秋波楓の述懐 4
「とりあえず、どうする? このままこの駅で待つ? それとも周囲を散策して、人家や店が近辺にないか調べてみる?」
一通りののしりあいの喧嘩をした後、丸山さんは中上さんを無視して私に話しかけてきた。
どうやら、中上さんのことを無視していないものとして振る舞うことにしたらしい。
丸山さんは、中上さんにはまったく視線を向けず、にこやかな笑顔を私だけに向けている。
「そうですね、この道の先に明かりが見えるので、何かあるかも知れませんし散策してみるのはいいかもしれませんね」
もしコンビニでもあれば、ここがどこかいるであろう店員に質問できるしなんだったら、始発までそこで時間をつぶすのもいいかもしれない。
そう言葉を繋ぐ。そうすると、中上さんがコンビニか、飲みなおすのに丁度いいな、といい一人で足早に道の先の光源に向かって歩き出した。
それに、無視していたのに、勝手に決めて行ってんじゃねぇーよ、丸山さんが毒づきながら続いた。
ぶつぶつと愚痴を言いながら歩む二人から視線を外し、無人の駅のプラットフォームを眺める。
そこには相も変わらず、『きさらぎ駅』と書いた駅看板が駅の明かりに照らされて存在している。
本当に、この駅がネットロアで語られる『きさらぎ駅』ならば、ここは普通の世界ではない。反応からして、おそらく丸山さんと中上さんは『きさらぎ駅』の話を知らないのだろう。
正直、ネットロアやネット怪談の類のものはネット上の創作物の類のもので、現実ではありえないオカルトの類のものだと、私、秋波楓は思っていた。
そう、常識で考えたらオカルトで作り話である。だから、常識で考えて、あの駅看板は作り物で、これはなにかのいたずらの類ではないのだろうか?
そう思うと、一瞬、気が楽になった。
視線を愚痴をこぼしながら歩んでいく、二人に向ける。スマホの懐中電灯アプリを使い、暗い森の中の夜道を二人は平和に歩んで行っている。
きっと、考えすぎなだけ。いたずらかなんかの類だろう。そう思い、私も二人に続いて遠くに見える道の先の光源に向かって歩みだした。
『きさらぎ駅』では相も変わらず、ただただ静かに闇の中に電車が停車し、佇んでいた。
道の先にあった光源の正体はコンビニらしきものだった。
らしきものと言葉を濁した理由、それは見知ったコンビニチェーンのどれでもない店舗だったからだ。
街中で見る、複数ある有名コンビニエンスストアのどの店舗とも違う外装で、店の名前も聞いたこともない名前だった。
田舎の一部地域だけに存在するローカルコンビニエンスストアの類の店舗だろうか、そう思いながら、私たち三人は店の軒先をくぐり中に入った。
煌々と森の闇の中で存在する店内は、外装こそ見慣れないが、店内の内装は見知ったコンビニエンスストアチェーンと似ていて、少し私はほっとした。しかし、店内をうろついてみて、すぐ違和感を感じ少しゆるんだ心が少し緊張した。
その違和感の正体はすぐにわかった。店内の大型冷蔵庫やら棚には様々な商品がコンビニエンスストアらしく陳列されている。しかし、その商品が似ているようで、見知った商品とパッケージが違うのだ。
まるで海外で売っている似せて作ったぱちもん。つまり、見知っているようで、違う商品ばかりがこの店では陳列されているのだ。はっきり言って、少し異様である。
「店員さんいないね。バックヤードにも誰もいないみたい。何か用事があってはずしてるのかな」
少し陳列されている商品に気圧されていると、丸山さんが話しかけてきた。
どうやら、不躾にもバックヤードまで覗いてみたようである。そして、バックヤードにも誰もいないし、電話もなかった、そう話した。
やはり、ここは少しおかしい。普通ではない。
先ほどまでいった駅の駅看板の文字が頭の中でちらつく。
『きさらぎ駅』。どこかわからない。でも、どこに存在し、たどり着いた人がいて、ネットでまことしやかに語られる場所。ネットロア。ネット怪談で語られる、普通ではない異世界に存在するとされる駅。
帰れるのだろうか? 確か、『きさらぎ駅』の報告者は消息不明になったはずだ。
言いようのない不安が首をもたげ、私は異様と感じる店舗で一人立ち尽くした。




