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トワイライトエクスカリバー

 廃墟の中央で闇を纏ったイシュレッドが立ち尽くす。その姿はこれまでの彼とは明らかに異なり、圧倒的な威圧感を放っていた。闇のオーラはさらに濃く、周囲の空気を歪ませるような力を感じさせる。


イシュレッドは手を広げ、不敵な笑みを浮かべた。


「これは……お前たちの住む世界の悪意が生み出した力だ」


その言葉にアキラとミキは互いに一瞬視線を交わした。イシュレッドの足元から立ち上る黒い波動が、さらに大きく渦を巻いている。


「ここ数日、この街の人々の不安、不満、憎悪……それらすべてが私の力となった。素晴らしいものだ」


彼はその手を掲げると、闇の波動が一点に収束し、次第に形を成していく。それは鋭利な闇の槍となり、黒く光るその刃先が不気味な冷気を帯びていた。


「見よ、これがこの世界の悪意の力が具現化したものだ」


イシュレッドの手に握られた闇の槍は、まるで生きているかのように脈動している。彼はそれを軽々と振り回し、その一振りで廃墟の床がひび割れ、瓦礫が宙に舞った。


「素晴らしい力だ。この闇の深さ、そしてその美しさ……存分に味わわせてやろう」


イシュレッドは一瞬の間を置き、槍をアキラに向ける。瞳には冷たい光が宿り、その殺意が彼に直接迫ってくるようだった。


「死を恐れずに挑むお前に……これを送ろう」


言葉と同時に、イシュレッドは槍を一閃。黒い閃光がアキラに向かって突き進む。その速さは、肉眼では捉えきれないほどだった。


「っ……危ない!」


リアの声がアキラのイヤホン越しに響く。だが、アキラは瞬時に体を低く構え、剣豪スキルの「見切り斬り」を発動させた。


「剣豪の技――見切り斬り!」


 体を斜めに滑らせるようにして、アキラは槍の攻撃をギリギリでかわす。その刃先が彼の頬をかすり、鋭い痛みと共に冷や汗が滴り落ちた。


「速い……!」


 アキラは内心の動揺を隠しながら、冷静を保とうとした。だが、その槍の速度は明らかに彼の反応を上回っており、わずかなミスで致命傷を負う可能性を感じさせるものだった。


 一方で、ミキはストラテゴウスを駆使し、イシュレッドの動きを解析しようと試みていた。しかし、その槍の速度はストラテゴウスの思考速度すらも超え、サポートの指示を出す余裕すら与えてくれなかった。


「ストラテゴウスの解析が追いつかない……!」

ミキの手が震える。これまで頼りにしてきた戦術解析が通用しない現実に、焦りが募る。


「ミキ、落ち着いて!アキラをサポートするために、今は回復に集中して!」

セルスが冷静に指示を飛ばす。


ミキはその声に深呼吸し、すぐに回復魔法を構成した。


「光よ、癒しの力となれ――『ルミナス・ヒール』!」


アキラのかすり傷が瞬時に癒される。だが、その間にもイシュレッドの攻撃は止まらない。


イシュレッドの槍の速度に圧倒されつつも、リアが冷静に提案を口にした。


「アキラ、あの槍をクリエイトキャプチャで素材にしてしまえばどうかしら?あれが彼の最大の武器なら、それを無効化できれば優位に立てるわ」


アキラはその提案に一瞬考え込むが、すぐに首を振った。


「まだ早い。もしあれが最後の切り札じゃないなら、警戒されて次はもっと対策を立てられるかもしれない。それに、まだイシュレッドの力を全部引き出していない気がする」


その言葉にリアは納得しつつも、「じゃあ次の手はどうするの?」と問いかける。


「僕たちの手の内を隠しつつ、もう少し様子を見るしかない」

アキラは剣を構え直し、再び攻撃の隙を探る。


イシュレッドの槍の動きはますます速さを増し、二人の反応速度を次第に凌駕していく。アキラは剣豪スキルを駆使し、なんとか攻撃をかわし続けるが、動きには疲労の色が見え始めていた。


