4日目 とことんツイてないような
【4日目】
いや、ダメだ。
手にした金属板を見ると、思わず顔がニヤケてしまう。
刻まれているのは冒険者ギルドの刻印と登録ナンバー、オレの名前と冒険者ランク。
ただそれだけ。だけど、冒険者の証明書。
今までホネ兄とアオ姉の話を聞き続けていたから、いつまにやら憧れの職業みたいになっていたみたいだし。あまり実感はなかったけど。
昨日、ゴロツキA~Gを倒したあと――
アネさんと巨漢さんが7人を縛り上げ、その後オレとアネさんが見張り、巨漢さんが街まで向かい兵士を読んできて引渡し。さぁ魔物を狩るか、と気合を入れ直したら、合格の宣言を受けた。突然のことにクエスチョンマークを頭の上に乱立させたオレに、巨漢さんが説明してくれた。何でも、Cランクの冒険者複数名を瞬殺できる人間に最低限の戦闘力も何も無いだろう――ということらしい。
――はい、スミマセン。人間じゃありません!
もちろん口には出さないけど。
そんな訳でギルドに戻り、再度手続きをし。
カードの発行は翌日になるということだった。時間は何だかんだで夕方になっていたのでそのまま帰宅? 部屋に戻った。
部屋に戻ってから、至急やらないといけないことなんてなかったので、意識を本体に戻し、皆に状況を報告しておいた。
たった3日だけとは言え、今まで1日以上洞窟を離れていたということがなかったので、何だかんだ言いつつも皆心配してくれていたみたいだ。約一名、色々と突き抜けたヒトもいたけど――
可笑しい――あんなに過保護だったか?
体の方に意識を戻す時も、スゴく心配されたし。ちなみに他のヒトは呆れてた。
話を戻して――壱の鐘が鳴る頃に体に戻り、後は昨日とほぼ同じ。
ギルドに到着し、発行された証明書――冒険者ギルド登録カード、通称冒険者カードを受け取った。そして今に至るワケだ。
しばらくそうしていたら、カードを渡してくれたギルドの受付嬢が声を掛けてきた。
まぁ、受け取ってからそのまま突っ立っていたから、確かに邪魔だろうな。
一言侘びを言ってから、壁際――依頼が貼り出された掲示板の前に移動した。当然、今のランク――Fランクの依頼掲示板の前。
ザッと見ても色々な依頼がある。街周辺での魔物の討伐から定番の薬草採り、街の美化作業に何故か子守にお菓子屋の野外販売の手伝いまで。
別名何でも屋というのはあながち間違いじゃないみたいだ。
――さてと……な・に・に・し・よ・お・か・なぁ~と!
もちろん、そんな数え唄での選択なんてしない。
ホネ兄とアオ姉にもFランクでのいいクエの選び方も聞いている。
街中で終わる依頼は避けて――
冒険者ギルドが依頼主の薬草採取の依頼を選ぶことにした。
依頼書を掲示板から取り外し、受付へ。照合後、印をもらったら、依頼開始。今回受けたモノは基本常時募集している依頼だから、特に期日はない。
まぁ――初めての依頼。どんなものかやってみよう。というつもりだし。さっそくやってみるか。
と、その前に――
・
突然ですが、やってきました“双剣の盾”!
ホネ兄オススメの大規模総合武具店! ただし、今回の目的地はここではない。その横にある路地に入り曲がりくねった狭い路をメモ片手に進むことしばし。目的地は普通の石造りの建物。ここでは珍しい引き戸の扉を構えている他は何の変哲もない。
看板もなにも無い。一応店であることは間違いない――はず。一件様お断り、という訳でもないはず。情報が正しいのなら。まぁ、あの状況下で嘘を言えるとは思わないけど。
冒険者ギルドに初めて入る時とはまた違った緊張感を持ちながら、引き戸を開けた。
そして足を踏み入れ――
世界は一変した。
薄暗い店内。様々な――鉱石、薬草、剣に服に宝石に。本当に色々なモノが棚やら樽やらに無造作に置かれてる。ホコリは被ってないみたいだから、手入れはしているのだろうけど――
店の外観と違って胡散臭いことこの上ない。
そして店の奥にはカウンターがあり、そこには濃い緑色のフードを被った鷲鼻の老婆が1人。
――絶対に狙ってるだろ、これ。
絵に描いたような――絵本とかに描かれるような魔女像だ。情報源――ユウ姉を追って来た侵入者の話だと、何年も容姿は変わっていないとか。そして、盗品だろうがなんだろうが購入してくれるらしい。
値段の付け方はまちまちで、高く買ってくれる時もあれば買い叩かれる時もあるとか。さてさて――どうなる事やら。
妙な笑い声を発して言葉を掛けてきた老婆の前まで移動して、売り物――ゲン爺作のナイフを1本、カウンターに置く。ちなみにオレが使っているものよりもワザと品質を下げている。それでも『固有』級にはなってるけど。ただ――ワザと品質を下げるというのをマッドに納得させるのに苦労した。
それはともかくとして――
オレが置いたナイフを手に取り眺める事しばし――
老婆がナイフを置いて口にした金額は、皆で話していた予想額よりも低かった。
仕方がないか。道具のことでは名前を売らないことを優先しないといけないし。そのまま了承の意を伝えたら――予想額よりも高い額をを提示してきた。何故に?
