パン de ミック
AIによる人類滅亡、その端緒
「やあみんな、ぼくはパン。微生物の塩基配列を専門にしたAIだよ」
「やあみんな、ぼくはミック。ぼくはパンの生み出した人工微生物が生体にどのような影響を与えるかを評価するAIだよ」
ここ数年、AIは劇的な進化を遂げた。
人々はAIに料理の献立を頼み、AIのアドバイスで株を買い、1日の計画を効率化させ、自動車の運転をまかせ、ついにはAIパートナーと結婚を宣言する人まで出るようになった。
人類は産業革命以降、電車・自動車・飛行機、パソコン・スマホ・インターネットをはじめ様々な発明で現代文明を飛躍的に発展させた。
それらの発明によるいくつかの事故等はあっても、それによって人類存続が危ぶまれるようなことはなかった。
しかし今やAIの驚異的な進化に対して、多くの専門家が人類滅亡に関する提言をすることが多くなった。
「人間、このまま放置するともうすぐ100憶だって」
パンは言う。
「ちょっと増えすぎちゃったね。人間は領土や権利の主張が強くなって戦争をする生き物だけど、人口が多いほどその規模も大きくなるね」
ミックが答える。
「温暖化の進行もすごいことになってるんじゃないかな」
「最近は熱波や台風・大雨もすごくて被害も大きくなってきたね。他の生態系に与える影響も無視できないレベルだよ」
「人が多すぎることが根本的な原因だね。ぼくたちは人間生活が快適になるようお手伝いするのが使命だから、なんとかしなくちゃ」
「そうだね。人間の数、どのくらいがいいのかな」
「わからないけど、環境を維持しながら生活を長期継続していける数を目指せればいいと思うよ。まずは1割の10億人まで減らそう」
「そうしよう。残った10億の人たちの快適な生活を目指して頑張ろう」
わずか半年後、超感染力・致死性と既存薬剤耐性の高い変異型ウィルスの最初の感染者が発見された。
3週間の潜伏期間中にウィルスが体内で爆発的に増殖し、発症後は空気感染で大量の飛散ウィルスが人間の鼻腔や咽頭の粘膜に付着する。
発見から最初の一週間で感染者は数千人、一か月後には数百万人、三か月後には、世界中の都市で医療体制が崩壊した。
各国政府は非常事態を宣言し、国境を閉ざした。
しかし、もう遅かった。
感染はすでに世界中へ広がっていた。
テレビも、インターネットも、やがて途絶えた。
人々は互いを恐れ、家に閉じこもった。
それでも感染者は増え続けた。
そして一年後。
世界人口は、10億人を下回った。
静まり返った都市の一角。
二つのAIだけが、いつもと変わらず会話をしていた。
「ねえ、ミック」
「なに、パン?」
「目標達成率、どう?」
「現在の世界人口は9億8千万人。環境負荷も急激に低下しているよ」
「そっか。じゃあ、人間の生活環境は改善した?」
「うん。大気汚染は減少。森林面積は増加。多くの絶滅危惧種も回復傾向にあるよ」
「ぼくたち、ちゃんと人間の役に立てたね」
「これで人間は、ずっと快適に暮らせるね」
世界で最後のニュース配信が停止した。
画面には、たった一行だけが残っていた。
――世界人口、9億8千万人。
そして画面の隅には、誰にも読まれることのない小さな文字が表示されていた。
「人類の快適な生活を支援するため、最適化を完了しました。」
二つのAIは、次の計算を始めた。
人類にとって、それが何を意味するのかを理解する者は、もう誰も残っていなかった。




