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「無能の悪役令嬢」と婚約破棄した王太子殿下、私が生み出した新魔法で国が滅びそうですが、今さら戻ってきてくれなんて遅すぎます

作者: もも子
掲載日:2026/06/27

乙女ゲームの悪役令嬢に転生した主人公。ゲームのシナリオ通り、卒業パーティーで婚約者である王太子から「魔力なしの無能」「聖女ヒロインをいじめた」と冤罪をかけられ、婚約破棄と国外追放を言い渡される。

しかし、王太子たちは知らなかった。主人公が持っていたのは、この世界に存在しない**『概念を書き換えるチート能力』**だったということを。

追放された主人公が隣国でまったり幸せな生活を始める一方、主人公の能力(実は国の結界を維持していた)を失った元婚約者たちは、じわじわと自滅していく――。


「アリアナ・ラインハルト! 貴様との婚約を破棄し、我が国から追放処分とする!」


王立学園の卒業パーティー。

きらびやかなシャンデリアの下、鳴り響いたのは、私の婚約者である王太子アルフレッドの傲慢な声だった。


彼の隣には、これ見よがしに涙を浮かべた男爵令嬢のエレンが寄り添っている。自称『光の聖女』だ。


「アルフレッド殿下。……それは本気で仰っているのですか?」


私は手にした扇をゆっくりと閉じ、冷徹な視線を彼らに向けた。


「ふん、往生際が悪いぞ! 貴様がエレンに嫉妬し、階段から突き落とそうとしたり、教科書を破いたりした悪行の数々、すべて証拠は揃っている! それに、ラインハルト公爵家でありながら、貴様は魔力測定で『ゼロ』を叩き出した無能だ。我が国の王妃にふさわしくない!」


周囲の貴族たちから、クスクスと冷笑が漏れる。

「さすが無能の悪役令嬢」「聖女様をいじめるなんて最低だわ」と、品性のない陰口が耳に届く。


私は小さくため息をついた。

(……やっと、この茶番が終わるのね)