「ミキ、僕が防ぎきれなかった分は頼む!」

アキラが声を上げる。


「分かった!防御魔法を追加する!」

ミキはストラテゴウスで新たな防御魔法を構成しようと試みたが、次々と繰り出される槍の攻撃に圧倒されている。


「光よ、盾となりて――『ルミナス・ガーディアン』!」


ミキが防御魔法を展開し、アキラを覆うように光の壁が広がる。しかし、イシュレッドの槍が壁に衝突するたびに、その輝きが揺らぐ。


「ミキ、回復も忘れないで!」

セルスが声を飛ばす。


「分かってる!光よ、癒しの力となれ――『ルミナス・ヒール』!」


ミキの必死のサポートにより、アキラは再び態勢を立て直したが、イシュレッドの猛攻は止まらない。


「さあ、次はどうする?もう手は尽きたか?」

イシュレッドの声が冷たく響く。


イシュレッドの闇の槍がアキラとミキを執拗に追い詰める中、その冷酷な笑みはますます深くなっていた。


イシュレッドの手の動きは流れるようで、無駄が一切ない。攻撃の度に黒い閃光が空間を切り裂き、廃墟の床には無数のひびが刻まれていく。


「どうした、まだ立ち上がるのか?」

イシュレッドの声には嘲りが込められていた。イシュレッドは軽く槍を回しながら、二人を見下ろすように言った。


「見ろ、この圧倒的な力の差を。お前たちには、もはや抗う術などないはずだ」


アキラは息を荒げながらも剣を握り直し、ミキは震える手でストラテゴウスを操作し続けていた。その姿に、イシュレッドは一瞬の疑念を覚える。


「妙だな……普通ならここまで追い詰められれば瞳の輝きは失われるものだ。だが、あいつらの目は未だに光を宿している……」


イシュレッドは眉をひそめ、静かに槍を振る。その一撃でアキラの剣が弾き飛ばされ、彼は後方へと大きく飛ばされる。ミキもその余波でバランスを崩し、倒れ込みそうになる。


「何か隠しているな……」

イシュレッドの冷徹な声が響く。


「ならば、このまま倒すだけだ」

イシュレッドは槍を再び振り上げ、アキラに向けて突き出した。黒い波動が槍の刃先から放たれ、空間を歪ませながらアキラを飲み込もうとする。


「アキラ!危ない!」

リアの叫び声がイヤホン越しに響く。アキラは咄嗟に剣を構え直し、見切りの動きで間一髪かわしたが、その余波で壁に激突し、瓦礫の山に埋もれた。


「アキラ!」

ミキの声が震える。


イシュレッドは槍を振り下ろしながら冷たく笑った。

「どうした、お前たちの切り札を使ってみろ。まさか、これが全力ではないだろうな?」


ミキは震えながらもストラテゴウスに意識を集中させた。画面上には次々と解析データが表示されるが、イシュレッドの動きが速すぎて反応が追いつかない。


「ダメだ、間に合わない……!」

彼女は涙を浮かべながら悔しそうに呟く。


イシュレッドの攻撃は容赦なく続き、彼の槍が放つ一撃一撃が、二人の体力と精神を削り取っていく。


「どうした、これが限界か?もうおしまいか?」

その言葉と共に、イシュレッドの槍が再び黒い波動を纏いながら二人に迫る。


アキラは剣を辛うじて構え直し、何とか立ち上がろうとするが、その体は限界に近づいていた。呼吸が荒くなり、視界が揺れる。


「……まだ、終わってない……」

彼は弱々しくもつぶやいた。


ミキもまた、震える手を押さえつけながら光属性の魔法を構成しようとしていたが、指がうまく動かない。冷たい汗が額を伝い、意識が遠のきそうになる。


「私たちはまだ戦える…」

ミキが呟くが、その声は震えている。


イシュレッドはその様子を見てさらに追い詰めるように槍を振るいながら冷たく笑う。

「戦えるだと? 私の力を前にして、それが通じるか試してみろ!」


二人は完全に窮地に追い込まれていた。だが、その瞳の輝きだけはまだ消えていなかった。それを見たイシュレッドがふと立ち止まり、鋭い目で二人を見据えた。


