屈しない戦士達 ~Warriors not succumb~
Gerber Mk9は護身用のナイフとは根本的に使用法がう。そのナイフの使い方は人を傷つける、すなわち殺人専用の特殊ナイフだ。
「おらぁ!」
腹への一突き。騎士が斬りかかる前に肝臓辺りの腹部へナイフを押し込む。
「ぐ・・・!」
かすかな呻き声をあげ、苦悶の表情でケリーを睨み付ける。その苦情に、
「へぇ~。いい死に顔だな」
悪魔のような微笑みを浮かべてナイフで抉りひき裂く
Gerber Mk9の刀身にはギザギザとした鋸が備えられている。この鋸が血肉を切り裂く要となるのだ。
「へへっ。ちょぴっと血が付いたが・・・まあ、いいか。」
その立ち振舞いには敵味方さえも息を呑み、恐れる。彼女は戦っているのではない。殺人を楽しんでいるのだ
「さ~て、もういっちょ!」
握る手まで赤く染め上がってもその刃は止まることない。
/※/
「来ましたよ!」
「・・・排除する」
M82 バレットの引き金を引く。
こちらの狙撃ポイントがバレたのか続々とこちらへと向かってくる。その騎士達を一人一人正確に頭部を破裂させ、足止めしていく。いや、死に絶えた今、足止めではないだろう。
しかも、人間相手にM82 バレットは充分すぎる。そもそもM82 バレットは対物狙撃銃、つまりは装甲車などの破壊目的に作られた銃だ。こんな中距離の相手に撃っても宝の持ち腐れだ。
さらには反動も強いために愛銃のモシン・ナガンM28よりも連射力に欠け、殲滅に時間がかかる点も発覚した。
「ああ!今度は2時の方向からも来ましたよ!」
「・・・辛い」
さすがのシモも大軍には敵わない。あちらこちらから来る敵兵を片付けるには時間と弾薬が必要だ。
「うわぁーー!これならマシンガンの1つや2つ持ってくればよかったー!!」
後になって後悔する。しかし、こんな戦場で悔いても仕方がない。まずは目の前の敵を全滅させるのが先決だ。
「距離100!敵数およそ20!」
「・・・わかってるから叫ばないで」
イラつきながらも的確な射撃を魅せる。だが今となってはその魅物はなんの役にも立たない。今必要なのは速さ。
ドォン!カチッ
「・・・弾切れ」
装弾数10発という少なさなのでこう頻繁に弾切れが発生する。
すぐさま、旧マガジンを排出し、側に置いてある新しいマガジンを入れコッキングレバーを引く。すると、新しい弾丸は薬室へと送り込まれ再装填された。
ドォン!
弾幕を途切らさないように再装填と同時に狙い撃ち、応戦する。
しかし帝国軍はいっこうに減る様子がない。むしろ増えてるようにも見える。
このままでは数に圧倒され殺られる。
タタタタタタタタタタ!
と、ここで断続的な発砲音がシモとミルフィの耳にも入る。その弾撃はシモ達に迫ろうとした帝国軍を完膚なきごとに叩きのめす。
M82 バレットの単発射撃とは明らかに違う銃撃。
その発砲音は後ろから聞こえた。
「あちゃ~。苦戦してるねぇ~。」
そのベレー帽に白い羽根に赤毛の髪。カルロス・ハンコック見参!といわんばかりな登場だ。
「カルロス軍曹!」
「・・・女狐」
「君はその呼び名でしかボクを認識しないのかい?でも君にしてはよくやったと思うよ」
茶化しながらもシモの抵抗を労るカルロス。その手にはM2重機関銃・・・ではなくて、スコープ付きのM249 MINIMIが握られていた。彼女は機関銃にスコープをつけるという荒業好きな少女であることを証明している。
さらにその肩にはライフルケースを担がれている。
「たくっ・・・目を覚ましたらガムテープでグルグル巻きにされたのは驚いたよ。君の仕業だね?」
「・・・そんなの知らない」
「惚けても無駄だよ。見張りの子達が君がボクのテントに侵入してるのを目撃してるからね。言い逃れは出来ないよ」
「・・・」
「やれやれ、だんまりかい?なら・・・」
タタタタタタタタタタ!
「この戦いが終わってからにしようか、尋問をね。はいこれ」
カルロスは肩に担いでいたライフルケースをシモに投げ渡す。
「・・・これは?」
「そのバレットじゃ、やりづらいでしょ?だから持ってきたよ。」
がさがさとライフルケースを開けていく。そこには、
「・・・これ、私の」
シモの愛銃モシン・ナガンM28だった。
「君の相棒だろ?テントの隅っこに置いとくなんて可哀想じゃないか?」
「・・・ありがとう」
「べ、別に君のためじゃないからね!」
「なんでそこであざとくなるんですか。」
カルロスは匍匐姿勢になるとM249 MINIMIのバイポットを立てて狙撃態勢になる。
そして、そのスコープの照準を合わせ、
タンッ!
撃つ。
タタタタタ!
