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この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。

夜想曲-月蝕の鳥籠-

作者: ことは
掲載日:2026/04/29

【序奏】

安寧の揺籠 微睡の中で見たのは 無垢な星

その一つに成れるよう 両親からの贈りもの

ステラ その名に相応しく 

いつか愛する月を見つけ 永遠に寄り添えますように


【第一楽章】

かつて私は 無垢なままに夢を見ていた

手を包む温もりは 安寧のままに 微睡みを包む

最後の晩餐は 夢見る星の 奈落への扉


時計の針が天の頂を指す頃 肢体を這う冷たい熱に

私の純潔は 泥濁に溺れた

蠢く視線が 犇めき合い 私を舐める

縋る眼差しは逸らされ 両親の温もりは途絶えた


揺れる馬車 鳥籠への旅路

思考を剥奪され 飼い主と呼ばれる存在の掌中へと 運ばれる

振り返る先には 没落に抱かれた私の家が 小さく消えた

見上げた空には 月に蝕まれた星が途絶える

私の名前は 傀儡を呼ぶ為の鈴となった


飼い主の悦楽を満たす為に 不要なものは削ぎ落とされ

薄れゆく記憶と共に 糜爛の心が 虚無へと触れる

揺曳の淵を歩む 翼を捥がれた鳥は

鳥籠だけが 世界の全てとなった


鉄格子に阻まれた空 灰色の床 

廊下に響く足音は 今宵もまた 夢の始まりを告げる

苦痛さえ 痴辱さえ 淡い感覚と共に流れ

現との境を彷徨う


それを砕いた純白の月 首輪に繋がれた天使

その名は ルナ

白銀の髪を靡かせ 透き通る肌が 星を喰らう

全てを見透かす様な瞳が 交差した刹那 心は焼かれ

去り行く影に縋る様に 産声を上げた光を握りしめた


ただ一度の邂逅に 地獄が煉獄へと開花する

故に 悦楽の搾取が 糜爛の心を穿つ


指の隙間から零れ落ちる光 一粒さえも離さないように

血が滲むほど 私は手を握り締めた

その漏れた光さえ 飼い主にとっては 余興に過ぎない


【第二楽章】

たった一つの言葉 ルナの四肢を断て

囁く様に 飼い主の口から吐かれる 悦楽の吐息が

燈の焔を 掻き消そうとしている

私に 愛する者から自由を奪えと言うのか

私に 愛する者の尊厳を踏み躙れと言うのか

従えば永遠の絶望 背けば命の終焉

天秤にかけるまでもない 私は夜の鳥籠を駆けた

共に逃げよう この地の果てまで

四肢を断つ為に 与えられた短剣

今は ルナを守る 唯一の盾

そんな物で 叶うはずもなかった

掌で弄ばれる 痴愚の果ての道化

連れ戻された先に咲くのは 鮮烈な柘榴

その真紅の花弁に包まれる 純白のルナ

失われた四肢を見つめる虚無の瞳は 何も映さない

私の慟哭だけが 鳥籠に反響した

ルナを守るはずだった 唯一の盾は 違背の断罪となる

切り落とされた右手の痛みより 初めて見るルナの涙に

冷徹な殺意という 愛が芽生えた


幾星霜の果て 私は その時を待ち続ける

壊れた人形 悦楽を求める玩具 愛の擬態

忍ばせた短剣は あの日 ルナの四肢を奪い 

私の右手を断った 忌まわしき凶刃

それは今 渇仰を果たす 聖剣と成った

奉仕を装い 飼い主の閨へと隠棲する

白濁を嚥下して 媚びるように 屈辱を噛み締めた

私の胎内へと潜る毒蛇が 肢体を絡めさせようと支配する

耳を撫でる腐絶の吐息 気付かれぬ様に 鼓動を抑える

乱れた絹に爪痕を刻み 這わせた指先に触れる鉄の香り

その欲望への忠実な眼差しが 悦楽に歪む刹那

忍ばせた刃を 喉元へと突き立てた


【第三楽章】

右手を失った星は 四肢を失った月を背負い

道無き旅路に 足跡を遺す


未だ蠢く飼い主の残穢に 私達は宵闇を彷徨う

穢れを忌み 蔑む視線 投げつけられる礫


ーーそれでも

私達を縛る事など できはしない

この背中に感じる ルナの拍動だけが 私の真実なのだ



愛する者の燈を 繋ぎ止める為に

私は 尊厳を売り歩く それは 荊の階段


国境の果て 戦火の渦の廃教会が 私達の安息の地

降り注ぐ鉄が 人の往来を拒む 静かな聖域

黄昏の刻に 私は花を売る 

鉄の匂いを纏う者達に 垂れ流した蜜で 施しを得る

そこに 糜爛の心は もう残っていない

全ては ルナとの甘美なる一刻の為の 課せられた聖杯

何も後悔などない


変転の季節に 初めての彩りを知る

巡る事が無くとも 爛熟の安寧に溺れた


私達の燈を支える蝋は もう残されていない

終焉の掉尾 絡み合う睫毛が 唇を濡らす

無垢なる秘蹟 愛を贈り 施された愛を感じる為の祭祀

残された手が 二人を花弁の褥へと誘う

指に滴る蜜に 鼓動が共鳴する

交互に分かち合う恍惚と 溶け合う蜜

桃色の花を重ね 揺れる肢体に 痙攣が連なる刹那 私達は繋がった


【終幕】

ステンドグラスの極彩色が 寄り添う二つの人形を守る様に照らす

私は 星になりたかった なれないと悟り 絶望もした

けれど今は 月を抱く星として 空を手に入れた

「愛してる」

重なる声 それは静寂の讃美歌となり 微睡みへと誘う


朧月が 動かぬ二人の人形を優しく包み込み

偶像の神が見守る聖壇で

私達は

永遠という名の虚無に 溶けてゆく


醒めない夢を 謳歌するように いつまでも いつまでも

初めての投稿です。

緊張します。

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