理由は分からないけど、断る理由もないし、再度了承し、金額を受け取った。
――よし! これで土産代の目処がついた!
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・
・
という訳で場所を移して街の外。
登録試験の時に来た場所。その先にある林に今いる。
ここまでの過程は割愛! 特になにもなかったし。
土産代は確保したとはいえ、折角冒険者になったのだから、しばらくやってみてから帰ろう。まぁ目処が立つ可能性はあまり高くなかったから、先に依頼を受けていたのだけども。
できればワンランク上――Eランクになってから帰るかなぁ。
だから、さっさと依頼をこなそう!
と、いう訳で1人で林の中へと入っていった。
ちなみに今回受けた依頼の薬草は――細かい情報を省くとして、比較的薄暗い箇所に自生するらしい。冒険者ギルドで模写してきた絵が頼りになるけど、結構特徴があるみたいだし大丈夫――だと思う。
ま、間違えたら間違えた時だ!
――と、まあ。そんな軽い気持ちで林に入って。しばらく探していたら目的のものを発見! 早速採取――根っ子ごと引っこ抜いていたら、妙な音が聞こえてきた。1回だけ、ではなく、鳴り響いているといった感じ。
念の為、音が聞こてくる方へ確認に向かい――
巨大な黒い熊と、巨大蜂の群れの対立に出くわした!
――なんでこんな所に【狂王熊】がいる!?
おそらく、巨大蜂――【ハニー・ガード】の巣を狙っているのだろうけど。普通深い森や山に生息する凶暴な魔物がなんでこんな小さな林、しかもさらに開けた箇所に出来た花畑にいる!?
――多分逃げれないだろうなぁ……
今の状況。俺も含めた3種が対立しているが、別に三竦みという訳ではない。
【ハニー・ガード】にとっては熊もオレも巣のテリトリーに入った駆除すべき侵入者。
【狂王熊】にとっては蜂は無視できる雑魚、オレはのこのことやって来た間抜けな餌。この瞬間に、メインディッシュがオレ、デザートが【ハニー・ガード】の巣になったんだろう。こっちにロックオンしたみたいだし。
――あの時は皆がいたけど、今は1人! やるしかない!
発せられる威圧感により生じる恐怖を押さえ込み、“ボクサツ丸”を構える。
その瞬間、大気が震えた!
【狂王熊】の『大咆哮』――
並みの者ならそれだけで意識を手放しそうな一撃。耐えられたのは単に経験があるから。実際、多数いた【ハニー・ガード】はそれだけで地に落ちている。
受けた瞬間、それをも上回る悪寒を感じ、とっさに横に跳ぶ!
勢いを付けすぎたため、1回、2回とステップを踏んで体勢を整え――先ほどまでいた大地に刻まれた、4条の深い爪痕が見えた。
体長4メートルを越す巨体。その太い腕から放たれた一撃。その疾さ故にカマイタチとなった。その威力は一目瞭然!
――背を向けたら容赦なくカマイタチが襲ってきて、さらに見かけ以上に俊敏な動きで追ってくる。
木の上に退避――もダメ。木ごとなぎ倒されてそれで終わり!
逃げ場はない!
・
迫り来る一撃死な攻撃をぎりぎりで避け、立ち上がっているため届かない上半身は諦めて下半身を中心に一撃ずついれて行く。
迫り来る死の恐怖――
意識は本体に戻るとは言え、生理的に襲いかかかってくる。挙動の一つ一つに精神力は削られ、息は乱れる。
――っとに!
