起こる
止まる、動く。その繰り返し。
止まっては動き、動いては止まる。その繰り返し。
闇から逃げようと必死にもがく。静寂な暗闇から光の下へ。光から伸びてきた手によって私は光へと引き寄せられる。闇から伸びた黒い手から離れ、光の下へと到達した刹那、私は目を覚ます。
息を切らし、頭に手を当てる。何度も何度も見てきた夢だが、今日のは一層鮮明だった。
「……あれは……何なんだ?」
幾度も考えたそのことを口にする。物心がついた時から見ていた夢。悪夢ではないが決して良いとは言えない夢。慣れたとはいえ夢見は悪い。
「飯食うか」
テレビをつけ、それを見ながらトーストを食べる。テレビでは最近、商業施設などで雨漏りが多発しているというニュースを報じていた。
トーストを食べ終わり、食後のコーヒーを飲んでいると、携帯が鳴る。
「はい、分かりました。すぐ向かいます。」
椅子の背にかけていたジャケットを羽織り、家を出る。
「被害者は田崎秋二、法学者です。最近、外国人参政権否定派として多数の講演会やテレビ番組に出演していました。」
「なら、敵も多かろう。しかし、この死に方ではなぁ」
被害者、田崎の死体は一見普通だった。しかし、死体の頭を見ればすぐに分かる。頭に杭でも打ち込まれたみたいに穴が空いているのだ。
「被害者の髪が濡れているが、何故だ?」
「被害者の奥さん曰く、被害者はよくあの椅子を部屋の中央に置き、そこで考え事をしていたそうです。天井の穴のことから最近起きているという雨漏りではないかと」
部屋の中央には椅子が倒れており、天井の中央には穴が空いている。最近多発しているという雨漏りの影響だろうか。部屋は荒らされていない。正確に言えば荒らされている。が、何も取られていない、ただ壊されているだけだ。
「お、おい。あんた」
その場にいた刑事が私に声をかけてくる。まぁ、一般的な刑事は私のことを知らなくても無理はないだろう。
「失礼。」
そう言って手帳を見せる。
「……失礼した。私は警視庁の尾鷲です」
「同じく鳩代です」
「改めて、警視庁公安警察所属、葛城悠斗です。」
「それで、公安がこの事件に何の用で?」
「その質問にお答えすることはできません。上司から口酸っぱく言われておりますので。」
そう断って、現場の調査を始める。物取りの犯行ではない。そもそも、物取りなら別の部屋で家事を行なっていた被害者の妻が気づくだろう。つまり、犯人は被害者の殺害を目的としているのは確定だろう。
「一旦、署に帰るか」
事件現場から署へと戻る。
「おはようございます。酢漿さん。」
「おはよう、悠斗君。どうだった?」
「死体の頭に穴が空いてました。それ以外は特には」
「そっか……ま、頑張ってね」
酢漿研吾警部。一応私の上司である。正直に言うと胡散臭い。メガネを外せばもう少しマシになるかもしれないが、今のままではマッドサイエンティストと名乗ってもギリギリ信じられるだろう。
「そういえば、あいつらは?」
「2人は他の仕事。風華君は武器の手入れ。あと、」
「なんですか?」
「またあの夢見たでしょ」
「……心読まないでください」
「目は口ほどに物を言うからね。仕方ないでしょ。」
だから、この人は嫌いなんだ。目を見ただけで心を見透かしてくる。ため息を吐きつつ、相棒の帰りを待つ。
「あらあら、どしたの?葛城ちゃん。ちゃんとご飯食べてる?」
「食べてますよ。片岡課長」
「まぁ、2人共仲良くやってね。ほら、2人今日相性いいから」
そう言って二つ折り携帯の画面を見せてくる。見れば、ネットでの相性占いでうお座とおとめ座が一位だった。確かに酢漿さんはうお座で私はおとめ座だが、
「これ、信じてるんですか?」
「当たるも八卦当たらぬも八卦そう言うものですよ」
「それ、占い見てる人間の言うことじゃ無いですよね」
そう言っていると、武器の手入れをしていた相棒が帰ってきた。相変わらず眠そうにしているがまた徹夜でもしたのだろうか
「おはよ。風華」
「おはよう。悠斗」
「また、徹夜?」
「ちゃんと仮眠はとったわよ」
嘘では無いだろうが、大した時間は取っていないだろう。目の下にはいつも通りの隈がある。
「ちゃんと寝ろよ。整備の頻度下げたら?」
「そうはいかないわよ。備えあれば憂いなしでしょ。」
「それもそうだな」
そう言って彼女に事件の共有を行う。
「……つまり、被害者は死亡時に天井に空いた穴の近くにいた。」
「だから、何らかの言業によって天井ごと頭に穴を開けられたんじゃ無いかってのが私の推測。」
「だとしてよ、犯人はどうやって特定するの?」
「最近、商業施設などで、原因不明の雨漏りが頻発しているらしい。そしてこれも同一犯の犯行だろう。」
「なら、それが実験の可能性が高いわね。そして、計画を実行に移した。」
「その仮説が正しければ犯人は事件発生時にその商業施設全てに居た可能性が高い。」
「……となると、結局足?」
「そうなるな。手分けして商業施設の防犯カメラ映像の入手を」
「了解。」
私たちは署を出て各商業施設へと向かう。被害にあった商業施設は多く、都外にすらあった。全ての映像を持ち帰り、署へと戻る。
「やっぱり、人が多いわね。」
「あぁ。でも、全部に訪れている奴は少ないはずだ。そいつを洗い出す。」
とは言え、やはり人数が膨大であり、尚且つ映像の数自体も多いのでほとんど機械任せになっている。
「ねぇ、」
風華に呼びかけられ、振り返る。
「どうした?」
「これ、見つからなかったらどうするの?」
「被害者は移民擁護派の立場を取っている団体"岐山会"のトップと親しいらしい。だから、これで容疑者を絞れなきゃ岐山会の敵対組織である"銀友会"の構成員を片っ端からあらうしかないね。」
「それはそれで大変ね。」
「それでもやるしかないだろ。それが私たちの仕事なんだから」
そう言って再び分析を続ける。とはいえ彼女言うことも最もだ。見つからなかった時のために危険人物の洗い出しはすべきだろう。そう考えていると、後ろから声をかけられる。
「どーしたの、悠斗ちゃん。」
「課長ですか。映像分析で容疑者があがらなかった時のことを考えてましてね。」
「なら、銀友会への調査は後回しにしといた方がいいよ。そこ、ある政党との関係で近々ガサ入れ行く予定あるから。」
「本当ですか!」
「まぁ、見つかる方がいいだろうけど、見つかんなかったらガサ入れ、行ってみてもいいんじゃないかな?」
「ありがとうございます。」
「いいのいいの、それじゃあね」
そう言って課長は、去っていく。口調はふざけているが、なんだかんだ面倒見が良くていい上司だ。
「もうちょと、頑張るか」
課長から渡されたコーヒーを飲み、伸びをして解析を続ける。風華の方は銀友会の方を調べてもらっているが、引き上げてもらってもいいだろう。
「こいつか」
容疑者が見つかった。




