砂漠の遊戯 ~Play of the desert~
「ライガ様、まもなく国境です。」
「ふむ・・・。この目で公国の同盟国とやらを見てみるか」
「聞けば奴等は摩訶不思議な武器を使う手の者達と聞いております。」
「摩訶不思議な武器か・・・。相手がどんな強者だろうと本気で挑むのみ。それが帝国騎士だ」
馬に乗り、果てなく続く砂漠の地平線を眺めては決意を改めるライガであった。
/※/
「あれがゴーレムか」
公国の国境沿いに陣営を張るフリーデン軍。その一角のクレイは双眼鏡を片手に帝国軍の行く末を見ていた。
行進している帝国軍の後方に石の怪物、ゴーレムがその大木のような足を踏みしめて突き進む。一歩踏む度に砂がまきあがり、ビックフットみたいな足跡を作り出す。
「報告どおりだな」
「はい、やはり総攻撃を仕掛けてきましたね」
帝国軍は全軍での総攻撃で侵略する気か。今ここで食い止めないと後々面倒だな
「M777での砲撃は?」
「奴等は昨日とは別の道、つまり迂回ルートを通ってきたのです。そのせいで砲門は移動できないために砲撃は不可能です」
「ちっ!なかなかやるな・・・。あっちの大将の顔を拝んでみたいな」
クレイはそう吐き捨てるように愚痴を漏らす。これには部下も同感だった。
「まったくです。今回は砲門を使えないので主な戦闘は銃と戦車。戦車はいずれ来ます。それまで私達が持ちこたえなければなりません。」
「だな・・・。総員に通達。これより迎撃戦を行う。全員準備が終了次第、攻撃を開始する」
「了解!」
/※/
「そろそろ国境だな」
「ああ・・・なんだか恐いな」
帝国軍の行進隊の傍らの二人の騎士は不安がり身震いする。彼らは経験は浅いが国のため、国王のためと忠義をもつ立派な騎士だ。そんな彼らが恐れているのはある国だ。
「おい、あの噂聞いたか?」
「ああ、あれだろ?公国の同盟国のことだろ」
そう、フリーデンのことだ。国の名までは知らないがえらい強い国とだけは耳にしたことがあるのだ。
「なんでもほとんどの仲間がそいつらに殺られたらしい。いずれ俺らもそうなるんじゃないか?」
「やめろよ。縁起でもねえこと言うな」
「だけどよぉ・・俺はまだ死にたくな」ブジャ!
「・・・え?」
何が起こったのだろう。たしか彼は友人と話していたのにその友人が視界から消えた。いや、消えたというより吹き飛んだのほうが正確だ。なぜなら彼の腰から下の下半身だけがその場に転がっているからだ。
「う、うわぁぁぁぁぁぁあ!」
おもわず絶叫する。
ほかの騎士達も騒ぎを聞きつけ、無惨な下半身しかない屍を見て恐怖に染まる。
「なんだこれは!?」
「敵襲か!?」
「ありえん!どうやってこんな」ブジャ!
まただ。また騎士が一人憐れな屍と化した。今度は左肩から腹部までが消し飛んだ。
ガガガガガガガガガガガガガガ!!
どこからか聞いたことない甲高い音がする。さらに立て続けで仲間が散ってゆく。紅蓮の液体を吐き散らし、ぶちまき、溢していく無惨な仲間達が。
「な、なんだよこれ・・・」ボッ!
様々な音が交わり響くなか、膝をつき屈している彼は目の前の惨状がわからずのまま、その驚愕に満ちた顔は吹き飛んだ。
/※/
「・・・命中。」
「すごいですね。まるでバケモノみたいなライフルですよね」
「・・・うん。手が痺れるほど。」
ある銃の引き金にその華奢な指をかける。その銃はまさしく怪物に等しいライフル。
シモはM82 barrettのマガジンを抜いては側に置いてある新しいマガジンをセットしてコッキングする。弾丸は薬室に送り込まれ再装填された。
今回使用されたM82 バレットは全長1450mm、重量は15kg近い重さだが12,9×99mm弾を用いた強力な個人携帯武器だ。そんな弾丸を使っているために反動も凄まじく、威力も高い。イラク戦争においては1500m先のターゲットの身体を真っ二つにしたという逸話もある。
ドォン!
