進化する支援アプリ
クルスは「リシアの地下」について異世界ブラウザで調べていくうちに、そこが黄昏の契約者の拠点であり、闇の魔女復活を目的とした儀式の場である可能性が高いことを突き止めた。
リシアの地下のマップを開くとかなり入り組んでいてまるでダンジョンのようになっていた。敵の数も多そうだ。
地下3階に一際広い部屋を見つけた。その真ん中にピンク色の見慣れない丸があった。
「リアは青、敵は赤、ピンクはなんだ? もしかしてこれは探し物の場所を示しているのかもしれない。だとするとここに古の書が置かれているのか?」
「奴らはリアの事を封印を解く鍵だとも言っていた。罠も仕組まれているかも」
ふと先日の契約者が死の直前「リシアの地下」と最後に漏らした場面を思い浮かべる。
「うん、これも含めて罠という可能性も考慮が必要だな」
リシアの地下の危険性を知るたびに、リアを支える自分のサポートが本当に十分か、不安が募っていく。
「このままじゃ、リアを守りきれないかもしれない……」
クルスは改めて現状のサポートを見つめ直し、現在の連携の課題を整理し始めた。
まず、視覚情報の共有がないことで、リアの音声だけを頼りに指示を出す今の方法では限界がある。リアが見ている世界をクルスも共有できれば、リアの状況をより正確に理解し、タイムラグなく支援できるはずだと考えた。
「音声じゃなくて、リアの視覚情報も共有できたら……」
リアは以前、「共鳴」が鍵になると話していたのを思い出す。彼女が誰かに助けを求めたときの強い気持ちが、異世界にいるクルスとつながる共鳴を生んだ。
そしてメッセージも、リアの「伝えたい」という気持ちが共鳴となり、二人の間で通信が実現した。もしリアがクルスに視覚を共有したいと強く願えば、それも共鳴によって実現できるのではないかと考えた。
また、魔法の検索スピードも問題だった。魔法翻訳アプリで検索するたびに時間がかかり、リアが窮地に立たされることもあった。
魔法を効果で絞り込み、すぐに適切な魔法を提示できれば、彼女に迅速なサポートができるだろう。
クルスはまず、この二つの問題を解決するため、アプリ開発に本腰を入れた。
これまでのアプリ開発は趣味程度だったが、リアを守るために本格的に取り組むことを決意する。学校の休み時間も惜しまず、アイデアを練り、手を動かした。
しかし、実際に開発を進める中で、クルスは自分の知識と技術の限界を痛感することになった。
既存の機能を活かしつつも、新たな視覚共有機能や魔法検索機能の追加には、より高度な技術と知識が必要だったのだ。コードの難解な部分に行き詰まるたびに、自分の未熟さが身に染みて感じられ、歯がゆさを覚えた。
「今の俺の知識だけじゃ、リアを完璧にサポートするには足りないな……」
クルスは改めて自身の成長の必要性を痛感した。リアを助けるためには、今以上に技術力を磨き、アプリ開発の知識を深める必要がある。
アップデートの方向性を考えるため、インストールされているアプリをクルスは眺めていた。クルスは魔法翻訳アプリに表示されている複雑な魔法陣を見ながら、その構成される要素の規則性がまるでパズルのような難解さを持ちそれがクルスの好奇心を刺激した。
「しかし、ルーセリアの魔法は面白いな。魔法の効果が近いと魔法陣も似ているし複雑な魔法だと魔法陣も複雑になる。解析すれば自由に魔法を合成する事もできるかもしれないな… 魔法陣のスクリーンショットでも取っておくか。とりあえずは今、出来る事を準備しよう。」
リアが危険に直面したときに、どんな状況でも適切な支援ができるように、自分はもっと成長しなければならない――その思いが、クルスの胸に強く刻まれた。
その後、何日間も学校も行かずに試行錯誤しながら二つのアプリをクルスはようやく完成させた。
「UIはイマイチだけど自分が使う分には充分だろ」
※ ※ ※
新機能「オプティ・ソーサリー」