「……なるほど。やはり何かを隠しているのか……」


彼の声には微かな警戒心が滲み始めたが、その手の動きは止まることなく、さらに強力な一撃を放とうとしていた。


「ならば、その『何か』とやらを暴く前に、この場で完全に叩き潰してくれる!」


空間を切り裂くように、イシュレッドの槍が黒い閃光となって二人に迫ったその瞬間、ミキの耳元でストラテゴウスの冷静な声が響いた。


「危険を察知しました。自動モードに移行します」


ミキの手元に握られていたスマホが光り始め、ストラテゴウスが自動的にアルケウスを操作して魔法を構成し始める。画面に素早く詠唱文が流れ、直後に強烈な光の魔法が放たれた。


「光よ、闇を断ち切れ――『ルミナス・ブラスト』!」


光の奔流がイシュレッドに向かって一直線に走り、イシュレッドの槍を弾き飛ばす。トドメを刺そうと攻撃に全ての意識を集中させていたイシュレッドは、一瞬の隙を突かれ、その光をまともに受けた。


「ぐっ……!」

イシュレッドの体が大きく後退し、黒い霧が彼の周囲に散る。一瞬、驚愕の表情を浮かべたが、すぐに冷たい笑みを取り戻す。


「なるほど……その光属性の攻撃が貴様らの切り札か」


彼はゆっくりと槍を構え直しながら、不敵な目で二人を見下ろす。

「だが、それも無駄な抵抗だ。ならば、その希望の光を消し去ってやろう」


イシュレッドが手を広げると、闇の波動が彼を中心に広がり始める。黒い霧が蠢き、空間が歪む。その瞬間、空全体がさらに暗くなり、視界がほとんど奪われた。


「これが闇の領域だ。この中では、貴様らの希望は無力だ」


闇の領域が広がる中、セルスの声がイヤホン越しに響いた。


「ミキ、今よ!あなたの力を見せて!」


ミキはセルスの言葉に頷き、深呼吸をして静かに詠唱を始めた。


「光と闇の力よ、相交わりて闇を打ち払え、光と闇は共に存在し、お互いを調和せよ――『ルクス・ノクティス』!」


眩い光と深い闇が一体となり、空間全体に広がる。闇の領域が揺らぎ、イシュレッドの表情が険しくなる。


「これは……何だ?」


ミキはその光と闇が調和する様子を見つめながら、はっきりと言葉を放った。


「闇は憎悪や憎しみだけじゃない。静寂や平穏、安らぎ、秩序の象徴でもある。そして光は希望、勇気、愛の象徴だ。だから光と闇は反発するものじゃない。昼もあれば夜もある。それが世界の真理よ」


イシュレッドの顔が怒りで歪む。「戯言を……!」


彼は懐から黒い結晶を取り出し、それを手の中で握りしめた。


「ならば、この闇の結晶で全てを覆い尽くしてやる!」


結晶が闇の波動を放ち始めたその瞬間、アキラの目が鋭く光る。彼はすかさずクリエイトキャプチャを起動し、闇の結晶をスマホで撮影した。


「ここだ……!」


アキラは光の剣を掲げ、その画像データを素材として光の剣と合成を開始する。リアが指示を飛ばす。


「アキラ、急いで!その結晶を取り込む前に!」


アキラは冷静に操作を続け、画面に完成した剣のデータが表示される。

「闇と光の力を持つ剣……闇と光の剣トワイライトエクスカリバー、完成だ!」


彼の手の中に現れたのは、光と闇が同時に宿る美しい剣だった。片方の刃は輝くような白光を放ち、もう片方は深い闇を纏っている。


アキラはその剣を握りしめ、イシュレッドを見据えた。


「お前が言う闇の力、その本質を俺たちが見せてやる!」


イシュレッドが憤怒の表情で叫ぶ。「何だその剣は……!?」


リアが笑みを浮かべて言った。「この剣は光と闇の調和の象徴よ。お前の一方的な闇の支配は、ここで終わるわ!」


アキラとミキは力を合わせ、ついにイシュレッドの領域を切り崩し始める。光と闇が交錯する中、戦いは最高潮へと突入していく――

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