闇に潜む者
ホー ホー
どこからかフクロウの鳴き声がする。獣も寝静まる丑三つ時だからだろうか。灯りなど何一つない暗闇に包まれる森の奥底まで月明かりが映している。そんな無人である森、木々の間、葉が重なるところを続々と抜けていく者達がいた。
「ネスト1、異常なし」
『了解。あと100m前進せよ、まもなく『城』が見える頃だ』
カラスがこの闇に溶け込むような漆黒に身を纏い、中腰の体勢でゾロゾロ前へ進む。枝を払い、草を踏み、大木を避ける。度重なる自然の障害物をものともせずにただ、前進あるのみだった。
『こちらネスト5、11時の方向に巡回中の敵を発見。排除する』
「了解。」
ネスト5の無線越しに何かをぶっ刺す音と倒れる音がする。それを聞きながら再び前進する。
黒斑を中心とした迷彩服に纏ったネスト部隊はMP5SD2を主翼としてG18グロックなど狭い室内戦を想定してサプレッサーを常備した装備している。さらに暗視装置PVS―14やレーザーポインターなど暗闇に特化したオプションパーツもつけている。
ここでは総勢16人の女性兵士がこの作戦を遂行しようとしている。それは数時間前に遡る。
/※/
「占領されただと!?」
「はい、遺憾ながら絶望的状況かと・・・」
公国からの言伝てを伝えにきた騎士はセニアに衝撃的な発表をする。それは公国と帝国の境界付近にある前線の城が襲撃され占領されたとの伝聞が数十分前に公国へ伝書鳩で伝えられた。送り主はその城の騎士だろう。
「・・・それでパトラ。陛下はなんと?」
「救出隊を編成中ではありますが・・・ほとんどの騎士が復興作業のため疲労が増してる上に数が足りないかと。」
「数が足りない?」
「はい、先日の爆撃で兵舎を破壊され多数の死傷者が出てるために足りないのです。」
「で、俺らに救いを求めに来たってわけか」
「・・・恥ずかしながら、その通りかと・・・」
そちらは手が出せないからこっちが代理にやってくれというわけか。ずいぶん安売りされたもんだな。
「悪いがここ数週間の戦闘で物質が浪費され、現状維持もままならないんだ。残念だが今回は諦めるしか・・・」
「そんな!それじゃ妹は!」
「妹?」
パトラははっと気づいたかのように口を抑える。顔には焦りと動揺が感じられ、なにやら重大なことがあるようだな。
「もしや」
「はい。妹が・・・ミーシアがあの城に・・・・」
するといきなりカオルの胸に飛び込んできたと思えば服の裾を強く握りしめて泣いていた。
「お願いです!妹を!ミーシアを助けて!」
「落ち着けパトラ!」
「私たちは復興があるためにどうしても無理なのです!それに私がいってもなんの力にもなれない!」
「だからといってカオル様に死地へいけと?」
「それはわかっています!だけど・・・あなたしかいないんです!妹を・・・助けられるのは・・・・」
「・・・」
静寂とした空気が四人を包み込む。いや、パトラのすすり泣きだけが部屋を覆うので静寂ではないが。だが、また新たに静寂を打ち破る声が発せられる。
「しゃーねぇな。行ってやるよ」
「へ?ホントですか!?」
「ああ、そのかわりこの1ヶ月は仕事を持ち込んでくるな。こっちにも休息が必要だしな」
「あ、ありがとう・・・・ありがと・・・・」
礼を最後に床に崩れ落ちて泣きわめく。だがその泣き声は不思議と不愉快ではなかった。
/※/
出撃してからものの数時間は経った。本来なら絶望的なために諦めて帰るがせめて遺体でもと、セニアの頼みだからだ。
慎重な行動と迅速な行動を求められるがために今回は潜入任務を得意とする特殊作戦執行部、通称『ネスト部隊』を向かわせた。全員が訓練で好成績を修めた兵士を中心として編成された部隊なのだ。
そんなエリート部隊は城に向かってひたすら前進する。
「前方に敵が二人。ネスト3、排除しろ」
茂みに身を潜め、至近距離まで来たら左肩に収納された大型のナイフを抜き、一人目の騎士の首を掻き斬る。
「・・・!?」
後ろからの奇襲なので何もわからずに膝を屈折し崩れ落ちる。
そして、立て続けにその近くにいた騎士の肩を垂直に刺す。肩甲骨をかわし、血肉をひき裂き、心臓まで到達する。
一人目同様にただ崩れ落ちていく様を後ろ目に前進する。
「あれが城か・・・」
森を抜けると西洋風の立派な城が佇んでいた。しかし所々でボロボロにされ、辺りには遺体が散乱していて戦場の行く様を物語っていた。
入り口は数人の騎士が通さんとばかりに目を光らせる。これでは進入は無理だ。
「どうしますか、隊長」
このネスト部隊を率いるエルダ大尉はこの強固な見張りを打開する算段を考える。
「正面突破しかない。キラ、スモークグレネードを。」
キラと呼ばれた女性が発煙手榴弾の安全ピンを抜き見張りの中心目掛けて投擲する。放射線上に投げられた発煙手榴弾は見事に騎士らの近くに落ちる。
「ん?なんだ?」
落下した音に気づいたのか発煙手榴弾をジロジロと見る。すると発煙手榴弾から勢いよく煙が出て辺りをどんどん真っ白にしていく。
「なんだ!?」
「敵襲か!?」
いきなりの白煙に狼狽えながら周りを警戒する。しかし煙にまかれて視界が途切れてしまう。
