第10話Visitors(突然の訪問者)
「おーい、起きてくれ」
白衣を着た中年のおじさんが俺の顔を覗きながら言ってきた。たぶんこの病院の医者だろう。
若いナースの方が良かったなぁ、と思いつつソファーから重い体を起こす。
「寝てしまってすいません」
体が動かないので、首のみを縦に振って謝りながら言った。
「いやいや、お前は偉い男だ」
医者であろう男は俺の頭に手をおき、少し乱暴に頭を撫でた。体が揺れて、疲労した筋肉が筋肉痛のように痛む。医者だったらこっちの体を気遣えよ。とか思いつつも疲れていて口が開かない。
やっと、終わった。
「すぐ、帰ります…」
俺はソファーの腰掛けに手を置き、震える足を気にせず立ち上がる。
足を見てみると包帯が巻かれていて、不思議と足の裏には痛みがない。この医者かあるいは違う医者とか
が治してくれたんだろう。
「治療費は後で払います」
俺は一礼して病院の正面玄関へと向かった。
「治療費はいらないからな」
周りはもう暗く、病院の中に人がいないのを分かっててか大声で俺に言ってくれた。
「ありがとうございます」
大声はだせなかったが、また一礼をして壁をつたいながら歩いていく。
機械の音と共に自動ドアが開くと、二人の人影が見えた。
「やっと、起きたのかよ」
秀が俺の肩を持ってくれる。
「陰君、ナイスファイト!」
望美ももう一方の肩を持ってくれた。
そのまま、歩いて寮へと向かった。
∇▲∇▲∇
朝起きると、筋肉痛が酷かった。
少しでも動くとその動きに使われた筋肉がつっているような痛みがはしった。
筋肉痛は寝てれば治るので今日は寝てる事にした。
まぁ、それはいいが。つまらない。
本当につまらない。
さて、どうしたものか。
意味もなく天井を見ていると、虫が飛んでいた。こんな寒い冬にでてくる馬鹿な虫は俺の顔の上で円を描
くように、飛んでいた。
最初は虫を無視していた、というつまんねぇだじゃれを考えられるほど落ち着いていたが、10分たったら
耐えられなくなった。
虫に狙いを定めながら唱える。
「水玉」
俺の顔の前にビー玉サイズの薄い水色の玉ができた。
この水玉を少しずつ大きくしていき、中にいれて虫を溺死させようというこんたんだ。
少しずつ、少しずつ大きくしていきサッカーボール程の大きさになった。
この中にうまい具合に虫をいれれば俺のイライラもおさまるだろう。
黒い円が天井に描かれる、直径1mぐらいだろうか。
などと、考えていると黒い円から声が聞こえてきた。
「スターイリーッシュゥ、入室!」
黒い円から流星のように降ってきた女は俺の腹の上に突撃、というか着地をした。
当然、踏まれている感じになっている。
「ここは、どこかな~」
女は敬礼してるように手を額に置いて周りを見渡したとき、漆黒のセミロングの髪を揺らした。
「そんなことは、どうでもいいっ!お前!早く降りろ!」
俺の声に気がついたのか、顔を近づけ俺の顔をなめまわすように見てきた。
瞳の色は真紅、切れ長の目、肌の色は雪を想像させるような白色だった。
「なんで、あたしの下に寝ているの?」
「おめぇがのってきたんだろっ!」
「………そうだったような~、そうじゃなかったような~」
女が首をかしげながら俺の上から降りていった。
「あたしは、紅っていうけど、あんたは?」
偉そうに立ちながら俺を見下したかのような目でみながら言った。
「俺は、如月陰っつうんだ」
俺の名前を聞くと目を見開きながら俺をみた。
紅が近づき俺の胸ぐらを両手で掴み、揺らした。
「おお、まじか!お前が使い手か!」
今、なんつった?
俺の耳がおかしくなかったら「使い手」っていったぞ?俺の耳がおかしいことを望む。
「あんたがあたしの主だ……ってなんで耳塞いでんの!?」
「俺は聞こえない聞こえない!」
「しょうがないな~」
紅が近づいてきて、俺の右手首に長さ1mの手錠をつけると紅は左手首にもう一方の空いてる手錠をかけた
。
「な、な、ななななにつけてんだ!」
「こうしないと、あたしを使えないんだよ~」
「そういうことを言ってんじゃねぇ!」
紅は俺に抱きつこうとする。
「雷壁」
俺と紅の間に雷でできた壁がでてくる。
「あっぎゃああぁぁぁっっっ!!」
紅はぶつかり、部屋全体が輝く。
「ひ、ひどいよ~~」
少し目に涙を浮かべながら、言ってきた。
「んで、お前は誰?」
「えええええぇぇぇぇっっっ!!いままで話してきて、まだ分かんないの!?」
「あぁ。あの、悪魔じゃないし。わかんねぇ」
「あたしは、あの真紅の日本刀だよ」
何を言ってるんだ?
あれは刀であり、人ではない。
だっておかしいだろ?あれは物なんだ人になるはずがない。
「イフリート様は分かる?」
「俺と契約した悪魔だろ」
イフリートとは炎の属性中の頂点に君臨する悪魔だ。
「そう、そしてあたしはイフリート様によって作りだされた武器なの」
そうなれば、武器の中では最強と言っていいのだろうか。
「悪魔が人間に武器を作るなんて初めてのことなんだよ」
「そんじゃあ、お前は小さくなったりできないのか?」
「小さく?なんで?」
「いやいや、こういう時はキーホルダーみたいに小さくなるもんじゃないの?」
「このままだよ。あ、でもあたしはあんた以外に見えないようになってるから」
よしっ!それが分かればいいやっ!
俺は考える事を放り出し布団にうずくまった。
手錠の金属の音を聞きながら、俺は眠った。
「おやすみなさい」
紅は微笑んだ。