スナイパーライフルとは思えない轟音と反動。
射撃時のはね返りから狙撃手の肩を守るために、ストック後部には柔らかなパッドが当てられている。
「命中ですね。」
ミルフィの言葉を無視して黙々と撃ち続けるシモ。聞こえないのは轟音のためなのかもしれない。
「・・・あの女狐がいない。総督に誉められるチャンス」
シモがいう女狐とはカルロスのことだろう。いつもならM2重機関銃で狙撃してるはずだが辺りを見回してもいない。
「・・・なにしてるの?」
「いえ、そういえばカルロス軍曹がいないと思って・・・」
「・・・あの女狐なら今頃テントで縛られている。だからいない。」
「し、縛られている!?」
「・・・私がガムテープで。」
なんてこった。仲間同士でケンカした末がガムテープで拘束か。
ミルフィはなんだかカルロスが哀れだと思い始める。
/※/
「はははははー!!ひれ伏せ、愚民どもー!!」
なにかに酔狂してるケリーは三脚で固定されたマシンガンで敵軍の密集しているところを目掛けて撃ちまくる。
「ケリー伍長!弾丸が限られているのですから無駄撃ちは止めてください!」
それもそのはず、ケリーが使っているのは世界一といっても過言ではない連射力を誇るM134だからだ。
7,62×51mm弾を毎分3,000発撃つ連装機関銃は世界最強のマシンガンともいわれ、ヘリのドアガンナーや装甲車などのキューポラに搭載され、制圧射撃に一役買っている。
物凄い速さで吸い込まれる弾薬とは対照に薬莢が噴水のように飛び、辺りを薬莢だらけにしていく。
M134はその驚異的な連射力を喰らうと痛みなく死ねることから「無痛ガン」と呼ばれている。そのせいか、騎士達は皆何が起こったのかわからないまま死んでいく。
と、ここで弾丸が切れたのか連装部分の回転しなくなる。調べてみればやはり、弾切れだ。
「おい!はやく弾薬持ってこい!」
「もうないです!貴方がバカのように撃つのが原因です!」
部下からは弾薬ではなくて説教がプレゼントされた。
イラつきながらもM134を捨てて腰のホルスターから2丁のM500を抜きとる。
ドォン!ドォン!
対のM500が同時に火を吹く。ケリーのように2丁銃は漫画やアニメでよくある撃ち方だが実際やってみると狙いにくく、弾倉交換も手間がかかるためにあまり好まれない撃ち方なのだ。
しかしケリーの場合は軍人である経験と長年の勘で敵を撃ち抜いていく。
「おらぁ!どうした貴様ら!」
帝国軍を挑発しつつも発砲を止めることなく撃ち続ける。
「や、奴等を殺せ!イーゲル神のご加護を授かる我々は決して負けはブボォ!」
将軍の腹部に大きな穴が空く。テニスボール程度の穴を空けザクロの果実のような肉塊を辺りに撒き散らす。
「し、将軍の仇だ!死・・・」
「くそ!よくもジムを・・・」
次々とケリーにかかろうとする騎士達は皆M500専用のマグナム弾の餌食となる。
それぞれの鎧を突き破り、深々と血肉を掻き分けながら身体そのものを貫いた。
「はっははー!!」
頭がおかしくなったのだろうか。戦闘狂の血が騒いでいるのか。どちらにせよ、ろくなもんじゃなかった。両手のM500をドカドカと撃っては隙をつき弾薬を交換して、撃っては交換のループを繰り返す一方だった。
ドォン!ドォン!ドォン!ドォン!
立て続けで四連射。その餌食となった四人は着弾とともに身体が吹き飛ばされた。
カチッカチッ
「ちっ・・・弾切れか」
なんと、M134に続いてM500まで弾切れとは。さすがに無駄撃ちし過ぎたと自負する。
「今だ!あの女を殺せ!」
弾切れで銃撃が途切れたケリーを見ては好機と捉えて一斉に襲いかかってくる。
だが弾切れとなったのにケリーの顔は清々しい笑顔に満ち溢れていた。
「へへへへへへへ。」
「な、なにがおかしい!」
ケリーはいきなり笑い出す。あまりの不気味さに周りを取り囲む帝国騎士達は襲うのをたじらう。
すると腰に収めている一筋のナイフを抜き逆手持ちにして構える。
そのナイフはGerber Mk2と呼ばれる細身で両刃を持ったダガーナイフで切ることより刺すことに特化した設計となっている。ベトナム戦争では高い評価を得た反面、兵士からは「あまりにも残酷だ」と、その死傷力の高さゆえに忌避されたというエピソードも残っているほどだ。
すでに使った形跡が見られるのか、その刀身にはうっすらと赤い液体がこびりついていた。
「へへへ。最初の獲物はどいつだ?」
そう言うとケリーはそのナイフをペロッと舐め、最初の標的を品定めした。