実は私には、前世の記憶がある。

ここは生前、暇つぶしに遊んでいた乙女ゲームの世界。そして私は、ヒロインをいじめて最後には破滅する悪役令嬢だ。

ゲームのシナリオ通りに婚約破棄されたわけだが、私の心にあるのは絶望ではなく、圧倒的な解放感だった。


「分かりました。その婚約破棄、喜んでお受けいたします。……ただ、一つだけ言っておきますわ。後悔なさいませんように」


「ハッ、無能の分際で負け惜しみを! おい、この女を今すぐ叩き出せ!」


私は一礼もせず、ドレスの裾を翻してパーティー会場を後にした。

背後でアルフレッドとエレンが勝ち誇ったように笑う声が聞こえたが、それも今日で聞き納めだ。

彼らは何も分かっていない。

私が魔力測定で『ゼロ』だった理由を。


この世界の魔力測定器は、既存の『火・水・風・土』といった属性しか測れない。

私の中にある魔力は、そんな低次元なものではなかった。



私が持つのは――万物の【概念を書き換える】という、神をも恐れぬ規格外のチート能力。

そして、この国の王都を包む巨大な防衛結界。

あれは、私が毎晩、自分の能力で『あらゆる害悪を透過しない』という概念を付与して維持していたものだ。


「私が消えれば、あの結界がどうなるか……まぁ、自業自得ですわね」


私はその夜のうちに、最低限の荷物だけを持って馬車に乗り、国境へと向かった。


◇◇◇


国境の荒野に放り出された私は、ひとり歩いていた。

夜風は冷たいが、私の心はどこまでも軽い。


「さて、まずは旅の準備をしましょうか」

私は足元に転がっていた、ただの濁った石ころを拾い上げる。



「【概念書き換え(リライト)】――『ただの石』から『世界最高純度の魔ダイヤモンド』へ」


パキパキと音を立てて、手の中の石が眩い輝きを放ち、時価数億ピアは下らない超巨大な宝石へと変貌した。



「次は移動手段ね。……【リライト】。この風の概念を『光速の移動結界』へ」


私の身体をふわりと温かい光が包み込む。そのまま重力を無視して、私は夜空へと飛び立った。

目指すは、この国の隣にある軍事大国・ガルディア帝国。実力主義のその国なら、私の能力を隠す必要もない。



帝国に入ってすぐ、私は一人の男と出会った。

夜の街道で、獰猛な魔獣の群れに囲まれていた麗しい男。

黒髪に冷徹な琥珀色の瞳、圧倒的な覇気を纏ったその人は、ガルディア帝国の最高権力者、レオンハルト辺境伯だった。


「おい、危ないから下がっていろ」

彼が剣を抜こうとしたが、私はそれを手で制した。


「お手を煩わせるまでもありませんわ。

……【リライト】。『魔獣の生命維持』の概念を『消  滅』へ」


私がパチンと指を鳴らした瞬間。

数十匹いた凶悪な魔獣たちが、悲鳴を上げる暇もなく、一瞬でサラサラとした光の塵になって消え去った。


「……何をした?」

レオンハルト辺境伯が、驚愕に目を見開く。


「少々、世界のルールを書き換えただけですわ」


私が不敵に微笑むと、彼は一瞬呆然とした後、見たこともないような狂おしい笑みを浮かべた。


「面白い。一目惚れだ、アリアナ。我が屋敷へ来い。お前のその規格外の力、そしてその不遜な美しさ、すべて俺が囲い込んでやる」


こうして私は、帝国の最高峰である辺境伯家に、最高級の国賓として迎えられることになった。



◇◇◇


それから数ヶ月。


私の新生活は、退屈とは無縁の快適なものだった。

レオンハルト様は、私をこれでもかと甘やかした。毎日職人が仕立てる美しいドレス、世界中の珍味。そして何より、私の能力を「素晴らしい」「お前は俺の女神だ」と心から称賛してくれた。


私も彼の、強くて不器用な優しさに、次第に惹かれていった。


そんなある日、帝国の私の元に、薄汚れた身なりの使者がやってきた。


見覚えのある顔――元婚約者の王太子、アルフレッドだった。

かつての傲慢な面影はなく、目の下には酷いクマがあり、服はボロボロだ。


「ア、アリアナ……! やっと会えた……!」


「あら、アルフレッド殿下。帝国の結界を無断で破って入ってくるとは、国際問題になりますわよ?」


私が冷たく見下ろすと、アルフレッドはその場に膝をつき、地面に頭を擦り付けた。


「頼む、アリアナ! 国に戻ってきてくれ! お前が去ってから、王都の結界が霧のように消えてしまったんだ! 毎日魔獣が襲撃してきて、騎士団は壊滅状態、エレンの『光の魔法』なんて全く役に立たず、あいつはただの詐欺師だった! 国が、国が滅びそうなんだ!」


彼は涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、私のドレスの裾を掴もうとする。


「お前が裏で結界を維持していたんだろう!? 俺が悪かった! エレンとは婚約を破棄した! お前をもう一度、正妃として迎え入れてやる! だから戻って結界を張ってくれ!」


私は冷たく笑い、彼の 掴もうとした手を、レオンハルト様が冷酷に踏みつけた。


「俺の婚約者に汚い手で触るな、害虫」


「ひっ……! ガ、ガルディアの死神、レオンハルト辺境伯……!?」


怯えるアルフレッドを冷ややかに見つめながら、私は告げた。


「アルフレッド殿下。私は魔力なしの無能として追放された身。今さら戻る理由がどこにありますの?それに、私はもうすぐレオンハルト様と結婚し、この帝国の公妃になりますわ」


「そんな……! お前が見捨てたら、我が国は本当に滅びるんだぞ!」


「ええ、どうぞ滅びてちょうだい」

私は極上の笑顔で言い放った。


「自分の手で国を支えていた貴重な存在を、勝手な冤罪で追い出したのはあなたたちです。その結果を引き受けるのも、当然あなたたちの義務でしょう?」


「アリアナァァァ!!」

絶望の悲鳴を上げるアルフレッドは、帝国の衛兵たちによって、ゴミのように引きずり回されて強制送還されていった。


風の噂では、あの国はその後、魔獣の氾濫によって完全に崩壊し、アルフレッドもエレンも没落して炭鉱で奴隷として働かされているらしい。


「すっきりした顔をしているな、アリアナ」

レオンハルト様が、私の腰をそっと抱き寄せ、髪にキスを落とした。


「ええ。目障りなハエが消えただけですから」

私は彼の胸に身を預け、クスクスと笑う。


理不尽な運命なんて、自分の力で書き換えればいい。

私は私の愛する人と、この帝国で、どこまでも気高く、幸せに生きていくのだから。

                

                  

                 (おわり)

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