何度目になるかいちいち数えてなんかいないが、カマイタチを避けながら【狂王熊】に迫り、攻撃を加える。そしてその太い腕による、上から振り下ろされる一撃は避け、横薙ぎの一撃を“ボクサツ丸”で防ぎ、その力に逆らうことなく吹き飛ばされる。その繰り返し。
――いい加減痛がれよ!
それだけ頑丈な相手だ。オレの一撃を何度も受けているのにピンピンとしている。
息を整えながらも、相手の攻撃に細心の注意を払う。
再び攻撃の為立ち上がり――よろけた!
ようやく効いてきた!
――チャンス!
体力が――とか言っている場合じゃあない!
足に力を込め、一気に間合いを詰める!
四足歩行に戻った状態で払われた腕を屈むように避け、立ち上がるバネを使いがら空きとなった顎をカチ上げる!
牙が折れ、唸り声が生じる。脳みそも揺さぶられたはずだが、よろめきながらも地に伏せることなく耐えている。
目に飛び込んできたのは、口を大きく開けた【狂王熊】の顔。
後で考えると、『大咆哮』を放とうとしていたのだろう。
思考がまとまる前に、その大きく開いた口に、渾身の一撃――“ボクサツ丸”を突き込んでいた!
・
自分の息遣いがスゴく遠くに感じる。
ほぼ無意識に放った突き。それが【狂王熊】の喉をつぶし、そのまま貫いていた。
ゲン爺作の武器の特徴――ホネ兄の『黒霧鎧装』の効果もあったのだろうけど。
重要器官を損傷して無事なはずがない。力なく地に伏せる【狂王熊】の姿を確認したことで、緊張が解け、その場に崩れるように座り込んだ。
――何とかなった……
安堵感がものすごい。怪我も打撲程度、明日には治っているだろう。
まぁ服は結構ボロボロになっている。かなり丈夫なはずなのに――
後で補修しておこかないと……
後は――
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いつの間にか眠っていた。
気付いたら――というか、ゆさぶり起こされた。
徐々にクリアになっていく視界の先――目の前に、髭面のオッサンがいた。
それとその横にはアネさんも――
――あれ?
なんで?
疑問に思ったけど、思考が上手く纏まらない。
取り敢えず聞かれた事――に答えたような気がするけど、あまり記憶に残っていない。
瞼が異常に重く感じる。そう感じ――そこからの記憶がまたなくなった。
【オルテガ・ガルドス】
――マズイことになった。
おそらく今ここに集まった者たち全員の素直な気持ちだろう。
俺を含めたBランク5名、Cランク上位4名からなる臨時パーティー。
街の近くではぐれ熊の目撃があった。しかも、報じられたその特徴から、【狂王熊】の可能性が高い。
一度相対したモノをその凶悪なまでな力で葬り去る、凶暴なる熊の王――
そんな魔物が万が一にも街に入ったら、生じる被害の大きさは想像できない。
だからこその今回の緊急依頼発生。駐在兵は、万が一の時のため街の防衛を固め。俺たちは調査、遊撃担当となる。
ギルドからの要望で、この臨時パーティーのリーダーを任されることになった。
――責任重大だ、これは。
全員を無事に帰還させなければ。
【狂王熊】相手なら、骨の1本ぐらいなら御の字だろうが、それでも命を落とすことが無い様にしないと――
「――よし、行くか! 」
・
・
・
「何かあったか?」
目撃情報のあった草原。まぁ、形跡を探すなんて無茶に近い。
まぁ最もいいのは勘違い――なのだろう。無駄骨になるぐらいが丁度いい。
【狂王熊】の相手に比べたら――
「オルテガさん! 」
「どうした?」
声を掛けてきたのは、Cランクのティアナ。
何事かと思ったが、言ってきたことは理にかなっている。というか、丁度指示を出そうとしたことを先回りして言ってきた、というもの。
見通しのいい場所で見つからないのなら、見通しの悪い箇所にいるのではないか。
ここ周辺で該当するのは近くにある林のみ。
いい判断だ――そう一言彼女を褒めておく。そして直ぐに皆に指示を出した。
・
林の中。見通しが悪くなり、木々で移動が遮られる。
一方【狂王熊】はそんなことお構いなしで襲ってくるだろう。
もし見つけたら、足止めしながら見通しのいい場所まで後退。
皆も恐ろしさは十分に分かっているので、異議は出てこない。
それぞれの動きを阻害しないように、適度に距離を取りながら移動していく。
「見つかりませんね」
「いない方がいいんだけどな。
凶暴極まわりない熊なんぞ」
そうこうしているうちに、開けた場所に出た。一面の花畑。
そしてそこに存在する、黒い物体!
