「やった・・・!」
轟音のなか、そんな風にミルフィが呟いていたことだけは聞こえる。
その眼前には、先程までの堅骨たるゴーレムが核を破壊されたことによって全身が崩れ落ち行く様だった。その体片は辺りの騎士を巻き添えにしていき、やがて騎士達は瓦礫の底へと沈んでしまった。
「バ、バケモノだ」
わずかに生き残った騎士達はゴーレムを倒してしまったシモ達に恐怖する。皆、武器を捨てて来た道を引き返していった。
「逃がさないよ!」
カルロスは追い討ちをかけるようにM249 MINIMIを発砲していく。
だが、肝心のシモは、
「・・・疲れた」
M82 バレットを投げ捨てて眠るようにその場に倒れた。大空を仰向けで眺めるその顔は空よりも澄んだ笑顔だった。
/※/
「はなてぇー!」
ドォン!
防衛線第2エリアでのゴーレム撃退戦。PALADINの猛攻たる砲撃にゴーレムは崩れ落ち、帝国騎士は塵と化す。
「逃げろぉ!」
「撤退だ!一時撤退して体勢をととのえ、ぶおぉ!」
撤退を起こする者は砲弾が生み出す火柱に包まれ、その身を焼け焦がすこととなる。すでに火傷を負った者がうずくまり、辺りにニンニク臭が立ち上る。
あまりの刺激臭に鼻を摘まむ。
「くせぇな。鼻がもげそうだ」
ミハエルは砲塔に座り、ただ目の前の戦況を眺めていた。
その横では、
「はっはははー!!」
やはり酔狂したかのように撃ちまくるケリーの姿があった。
ケリーが戦闘狂なのは知っていたがまさかこれまでとは、と思うミハエル。彼女自身も戦いは好きだがこれほどではない。
ガチャガチャ
「あっ、また弾切れか。おい、弾薬」
「もうない。それで最後だ」
「ちっ!。ならどうすんだよ。ここで楽しみが奪われるのをただ指をくわえて待ってろというのかよ」
「それしかない。あと、そろそろその性格を治せ」
とはいえ、ケリーのおかげで敵の数が減ったことに変わりはない。
弾薬の急激な消費に目を瞑ればの話だが。
「ミハエル少尉!通信が」
砲身操作の戦車兵がミハエルに無線機を渡してくる。その無線機に耳をあて、しばらくの間のち、こちらへと振り向く。
「こちらも撤退する。全軍、本部へと帰還だ」
「えぇ~。まだ殺りてえよ」
「文句は総督に言え。ほら、」
「そーとくの命令なら仕方ないな。ほらとっとと退くぞ!」
カオルからの通信とわかるとコロッと態度を変えるケリー。ミハエルは呆れながらも全軍への撤退命令を発した。
長きに渡る砂漠での防衛戦はこうして幕を閉じたのだった。
/※/
「我が軍は負けたのか・・・」
「はい・・・。ゴーレム、バルテズの竜騎士隊は全滅。今残ったのは我々だけです。」
帝国領地内の一角。そこには戦いで生き残った騎士達とライガがいた。数少ない騎士達は皆男泣きしており、それはライガも同様だった。
「そう気を落とすな。今回の失敗は私にある。」
「そんな!ライガ様の指示は完璧なはず!今回の責は我々が!」
「いや、相手の力を見抜けなかった私が敗因だ。だが問題はこれからどうするかだな」
「帝国へ戻っても意味はありません。失敗した我々は国の恥として処刑されるでしょう・・・」
その部下の一言に生き残った騎士達は黙りと口を閉ざす。
それを見かねてかライガは驚く提案をした。
「ショウキ。」
「はい、なんでしょう」
「私の首を斬れ。それが帝国に対する処遇だ。」
「!?」
突然何を言うかと思えば狂言を吐いた。つまり、彼はここで命を捨てると申したのだ。
「ライガ様!」
「お前らは公国へ投降しろ。少なくとも帝国に帰るよりはましだろう。」
「しかし、ライガ様が・・・」
「敗因はこの私だ。部下を大半死なせた上に自分だけのうのうと生きたいとは思わんわい。」
「・・・」
「さて、ショウキ」
「・・・はい」
ライガの部下である己の腰に収めている長剣を抜く。それに応えてか、ライガは座りながら首を前にうずまく。
そしてショウキは剣を握る手を震わしながら構えた。
「ショウキよ、案ずることはない。来世でまた会える」
「・・・はい」
「ふっ、こうして最愛の部下に斬られるのも悪くはないな」
「・・・ライガ様は、」
「ん?」
「恐くないんです?死ぬのが。」
「恐いさ、もちろんな。」
「だったら・・・」
「だが、自分の信念から逃げるのはもっと恐いさ。大切なものを捨てるような気分だからな。」
「・・・すいません、不甲斐ない僕のせいで」
「いや、お前のせいではない。さあ、一思いにやってくれ」
「うっう・・・ううう・・」
ショウキは涙ながらも剣を高く振り上げ、ライガのうなじ目掛けて降り下ろす。
「ふぅ~。今夜は月が美しい・・・」
それが名将ライガの最期の言葉だった。
/※/
「よくやってくれた諸君!」
フリーデンの基地では戦勝を記念してパーティーが開かれた。と、いってもいつものようにさわいでいるだけだが。
「乾杯!」
「はっはははー!!酒を飲ませろ!」
やはり酒飲みが基本だ。やっぱりこいつらはこうでなきゃな。
行儀悪い兵士達を見ていてもなんだか温かい気持ちになる。
「カオル様、酌を」
武蔵が酌を注いでくれる。俺はビールよりは日本酒のほうが好きだな。
「今日の戦闘はハラハラしたな」
「はい。戦車隊が来たのが勝因でしたね」
あの時、戦車隊が来なかったら負けていたかもしれない。今回の戦績をあげたものは戦車隊なのでは?と思案し始める。
「ということはオレがMVPか?」
ここでミハエルがビールジョッキを片手に会話へ混ざってくる。彼女の言う通り、今戦での戦績は戦車隊を指揮したミハエルだろう。
「そうだ。代わりと言っちゃ何がいい?」
「褒美か?そうだな・・・」
深く悩み始める。ミハエルのことだ。休みか、食べ物か、あるいはなにか欲しいものかも知れん。
「ならこれでいいや」
カオルの視界がミハエルで埋め尽くされる。それは彼女が眼前に迫っているからだろう。ものの数秒後に初めて気づいた。キスされてる。唇に温かく柔らかいナニかが触れているのがいい証拠だ。
「なっ!?」
ここでようやく口が開いた。あまりに突然のことだったので俺を含めて武蔵や他の兵士たちも静止していた。
「オレのファーストキスやるよ。これで満足だろ?」
赤く頬を紅潮させながら唇をペロッと舐める。年相応の娘なのにどこか妖艶な雰囲気だ。
「さーて、明日も早いしもう寝るか」
ビールをイッキ飲みしてジョッキを片付けて逃げるように去っていく。
「え、え~と・・・」
そのあと、皆がやけに不機嫌だったのは当然のことだった。