立て続けにフルオートでの狙撃は命中率は下がるものの、敵を足止めするには最適だ。ベルトマガジンが吸い込まれ、排莢口からは薬莢とそれを繋いでいた金属破片が飛び散る。
「ここはあの敵達を倒そう。まだまだ敵は多い。しかもゴーレムもいるからね。君の腕の見せ場だよ」
少し小高い砂山に二人のスナイパー。『白い死神』と『白毛の戦士』はお互いの腕を認めながらも撃ち続ける。
/※/
あちこちから様々な発砲音が入り乱れる中、後衛本部のテントではその戦いをじっと見つめている者がいた。
「戦況はどうだ?」
カオルは無線機を操作する兵士達に問う。
「苦戦中です。各方面の防衛エリアに敵が迫ってきてるとのこと。特に、第2エリアへゴーレムが多数接近してます」
「やはりゴーレムが厄介だな」
「弾丸は無効。せいぜい足止めで手一杯らしく、戦車隊を待ち望んでいます」
「武蔵、戦車隊の到着は?」
「およそ、30分後です」
「結構かかるな・・・。それまで耐えてくれ・・・」
カオルは仲間達のいる方角を向き、心から祈る。
/※/
「おらぁ!」
敵兵の右脇腹を一閃。内臓がかすかに見えるがお構いなしに再び刺す。
「ハァハァ・・・何体ぶっ殺したんだ・・・?」
ケリーの周りには砂と血に埋もれた屍が散乱していた。すでに息は事切れてるが、まだ生きてる者もいる。そんな仲間の遺体に気にもせずにケリーに斬りかかる。
「死ねぇ!」
縦に振り下ろしてくる騎士。そんな騎士相手にケリーは、
「甘い!」
躊躇なく鎧兜を潜り抜けて喉へと深々と刺しこむ。刺された騎士はダラーンと手足の力が抜けて死に、その全体の重さはケリーに加担される。
「ぺっ」
唾を吐き捨てながらその騎士からGerber Mk9を抜き取り血払いする。
先程までの威勢は消え失せ疲労が坦々と襲い、思うように身体が動きにくくなる。
近接戦闘を開始してからすでに2時間近く経つ。そろそろ疲労がピークに達しているところだ。
「へへ・・・」
ふらふらとした足取りで敵を見定めるも、陽炎で視界がボンヤリしてる。
「ケリー伍長!」
ここでサラが救援に入る。ケリーが暴れたおかげで敵の数が減り、移動範囲が広まったのだ。
「なんだサラか。どうした?」
「まもなく戦車隊が来ます。ここはひとまず撤退を!」
「撤退、だと?」
『撤退』。それは彼女が最も嫌いなことである。撤退するよりは前進するほど嫌いなほどだ。
「いやだね。撤退ならお前らでやれ」
「ですが!」
するとサラに寄り添う部下の腰に収めている日本刀を手に取り抜き放つ。
「伍長、なにを!!」
「あたしはな、撤退するぐらいなら敵と道連れする性なんだ。」
そう言うと日本刀を携えたまま敵兵に向かって走り出す。その唐突な動きには全員が遅れ、なす術がなかった
「サラ少佐、どうなさいます!」
「まったく・・・あの方には困ったもんだ。総員!」
「「「「は、はい!」」」」
「今からの行動は自己判断に任せる!自分が最善だと思う行動をしろ!」
「「「「へっ?」」」」
「では諸君、健闘を祈る!」
その言葉を最後に着剣したHK416でケリーの後に続く。残ったのは呆然としている兵士達だった。
/※/
どれくらい時間が経ったのだろうか。チラッと腕時計を見てみると十数分しか経ってなかった。体感的には一時間ほど経った気がする。
「死ねぇ!」
相変わらず敵の数は減ることはない。向こうはどのくらいの戦力なんだと質問したいほどの数だ。
日本刀の銀色の刀身は血で真っ赤に染まり上がり、立派な凶器と化してる。
ザシュ!
騎士の首が斬られ、跳ね上がる。斬ったのはケリー。首はコロコロとボールのように転がっては見るものを吐き気て充たす。
「ふぅ~。サラ、何人殺った?」
背中合わせに奮闘してるサラに討伐数を聞く。そのサラの銃剣どころが、銃全体が鮮血で施された。
「15、6人くらいかと。伍長は?」
「さあな。覚えてねぇよ」
「数えきれないほどなのか、単に数え忘れたのか、どっちですか?」
「40ぐらいからもう数えるのが面倒でな。」
戦闘中なのに互いに茶化しながら敵を牽制する。二人とも身体は汗や返り血でベタベタだが、その目は闘志でみなぎってる。
「やべーな。いよいよ頭もヤられたか敵が増えた気がする。」
「私もです。」
「なら退けよ。死にたくないならここからおさらばしろ」
「嫌ですよ。仲間にも帰れと言ったのについてきたんですもの。私だけ帰るわけにはいきません、」
「けっ!強情な奴等だな」
「あなたもでしょう?」
ドォーーン!!
と、ここで少し離れたところで火柱と爆発が起きる。その着弾地点の周りには直撃したと思われる騎士の四肢が転がってる。
「やっと来たか」
「ええ、やっとです。」
キュラキュラキュラという変わった音。この世界の人間ならまず耳にしない音だ。
『よう!野郎ども、待たせたな!』
スピーカーで変声された機械仕掛けの声だ。その発声源は戦車からだ。
「おい、なんだありゃ!」
「バケモノだ!」
敵の喚声を掻き消すようにキャタピラの音が砂漠へと響き渡ってゆく。




