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闇の中心地

 ストラテゴウスが導き出した黄昏の契約者の居場所。それは街外れの廃墟――長い間放置され、今では誰も近寄らない場所だった。クルスとアキラは魔法陣が示す方角に向かって歩いていた。


「この先に何が待ってるんだろうな」

アキラが不安そうに呟く。手にはリアから転送された光の剣が握られている。その輝きは周囲の闇を照らし、微かな希望を与えていた。


クルスはスマホを片手に【アルケウス】を操作しながら答える。

「分からない。ただ、奴はただの契約者じゃない。これまで感じたことのない魔力の濃さだ。気を引き締めていこう」


アキラがリアと視線共有を繋いでいることで、クルスの姿はリアにも見えていた。視線共有越しにクルスの姿を初めて見るリアは、胸に込み上げる感情を抑えられなかった。


(……ずっと、会いたかった。)


リアの中で、封印を解いてしまったあの日の記憶が蘇る。闇の魔女の封印を解いてしまったことで、クルスとの共鳴が途切れてしまった。それ以来、クルスと再び繋がることを信じて戦ってきた。


だが今、こうして視線共有越しにでも彼を見ることができる――それだけで涙が出そうになる。


リアの気持ちを察したかのように、アキラが言葉を投げかけた。

「リア、感動の再会は後にしようぜ。今は戦闘に集中してくれ」


リアはハッと我に返り、静かに頷く。

「そうね……ごめんなさい。でも、クルス……私はあなたを信じているわ」


スピーカーフォン越しのリアの声にクルスは微笑みながら答えた。

「ありがとう、リア。俺も君を信じている。だから、俺たちを見守ってくれ」


その会話を聞いていたセルスは、少し複雑な感情を抱いていた。彼女もまた、クルスに特別な感情を抱いていたのだ。だが、今の彼にはリアとの信頼関係がはっきりと見て取れる。


(クルスはリアを本当に大切に思っている……私の気持ちはどうすればいいのかし。)


