みお
夕暮れの帰り道は、いつも三人だ。
私が真ん中で、右にゆう、左にりく。
誰が決めたわけでもないのに、その並びが当たり前になっている。
「今日どうする?」
「コンビニ寄る?」
「また?」
そんな他愛もない会話をしながら歩く。
信号が赤になると、三人同時に足を止める。
影が三つ、同じ方向に伸びている。
ひとり欠けると、落ち着かない。
だから理由もなく、いつも三人でいる。
三人でいることが、一番楽で、一番安全だ。
好きとか嫌いとか、考えなくていい。
三人でいれば、それだけで楽しいが成立している。
何も確認しなくても、壊れる気がしない。
その日も、ただの帰り道のはずだった。
交差点で、りくが立ち止まる。
「先、行ってて」
「え、なんで?」
「ちょっと用事」
そう言って、りくは軽く手を振り、来た道を戻っていく。
気づけば私は、ゆうと二人きりだ。
急に静かになる。
聞こえるのは靴音だけだ。
なんとなく間がもたなくて、私は軽い冗談を口にする。
「ゆうってさ、ほんとモテるよね」
「そうか?」
「だって、なんで彼女作らないの?」
少し間があって、ゆうが言う。
「誰でもいいわけじゃない」
私は笑いながら返す。
「そりゃそうだよ。私だって誰でもいいわけじゃないし」
その瞬間、空気が変わる。
ゆうは立ち止まって、少しだけ息を吸う。
「……俺じゃダメか?」
冗談だと思いたい。
聞かなかったことにもできる。
でも、その言葉だけが、はっきり残る。
街の音が遠くなる。
三人だった距離に、戻れない線が引かれる。
その夜、どうしていいかわからなくて、私はりくにLINEを送る。
「ちょっと、相談があるんだけど」
少しして、返事が来る。
「何?」
「相談乗ってほしいの」
「悩み事?」
画面を見つめながら、私は打つ。
「んー、というか、困ったかな」
すぐに返事が返ってくる。
「じゃあ、帰りにスタバ?」
「スタバ高いよ。ファミレスのドリンクバーでいい」
「わかった。ガストな」
約束は、それだけで決まる。
*
ガストに着くと、りくはすでに席にいる。
「待った?」
「待ったけど、待ってない」
「どっちだよ」
ドリンクバーに行って、戻ってきてからは、しばらくどうでもいい話をする。
学校のこと、クラスのこと、いつもの会話。
グラスの氷が少し溶けた頃、私は意を決して言う。
「あのさ。たぶん、ゆうに告られた」
りくが一瞬、きょとんとする。
「たぶん?」
私は言葉を選びながら続ける。
「モテるんだから彼女作ったら?って言ったら、
誰でもいいわけじゃないって言われて。
そりゃそうだね、私も誰でもいいわけじゃないわって返したら、
俺じゃダメか?って」
一気に言ってから、りくを見る。
「これって、告白だよね」
りくは小さくため息をつく。
「……はぁ。その確認から?」
私は思わず真顔になる。
「そうだよ……」
少し沈黙が流れる。
「どうしようか。困った」
「困ってるのか?」
私はうなずく。
「そんなふうに思ってなかった。
ずっと、友だちだと思ってたから……」
りくはしばらく黙っている。
それから、静かに言う。
「そうか。ごめん、先に謝っておく」
「なんで、りくが謝るの?」
りくは少しだけ苦い顔をして言う。
「俺も、お前を困らせる」
「えっ?」
りくは目を逸らさず、続ける。
「俺も、お前のこと好きだ」
「付き合ってほしい」
言葉が落ちて、逃げ道がなくなる。
守っていたはずの均衡は、音もなく崩れる。
三人でいる時間が、一気に遠ざかる。
選ばなきゃいけない夜が、こんなふうに来るなんて思っていない。
夕暮れの帰り道。
もう三人で並ぶことはない。
影は二つか、一つで、三つになることはない。
「今日までありがとう」
「楽しい三人だった」
そう心の中で言って、私は一人で歩き出す。
呼ぶ名前の順番がずれていく。
夜だけが、静かに全部を知っている。




