第1話:穏やかな日常と忘れ得ぬ記憶
この作品は転生モブ令嬢ですが、破滅フラグを論破したら攻略対象たちに囲まれてしまいました。の続編の立ち位置の作品ですので、先に前作をお読みいただくことをお勧めしております。
春の陽光が柔らかく学院の庭を包み込む。
花壇の花々が風に揺れ、子供たちの笑い声が遠くから響いていた。
ユリア・セレスタインはベンチに腰掛け、穏やかな午後のひとときを過ごしている。
彼女の隣には、親友のアメリアが紅茶を手に微笑んでいた。
「……こうして平和な日々が続くなんて、昔は考えられなかったわね」
「本当に。断罪イベントや破滅フラグの恐怖が、まるで遠い夢のよう」
ユリアの目は静かに揺れていた。胸の奥に消えない感情が渦巻いている。
――あの時の出来事を、あなたは覚えている?
あの日、悪役令嬢を断罪するはずのイベントに巻き込まれ、トラックに轢かれ、転生した。
地味で無名のモブ令嬢に――
でも、ユリアは知っている。
ただのモブではない。元探偵としての鋭い論理と推理を駆使し、破滅フラグを論破し続けてきた自分を。
「ねぇ、ユリア。最近学院でまた奇妙な事件が起こっているの、知ってる?」
アメリアが言葉を続ける。
「小さな誤解から始まった噂話が、毒入りクッキー事件にまで発展して……」
ユリアは軽く微笑んだ。
「論理的に考えれば、犯人は必ず動機があるはず。私に調査させて」
翌日。
ユリアは学院の図書室で資料を漁りながら、推理の糸口を探していた。
そこへ、見知らぬ青年が静かに近づく。
「ユリア・セレスタインさんですね。私はアルベリク・グレイム。新任の歴史教師です」
彼の瞳には謎めいた光が宿っていた。
「あなたが最近、事件の調査を始めたと聞いています。……少し話がしたい」
ユリアは少し警戒しつつも、静かに答えた。
「話を聞こう。だが、私の時間を無駄にはしないでほしい」
夕暮れの教室。二人は向かい合い、慎重に言葉を交わす。
「君の存在は、この世界のシナリオに“異常”をもたらしている。これは単なる偶然ではない」
アルベリクの口から飛び出した言葉に、ユリアの眉がひそむ。
「“シナリオ調整者”……? そんな存在があるというの?」
「そう。君のように物語の筋書きを書き換える者は、均衡を崩す存在だ。だから私は修正に来た」
だがユリアは一歩も引かなかった。
「私は“誰かが決めた筋書き”に縛られるつもりはない。
自分の物語を、自分で書きたい」
その夜、ユリアは静かな図書室に戻り、再び推理の糸を紡ぐ。
ページをめくるたびに、彼女の決意は固まっていった。
「たとえ世界が揺らごうとも、私は論理と真実で、この物語を守り抜く――」
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