セルスは胸の内に小さな棘を感じながら、それを表に出さないよう努めた。


廃墟の中へ足を踏み入れると、空気が一気に重くなった。天井から差し込むわずかな月明かりも、黒い闇に飲み込まれているようだった。


「来たか……」

クルスは目を細め、前方に広がる闇を睨みつける。その闇の中から、冷たい声が響いた。


「愚かなる者たちよ。黄昏の領域へようこそ」


黒い霧が渦を巻き、その中からイシュレッドが現れた。その存在感だけで二人の体が硬直する。イシュレッドは彼らを見下ろし、冷たく微笑む。


「ここまで来た勇気は認めてやる。だが、それがどれほど無意味なものか教えてやろう」


廃墟の中で、クルスはアキラと共にイシュレッドを前に立ち尽くしていた。その圧倒的な存在感に、身体が硬直しそうになる。イシュレッドの冷笑が二人を貫いた。


「さあ、始めようか。お前たちの無謀な挑戦を、この黄昏の領域で終わらせてやる」

イシュレッドは闇をまといながら冷たく言い放つ。


クルスは【アルケウス】を操作し、まずは戦況を整える魔法を展開した。

「防御魔法シールドフォートレス。風と光の守護よ、我らを包め!」

青白い光の結界がアキラと自分を包み込み、空気の重さが少しだけ和らいだ。


アキラが光の剣を構えながら一歩踏み出す。リアの声が彼の耳に響いた。

「アキラ、右に回り込んで一撃を狙って!その後すぐに距離を取って!」


「分かった!」

アキラは剣を握り直し、リアの指示通りに右側に回り込むと、力強い一撃を振り下ろした。剣先がイシュレッドの影の防御をわずかに裂き、黒い霧が散った。


「ほう、少しはやるようだな」

イシュレッドは軽く舌打ちしながらも冷静な態度を崩さない。


クルスは次の魔法を構成し、アキラを強化する準備を進める。

「攻撃強化ブレイズブースト。炎の力よ、剣に宿り敵を討て!」

アキラの剣が赤い炎に包まれ、闇を切り裂く威力を増す。


アキラが燃え盛る剣で再びイシュレッドに向かう。剣技はリアの指示と彼自身の動きで力強さを増していたが、イシュレッドは影を操り、その攻撃を冷静にいなす。


「タイミングはいい。だが、技量がまるで足りていない。それで俺に届くと思うか?」

イシュレッドの冷たい嘲笑が響き、影の触手がアキラを襲う。


「防御魔法エアバリア。風の盾よ、影を弾け!」

クルスの詠唱と共に、風の壁がアキラを守り、影の攻撃を防ぐ。アキラはすぐに体勢を整え、距離を取る。


「サポートは任せろ、アキラ!」

クルスは続けざまに魔法を構成し、アキラの動きをさらに強化する。

「速度強化スピードフロー。流れる風よ、足元を軽やかにせよ!」

アキラの動きが目に見えて速くなり、イシュレッドの影の攻撃を避けながら再び剣を振り下ろす。


クルスは攻撃の主導権を握るため、合成魔法を次々に発動させた。

「攻撃魔法ライトスパイク。光の刃よ、影を貫け!」

空中に浮かび上がった無数の光の槍が、イシュレッドを目がけて一斉に放たれる。


イシュレッドは軽く手を振り、影の壁を作ってその攻撃を防ぐ。だが、その防御を破るべくクルスはさらに詠唱を重ねた。

「連携魔法ライトエクスプロージョン。光の爆発よ、影の壁を砕け!」

光の槍が爆発を引き起こし、影の壁が崩れかける。


イシュレッドが一瞬顔を歪めたのを見て、クルスは畳み掛けるようにさらに合成魔法を発動する。

「攻撃魔法サンダーブラスト。雷の怒りよ、影を焼き尽くせ!」

青い稲妻がイシュレッドの影を裂き、廃墟全体に雷鳴が響いた。


「やるな……ここまでやるとは思わなかった。しかもルーセリアの魔法をお前が使うとは…どういうことだ?」

イシュレッドの声には、わずかな驚きが混じっていた。


だが次の瞬間、イシュレッドは両手を広げ、闇を呼び寄せた。

「…だが、ここまでだ」


黒い霧が急速に広がり、周囲の空間を飲み込んでいく。

「これはお前たちの世界の悪意が生み出したものだ。お前たち自身の深い悪意が、俺の力をさらに強化している。」


クルスとアキラは光の剣や魔法で攻撃を試みるが、すべてが無効化される。

「くそ……!光の力が通じない!」

クルスは焦燥感を抱きながら、【ストラテゴウス】を起動する。画面に警告が表示された。

「現在の戦力では勝機なし。転移魔法を使用して退避せよ。」


クルスは即座に決断し、転移魔法を構成する。

「転移魔法エスケープゲート。時空の扉よ、我らを導け!」


光の魔法陣が展開され、アキラとクルスを包み込む。だがその瞬間、イシュレッドが冷たい声で言い放った。

「逃げるか、いい判断だ…だが、逃げても無駄だ。お前たちは黄昏の終焉から逃れられない」


転移魔法が発動し、クルスとアキラはアキラの家に転送された。


薄暗いリビングの中、二人は息を整えながらソファに倒れ込んだ。クルスは汗だくで、胸を押さえながら疲れ切った顔をしていた。一方、アキラも光の剣を床に置き、肩で息をしている。


初めての戦闘を終え恐怖が後からクルスとアキラを襲った。


4人はスピーカフォンに切り替えて話す事にした。アキラのスマホ越しにリアの声が響いた。

「クルス、アキラ、無事でよかった……本当に心配したのよ」


クルスはスマホを手に取り、弱々しいながらも返事をした。

「なんとかなった。けど、全然勝てる相手じゃなかったな」


リアの声が一瞬詰まり、その後続けた。

「……ごめんなさい。私、何もできなかった」


セルスもクルスに話しかける。

「クルス、支えるはずの私が、結局何もしてあげられなかったわ。あんな状況では、共鳴の力がどれほど重要か改めて痛感した」


クルスは深く息を吐き、リビングの天井を見上げた。

「いや、今回の戦いで一番問題だったのは俺だ。敵を目の前にして冷静さを欠いた。アルケウスでいくつかの魔法を合成して攻撃できたけど、もっと効率よく使うべきだった」


アキラも顔を上げ、真剣な表情で話を始めた。

「僕もダメだった。リアの指示がなかったら何もできてなかったし、クルスの強化魔法がなかったら即やられてた。実戦経験も技術も足りてない」


リアの声がアキラ越しに響いた。

「でも、アキラ、初めての戦いだったのにここまでできたのはすごいと思うわ。もっと訓練すればきっと……」


アキラは首を横に振った。

「それだけじゃダメだって分かったんだ。俺のクリエイトキャプチャは、アイテムを生み出す能力なのに、それを全然生かせてなかった。もっと作戦を考えておくべきだったよ」


クルスはアキラの言葉に頷きながら、思案するようにストラテゴウスを起動した。

「イシュレッドが展開した“闇の領域”のせいで、光属性魔法が完全に無効化された。そこが最大の壁だ。俺たちの戦力の多くが光に依存しているから、突破口を見つけないと次も厳しい」


リアが慎重に言葉を選びながら話を続けた。

「あの領域……普通の闇魔法じゃない。おそらく、現実世界の悪意そのものを利用しているんだと思う。ルーセリアの魔法だけで対処できるかどうか……」


セルスがリアの言葉を引き継ぐように口を開いた。

「つまり、今の私たちだけでは足りないということね。でも、クルス……あなたなら解決策を見つけられるはずよ。あなたのアルケウスと、冷静な判断力を信じてる」


クルスはセルスの言葉に微笑んだが、どこか疲れた表情を浮かべていた。

「ありがとう、セルス。次は必ず勝てる方法を見つける」


アキラも剣を握り直し、決意を新たにしたように言った。

「僕ももっと訓練する。リア、次はリアに頼り切りにならないようにするよ」


リアはその言葉に少し驚いたような声を出したが、すぐに真剣な口調に戻った。

「……分かったわ。私もクルスやアキラを助けるために全力を尽くす。次は絶対にイシュレッドに勝ちましょう」


四人はそれぞれの思いを胸に刻みながら、次の戦いに向けて動き出す決意を固めた。この敗北は、ただの敗北ではない。次に繋げるための重要な経験だった。

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