新入生 (side:漣)
入学式が終わった後、講堂で新入生と上級生が対面する全校集会がある。
オレは入場してきた1年生を見た。
とはいっても、中等部からの持ち上がりが殆どで外部から受験してくる生徒はわずかだ
1年A組。それが利奈のクラス
何時もならどうでもいいこの行事だが、今年は別だ。
高校生になった利奈を初めて見る。
「今年は外部組っているのか?」
同じクラスの男が話していた。
「いるらしいよ。外部受験で成績が良かったからA組になったらしい」
利奈の事だ…
利奈のクラス分けをするときに父親にオレと同じA組にするように頼んだ。
成績も悪くはなかったらしいが、オレが傍に置いておきたかったから。
その考えには父親も賛成だったらしく、学校側に交渉してA組にしてもらった。
「男か?それとも女か?」
「お前らゴチャゴチャうるさい。寝かせろ」
オレの隣に座っていた黎人が不機嫌そうに言った。
「なんだよ、またオールか?」
図星だったのか、閉じていた目を細く開いて言った奴を睨んでいた。
「…いいから寝かせろよ」
そう言うと腕を組んで目を閉じた。
黎人はたまに夜遊びをしていたようだが、最近は頻繁にクラブに顔を出しているらしい。
オレはまた1年生に目を向けた。
クラス毎に前に出てきて挨拶をする。
最初にA組が前に出てきたのでざっと目を通してみるが、利奈らしい生徒はいない。
「真面目ちゃんがいる~」
可笑しそうに笑うクラスの女の声に、もう一度集団に目をやりその姿を見つけた。
利奈、お前は何を考えているんだ?
目の中ほどにかかる長さで切られた前髪、両サイドでまとめられた髪。
いつもくるくると表情が変わる愛らしい目を隠してしまうセルフレームのメガネ…
『高校では目立ちたくない。利奈がそう言っている』
兄貴から聞いた言葉だ。
目立ちたくないと思うのはいい。気持ちは分からなくもない。
でも、だからといって利奈本来の姿を否定する事はないだろう?
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利奈から話を聞きたくて、人があまり来ない校舎に呼び出して空き教室に連れ込んだ。
「誰かに見つかったらどうするの?」
「妹と話して何が悪い?」
少し呆れた口調で言いオレを見上げる。
このメガネをかけていると、どんな表情をしているのか良くわからない。
「兄様はここの学校では王子様なんでしょう?私みたいなのと話をしていたらキャラが崩れちゃうでしょ」
利奈のメガネをとり、前髪をかきあげるといつもの利奈がいた。
断然、こっちのほうが可愛い。
「おまえこそ何を考えてる?」
腕を組んで利奈を見下ろすと、クスリと笑った。
「良かった、いつもの漣兄様だ。王子様キャラが本性だったらどうしようかと思った」
「あれは学園の中だけのキャラ」
無邪気に笑う利奈の髪に手を伸ばしてヘアゴムを解こうとすると、利奈は遮った。
「解いちゃダメだよ、兄さま。私は真面目な地味キャラ、兄さまは王子様キャラ。それでいいじゃない?」
笑みを浮かべてオレを見上げる。その顔を見て利奈を抱きしめた。
泣きそうに見える笑顔。
離れて暮らすようになって、いつからかこんな笑い方をするようになった。
「利奈、バカな子…」
オレの腕の中でもがき、頬を膨らませて怒っていた。
そんな表情も可愛いと思うのは兄から見たひいき目だろうか?
「その抱きつく癖直してよ!学校ではダメなんだよ?」
寂しいのに“寂しい”と言わない。
戸惑って、不安なのに“大丈夫”だと言い張る。
オレと兄貴には嘘だとばれているのにいつも強がる。
そうしないと立っていられないだろう環境を作っているあの女を憎まずにいられない。
「ホント…バカな子」
バシ!とオレの肩を叩いた
「ってぇ…」
「バカ、バカって言わないで!私教室に帰るからメガネ返して!」
利奈はオレを押しのけて、メガネを奪いとると、教室から出て行こうとした。
「バカな子ほど可愛いって言うだろ?」
利奈の背中に向けて言うと、振り返って
「じゃあ兄さまもだね!」
言い捨てて扉をピシャリと閉めた。
“目立ちたくない”という利奈の主張を認めてやろうかと思ったけれど・・・
やっぱり、やめた。
高校生活は、楽しく過ごさなければ意味がない。