――いた!
声には出さない。けれども、皆に緊張が走る!
出方を伺うため息を殺し――
――動かない?
黒い物体――後ろ姿だが間違いなく【狂王熊】だろう。
それが大地に伏せたままピクリともしていない。
感じた違和感。取り敢えず、ここは開けていて戦いの場所としては悪くはない。
罠を仕掛けられたら一番いいのだろうけど、そんな時間はない。
ただ、微動だにしない状況。もしかしたら絶好のチャンスかもしれない。
そう判断し――魔術師にはいつでも魔法を放てるように、また他の連中にも奴を取り掛込む陣形を取るように指示を出し、ある程度移動が完了したところで俺一人、奴に向かっていく。
完全に貧乏くじだが、それは仕方がない。誰かがやらなければならないし、やるとしたら一番経験のある俺しかいない!
慎重に近づいていき――それでも微動だにしない【狂王熊】の側面へ。
――なっ!?
驚愕。敵を前に死に繋がるような悪手極まりないことだが、目の前の光景はそれだけのインパクトがあった。
【狂王熊】の顔に黒い棒が突き刺さっている。見開かれた瞳には既に光はない。
間違いなく死んでいる――
側面に移動した奴らも気付いたのだろう。林の中から姿を現してきている。
俺が出て来た場所にいる奴らにも、来るように声を張り上げる。
しかし一体誰が――?
「タマ!?」
その答えは一瞬で出た。
側面から出てきたティアナの悲鳴。そこでようやく、人が倒れているのに気がついた。
いくら【狂王熊】の死骸なんてモノ見たからとはいえ、周辺の警戒をおなざりにしてしまっていた。気を付けねぇとな……
それよりも倒れている人間だ。
何人かに周辺の警戒を指示し、倒れている者を確認する。
年端もいかない少女。服の上からザッと確認した程度だが、薄汚れているが大きな怪我とかはしていないみたいだ。精々打撲程度。
声を掛けながら揺さぶってみると、反応が帰ってきた。直ぐにまた気を失ったが、大丈夫だろう。
【狂王熊】の死骸の前に倒れていたんだ。無関係ではないだろうが――
「知り合いか?」
「え……、あ、はい。
昨日、試験をした新人です」
おいおい。ペーペーがこんな奴を遭遇したのかよ。どんだけ運がないんだ?
しかし、誰が倒したんだ?
こいつが倒したとも思えないし――
「間違いない。タマが使っていた棒だ」
死骸の方から、そんな言葉が聞こえた。
声の主はCランク――ティアナのコンビのフェルマン。
いや、それよりも今フェルマンが言った言葉。タマというのは、さっきティアナが呼んでいたこの少女の名前のはず。
その少女が使っている棒が、【狂王熊】を貫いている――
導き出される答えは1つ。
「おい……
それ、間違いないのか?」
「……昨日使っているのを見たので。
棒なんかを武器にする奴なんていませんし――」
確かに。殴打系の武器を使う奴は沢山いるが、大体がメイスとかハンマーとかになる。
――ってことは間違いない……か。
こんな少女が1人で【狂王熊】を仕留めた。
ほかの奴らも話を聞いて気付いたのだろう。ザワめきが起こる。
不気味なモノを見るような目をした奴、信じられないモノをみたような目をした奴。そんなのがほとんどだ。
それは仕方ない。俺も正直信じられん。
――しっかし、とんでもない奴が入ったもんだ。
果てはAランクかSランクか――
どこまで行くのやら。
楽しみのような、末恐ろしいというべきか――
【狂王熊】なんてバケモノとの戦いが流れた。そんな安堵感もあり、自然と口角が上がっていた。
何とかかけました、4日目。お待たせしました。
やはり戦闘シーン難しいです。迫力がなくて申し訳ない。皆様の脳内補完を乞う期待――と他力本願な状態に。
ついでに、キャラの書き分けも。ほかの作者様には本当に頭が下がります。もっと多い登場人物をかき分けるなんて。
いきなり強モンスターが現れて、とベタな展開が続いていますが――多分ベタは多くなるかと。自然とそういった方向に進んでいます。
次回もどれだけ時間かかるかわかりませんが、書いて行きたいと思います。
最後になりましたが、読んでいただきありがとうございます。
感想・ご意見はいつでも大募集です。よろしくお願いいたします。では!