魔法翻訳アプリに「効果でのソート機能」を組み込み、必要な魔法が素早く選べるように改良。目的に応じた魔法がすぐに表示されるため、戦闘中のリアの状況に合わせて迅速に指示を出せるようになった。
新機能「シェア・ヴィジョン」
視覚情報の共有アプリも完成し、リアの視界をクルスのスマホに映し出せるようにした。異世界のマップと連携し、敵の位置も把握できるように設定。リアが共鳴の力で視覚を共有したいと強く願えば、このアプリを通じて視覚情報もリアルタイムで受け取れるようになる。
※ ※ ※
完成したアプリを確認し、クルスはリアにメッセージを送信した。
「リア、新しいアプリが完成したよ。『オプティ・ソーサリー』で素早く魔法を検索できるし、『シェア・ヴィジョン』で君の視覚情報も共有できるかもしれない。これで、もっと君をサポートできるはずだ」
しばらくしてリアから呼び出しがかかり、クルスは彼女と通信が繋がる。
「クルス、本当にすごいわ……これで、戦いの時ももっと安心して動けそう」
「喜んでもらえてよかったよ。さっそく機能を試してみようか?」
クルスは、まず「オプティ・ソーサリー」の検索機能を試し、リアが使えそうな聖属性の魔法を検索する。リアも指示に従って詠唱内容や魔力の使い方を確認し、すぐに使えることを実感した。
「これなら、緊急時にも迷わず魔法を使えるわね」
「それじゃあ、次は『シェア・ヴィジョン』を試そう。リアが視覚を共有したいと願えば、僕に君の視界が映るはずなんだ」
リアは少し緊張しつつ、目を閉じてクルスと視覚を共有したいと強く願った。
その瞬間、胸の奥で微かな響きが広がり、心の奥底でクルスと繋がるような感覚が生まれた。クルスの声がいつもより近くクリアに聞こえる。今まで感じたことのない、身体すらも繋がっているような感覚に、リアは少し戸惑いつつも温かさを感じていた。
「これが……誰かとつながるということなの……?」
リアが目を開けると、クルスのスマホに彼女が見ている光景が映し出されていた。
異世界の街並み、風に揺れる木々の様子、彼女が見ているすべてがリアルタイムでクルスに伝わっている。
「リアの視界が見えてる!これが君が住んでいる世界なんだね。よかった成功だ」
異世界はクルスの住むコンクリートで作られた無機質な現実世界とは違い、リア越しに窓から見える景色———煉瓦作りの道や、ガスランプのような街灯の柔らかな光などが中世のヨーロッパのような雰囲気を醸し出していた。
クルスが興奮気味に声を上げると、リアも笑みを浮かべた。「本当に不思議な感じ……でも、あなたと一緒に戦っているみたいで心強いわ」
二人はその瞬間、深いところで心と身体が結びついたのを感じていた。
リアはふと、クルスに尋ねた。「ねえ、どうしてクルスはそこまでしてくれるの?」
クルスは少し考えたあと、静かに言葉を紡いだ。「俺にはずっと特別な目標もなくて、ただ毎日を過ごしていただけだった。でも、リアと出会って、君が俺を頼ってくれることで『誰かの力になれる』って思えたんだ。だから、君を守りたいし、支えたい」
リアは彼の言葉に驚き、少し目を伏せた。「……私はエルフの剣士として、一族の誇りを背負ってきた。でも、古の書のことがどうしても不安で……本当は、怖いの」
自分が弱音を吐いていることに気づき、リアは一瞬戸惑った。彼女は誇り高い剣士としての役目を守り通してきたが、クルスには素直に心を開いてしまう自分に驚いていた。
「(こんなこと、誰にも言えないのに……)」
クルスは静かに彼女の言葉を受け止め、優しい声で答えた。「リア、どんなに強い人でも、不安や弱さを抱えることはある。でも俺がいる」
リアは彼の言葉に心が温かくなり、少し安堵の息をついた。「ありがとう、クルス……あなたがそばにいてくれると、心が軽くなるわ」
「よし、それではリシアの地下攻略に向けて作戦を立てよう!」
読んでいただきありがとうございました!
続きも頑張って描きますので応援お願いします!