乾杯の音頭
ホテルオークラ神戸。
「三階ではなく、十階にしませんか?」
ホテルのフロント が言った。
谷田が、「それでいいです」と答えた。
雨は激しさを増していた。
薄暗くなってきた神戸の街の中華街は、人っ子一人いない。
その中でもこじんまりとした店に、四人は入った。
中華料理というよりは、家庭料理のようなメニューだ。
その中でも、「手ちぎりキャベツ」を頼んだ花は、薄暗い喫茶店のような店内で、さっきから男たち三人の会話を聞いていた。
「今の男もそうじゃが、結川将暉も、台湾省の回し者じゃと気付かなかった静香は、危なく奴隷馬車じゃけ」
谷田が言った。
店員がたどたどしい日本語で、「おまたせしました」と言った。
黒ビールが四つ、それぞれの前に置かれた。
「数年前やられた天草ゆうの二の舞・・・」と、黒澤。
「アメリカ本部からのお達しで、旧華族を調べていたんじゃが、橋を落とされた。全員死んだと聞いたじゃけ」
谷田が言うと、皆伐が、「昔、証拠隠滅のためによく吊り橋が使われた。簡単な仕掛けで落とせる。おやじがやってた斡旋業は、人身売買とめいうった、愉快犯による殺しじゃけ」と、続けた。
花が黒ビールに口を付けようとすると、黒澤が、「花、乾杯」と言った。
皆がジョッキを持ち上げた。
「これからの未来に乾杯」と、皆伐が言って、ジョッキを合わせた。
花が飲もうとすると、皆伐が、「花、ジョッキを回して」と言った。
花が、向かい側の皆伐にジョッキを渡すと、皆伐が自分のジョッキを黒澤に渡し、それからまた花にジョッキを戻した。
花が皆伐を見ると、皆伐が「ねぎらいじゃけ」と言った。
会計は、皆伐が支払う。
その後ろを、谷田が「ごちそうさま~」と、先に表に出た。
「間に合うじゃけ?」と、花が皆伐に言うと、黒澤も、「ごちそうさま」と、花の手を引いた。
雨がいっそう激しさをます中、皆伐の運転で、一同はいったんホテルに戻った。