「今だ。速やかに排除するんだ!」
純白ともいえる煙幕に兵士自ら入り込み銃床で殴り、叩き、ナイフでかき斬り、深刺していく。見張りの騎士計5人。全員が血まみれか、顔が腫れているどちらかだ。
「よし、行くぞ」
分厚い鉄の門扉を開け、忍び足で長い廊下を静歩する。
廊下の中心に固まらずに両側の壁沿いに歩き、殲滅する。
「オールクリア。」
「了解。次はあの部屋だ」
次々と部屋を片っ端に調べていく。その際の敵を撃ち漏らすことなく射殺していき、また次の部屋へと移る。
パスッパスッ
MP5SD2で吹き抜けの二階を巡回中の敵を撃つ。
すると、
「おい!どうした!」
敵に発見された。死角になっていて見えなかったところにでもいたのだろう。
その騎士の掛け声によってあちらこちらから敵が出てくる
「何者だ!」
「ええい、容赦するな!切り捨てろ!」
彼女らを見ると腰に納める剣を抜いては襲いかかってくる。この暗闇、松明をもっている騎士がいるせいかこちらが敵だと認識されたようだ。
「撃て撃て!突破するぞ!」
エルダ大尉の一声でステルス行動をしていた全兵士が主格武器のMP5SD2をフルオートにして発砲する。
パパパパパパパパパパ
サプレッサーが内蔵されているために発砲音がしない。だが弾丸は完膚なきごとに敵の命を奪っていく。
「こっちだ!」
一人の兵士が逃げ道を確保したようだ。兵士は互いに背中合わせ、後ろは迫り来る敵の排除を、前の兵士は警戒しつつ逃げ道を確認しながら行動している。
「奴等を逃がすな!あの武器に気を付けろ!」
こちらのMP5SD2が危険なものと判断したのかリーダー格の男が荒声を発する。
「ぐわぁ!」
突如、横で撃っていたキラが倒れこむ。その足には1本の矢が。どうやら弩で射たれたようだ。太股に刺さった矢傷からは微小の血が流れている
「しっかりしろ!大丈夫だ。思ったより傷は深くない」
「すみません隊長・・・」
ほかの兵士に盾となってもらい、キラを担ぐ。痛みで思うように歩けないキラをゆっくりとした足取りで共歩する。
「このまま敵を殲滅する!援護射撃開始!」
負傷したキラと彼女を担ぐエルダ以外の兵士が相手に銃弾をぶちこむ。
/※/
銃口から放たれた無数の弾丸は城内の騎士を全滅させた。
辺りには遺体と化した無惨な騎士がただ横たわっていた。
「大丈夫か、キラ。」
「大丈夫です。足をやられただけですから」
幸い、急所を外れ、当たったのが肉質の多い太股だったので傷はそれほど深くない。数週間寝てれば治るだろう。
「この城に生存者がいないか確認するぞ。敵は殺せ」
/※/
息を殺し、隠れて数時間は経つだろう。このまま助けが来るまでやり過ごすのは難しい。ならば最後の抵抗ともいえる捨て身攻撃を実行すると思えば敵が何処かへと向かっていくではないか。
あと、はっきりではないが連続した何かの破裂音もする。さらに複数の足音、誰かの大声に悲鳴も多々聞こえる。
「なにが起こっているでしょうか?」
「助けか?」
なんとか生き残った騎士らが希望を待ちわびた顔を見せる。助け?そんなはずない。伝書鳩を公国に飛ばしたのは数時間前だ。数時間前のうちに準備を済ましてこの城にいる敵騎士を倒すなど不可能だ。速すぎる。
なら新たな敵か?
『次はこの部屋だ』
まずい!この部屋を嗅ぎつかれた。このままでは見つかるだけだ
このなかで無傷なのは私だけだ。私がみんなを守るしか・・・
彼女は腰の刃こぼれした剣を抜き構える。その様子にほかの騎士が止めに入るが頑として耳を貸さない。
力いっぱい握りしめて剣先を敵と思われるところへ向け走り出す。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
/※/
すでに敵を殲滅してから数分は経つだろう。相変わらず生存者はいない。やはり、帝国騎士に殺られてしまったのか。
絶望にひれ伏すなか、捜索を続ける。
「次はこの部屋だ」
銃口を室内に向けながらゆっくりと扉を開く。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
突如、何者かがこちらへ向かって迫り来る。その一瞬の状況で見えたのは必死ともいえる形相の女性だ。
「くそ!」
狙いはエルダ。彼女は武器のMP5SD2の銃床で女性の腹をおもいきり叩きつける
「ぐっ!」
狼狽える女性の手首に凄まじい手刀を送り込む。訓練されたその手刀によって女性は思わず剣をはなしてしまう。
「動くな!」
仲間が女性に銃口を向ける。手首を抑えて涙目になりながらうずくまっている女性は憎い相手を見るかのようにこちらへ眼光を差す。
「帝国め・・・」
帝国?ああ、我々を帝国の手下かと思っているのか。誤解は解いておこう
「我々は帝国の者ではない。お前がミーシアか?」
「!!。なぜ私の名前を・・・?」
「公国の代わりに我々がここに来た。すぐに本部から助けが来るさ」
安心したのかミーシアは安堵の息を吐き落ち着いた。
その清らかな碧眼から一筋の涙が流れていたのは誰も知るよしもなかった。




