驕慢なダル子姫
この連載では、ほしくなったらすぐ購入するペット飼育初心者の悪い例が描かれていますが、実際にペットを飼う場合、下調べや下準備は万全に行ってください。真似されても、一切責任は持てませんので、あしからず。
しゃべるウーパールーパーのダル子は、今日も朝から、様々な要求をしてきた。
「陽が当たる場所は嫌い。すぐ暑くなっちゃうんだもの。水槽運んで」
「イトミミズ、美味しかったけど、あたい、やっぱりアカムシ食べてみたい。
あ、冷凍物は味が落ちるって聞いたからイヤよ?」
「石とか流木とかどうでもいいけど、隠れられるとこないの?
落ち着かなくってストレスで死んじゃう!」
これだけ好き放題言っていて、ストレスで死ぬことはないかと思ったが、反論しているときりがない。僕は黙って60センチ水槽の大移動を終え、何かの景品でもらった使ってない湯呑を砂に半分埋めてやって、さらに、朝から釣具屋に出かけて、姫の所望する生きたアカムシを買ってきた。
「ダル子ー。ただいま」
ダル子姫は、気に入ったらしい湯呑の奥からよちよち歩いて出てきた。
「なに?寝てたのに」
「いや、アカムシ……食べない?」
「た、食べるっ!」
ゲンキンな奴だ。
「こちらが姫の憧れの生アカムシでございます」
「すっごい赤いのね。早く頂戴」
僕は、濡れた新聞紙に包まれた生餌から、元気そうなのを一匹、水面に落とした。アカムシが活発に泳ぐものだから、ダル子は口に入れるのに苦労していた。
「おぉー!……いや、まぁまぁ、ね。毎日食べてもいいけど」
ダル子の性格がだんだんわかってきた僕は、相当お気に召したことを理解した。姫は何度もお代わりを所望し、「生きたままが、いいからね!」と念を押した。
生きてるまま保存するには、冷蔵庫がいいと釣具屋のおやじさんに聞いたので、タッパーに水を入れてうごめくアカムシの残りを移す。野菜の隣に置くのは、いささか抵抗感があるが、仕方ない。ダル子姫のためだ。
さて、ダル子に振り回されてばかりでは、夢見ていたペット王国には程遠い。
ネットで検索して、僕は次なる愛玩動物の目星をつけ始めた。なにか静かな……、あまり大声で鳴かない鳥はいないだろうか? やかましいのはダル子だけで十分である。
探してみると、初心者でも飼いやすいペットとして文鳥が紹介されていた。画像をいろいろ見てみたらシルバー文鳥という少し色の薄い種類がかわいらしい。
文鳥というと、手に乗ってきて、手から直接えさをついばんだりするのだろうか?それは、かなり楽しそうである。
僕は、来週末には文鳥を買いに行こうと決めて寝た。
その夜はダル子が、「ねぇ!アカムシもっと!」と叫んでいる夢を見た。