りく
夕暮れの帰り道。
今日も、いつも通り三人で歩いている。
みおが真ん中で、右にゆう、左に俺。
この並びが一番落ち着く。
誰が決めたわけでもないのに、気づけばそうなっていた。
「今日どうする?」
「コンビニ寄る?」
「また?」
同じ会話。
同じテンポ。
赤信号で、三人同時に足を止める。
楽だ。
考えなくていい。
三人でいれば、それだけで関係は完成している。
交差点の少し手前で、俺は足を止める。
ポケットの中を探って、スマホがないことに気づく。
――あ、忘れた。
でも、焦りはない。
ただの置き忘れだ。
「先、行ってて」
二人が同時に振り返る。
「え、なんで?」
「ちょっと用事」
そう言って軽く手を振る。
二人きりにすることに、何の不安もない。
三人の時間は、まだ続く。
そう信じて疑っていない。
俺は学校へ引き返す。
走るほどでもない距離を、少し早足で戻る。
教室の机の上に、スマホはちゃんと置いてあった。
それを掴んで、椅子に腰を下ろす。
――今頃、何話してるかな。
どうでもいい冗談。
いつもの軽い会話。
少ししたら三人に戻る。
それだけのはずだった。
スマホが鳴る。
画面に表示された名前を見て、
一瞬、思考が止まる。
ゆう、からだ。
通話に出ると、間があった。
向こうも、言葉を選んでいるのが分かる。
「……俺さ」
低い声で、ゆうが言う。
「みおに、告った」
一瞬、音が消える。
風の音も、遠くのチャイムも、
全部が一拍遅れる。
「……そうか」
自分の声が、思ったより落ち着いていて驚く。
「ごめん」
「我慢できんかった」
電話越しの沈黙が、重い。
――ああ、そういうことか。
今日、俺が二人を残した理由。
夕暮れ。
帰り道。
全部、あとから繋がる。
「……わかってるって」
言いながら、息を整える。
「じゃあ、俺も告るな」
自分でも、強がりだと分かる。
でも、逃げる気はなかった。
少し間があって、ゆうが笑う。
「頑張れよ」
その言い方が、あまりにもゆうで、
思わず俺も笑ってしまう。
「なんだそれ」
「いや、でもさ……」
「サンキュー」
それ以上は、何も言わない。
言えない。
電話を切って、スマホを膝の上に置く。
三人でいる時間が、
今この瞬間に、静かに終わった気がした。
その夜。
ベッドに寝転んで、天井を見ていると、
スマホが震える。
みおからのLINEだ。
「ちょっと、相談があるんだけど」
胸が、小さく鳴る。
「何?」
「相談乗ってほしいの」
「悩み事?」
少し間が空いて、
文字が打たれては消えるのが見える。
「んー、というか、困ったかな」
……ああ。
分かってしまう自分が、少し嫌だ。
「じゃあ、帰りにスタバ?」
「スタバ高いよ。ファミレスのドリンクバーでいい」
「わかった。ガストな」
それだけで、約束は決まる。
ガストに着くと、俺の方が先だった。
ドリンクバーでコーラを取って、席に戻る。
みおが来る。
「待った?」
「待ったけど、待ってない」
「どっちだよ」
いつものやり取り。
でも、空気はどこか違う。
グラスの氷が溶け始めた頃、
みおが小さく息を吸う。
「あのさ。たぶん、ゆうに告られた」
「たぶん?」
「モテるんだから彼女作ったら?って言ったら、
誰でもいいわけじゃないって言われて。
私も誰でもいいわけじゃないしって返したら、
俺じゃダメか?って」
一気に話してから、みおは俺を見る。
「これって、告白だよね」
小さく、ため息が出る。
「……はぁ。その確認から?」
みおが真顔になる。
「そうだよ……」
少し沈黙が落ちる。
「どうしようか。困った」
「困ってるのか?」
みおは、うなずく。
「そんなふうに思ってなかった。
ずっと、友だちだと思ってたから……」
俺は少し黙ってから、言う。
「そうか。ごめん、先に謝っておく」
「なんで、りくが謝るの?」
逃げずに、言う。
「俺も、お前を困らせる」
「えっ?」
視線を逸らさずに続ける。
「俺も、お前のこと好きだ。」
「付き合ってほしい」
言葉が落ちる。
もう、戻れない。
その瞬間、
三人で守ってきた均衡が、音もなく崩れる。
翌日。
放課後。
校門の前で、みおを見かける。
今日は、一人だ。
声をかける理由は、もうある。
でも、足が止まる。
みおは、誰とも並ばずに歩き出す。
夕暮れの帰り道。
影は、一つだけ。
三人で歩いた道なのに、
もう並ぶ場所はない。
それでも俺は、
あの時間が楽しかったことだけは、
嘘にしない。
夜だけが、静かに全部を知っている。




