表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/91

光の調律者の眷属

 重厚な扉が低い軋み音を立てて開くと、その先には暗闇が広がっていた。空気は湿り気を帯びどこか重かった。


そこは、闇の魔女が長い時を過ごしてきた拠点であり、すべての始まりと終わりを内包する空間だった。


無数の柱が影の中に立ち並び、中央には黒い炎が揺れる魔法陣が刻まれている。


その玉座には、闇の魔女が不敵な微笑みを浮かべながら座していた。彼女の黒髪は風もないのに揺らめき、その瞳は深淵のように暗く、すべてを見透かす冷たさを持っている。


「戻りました、魔女様」

その静寂を破ったのは、跪く一人の女性――ミルニアだった。彼女の甲冑は傷だらけで、顔には疲労が浮かんでいる。東の大陸と西の大陸を巡り、光の継承者を探し出すという使命を終えたばかりの姿だった。


「報告を」

魔女は視線を動かすことなく冷たく命じる。その一言には絶対的な威厳が込められていた。


ミルニアは肩を震わせながらも、頭を深く垂れたまま報告を始めた。


「魔女様の命に従い、東の大陸と西の大陸を調査してまいりました。その結果、光の継承者を確信しました」


「話せ」


「東の大陸には、エルフの剣士リアンナ・サリアスフィンがいます。彼女は剣技に優れ、その力の根源は明らかに光の継承によるものです。シグルが彼女と交戦しましたが、リアンナの剣が放つ光の力は、闇の魔法を完全にかき消すほどでした」


魔女の瞳がわずかに輝きを増す。それは興味の現れだった。


「もう一人は?」


「西の大陸のエルスフィア王女、セルスト・エルスフィア。彼女もまた、光の継承者であることが明白です。彼女が放つ光の力は純粋で、彼女自身が封印された力を解放し、私の闇の力を超える光を見せました」


ミルニアは悔しさを滲ませながら拳を握り締めたが、それを魔女の前で見せることはなかった。


「……イルシア聖教国での戦いでは、信仰の力が干渉してきました。国民の祈りが生み出す光は、私の力を大幅に削ぎ落とし、彼らに優位を与えました」


魔女の瞳が冷たく鋭く光る。興味から怒りへの変化は一瞬だった。


「信仰か。浅はかな民衆が自らを守るために生み出した儚い力だが……あのようなものが私の眷属を阻むとは愚かで腹立たしい」


魔女は手を振ると、空間に影が生じ、それが形を持つまでわずか数秒だった。漆黒の刃のような形をした魔力の塊が現れる。


「祈りの力など、闇の前では無力だ。だが、奴らがその光を集め続けるならば、いずれ彼ら自身を滅ぼす武器に変えてやろう」


ミルニアはその言葉に背筋を震わせたが、声を漏らさずにただ頭を垂れた。


ミルニアは報告を終えると、背後に控えていた魔術師に合図を送る。すると、漆黒の輝きを放つ結晶が差し出された。その結晶は空間に独特の振動をもたらし、闇の力が凝縮されていることを示していた。


「魔女様、リアンナやセルストとの戦闘を通じて生成された闇の結晶をお持ちしました」


魔女はその結晶を受け取ると、まるで宝物を見るかのように目を細めた。だが、次の瞬間にはその表情がわずかに曇る。


「まだ足りない」


「足りない……ですか?」

ミルニアは驚きの声を漏らした。


「この結晶は確かに闇の力を宿しているが、純度が不十分だ。これでは私の封印を完全に解くことはできない。」


「しかし……ではどうすれば純粋な結晶を?」


「光の力が完全でなければ、純粋な闇もまた生まれない」


魔女は冷笑を浮かべながら続けた。


「継承者達には、光の力を存分に高めてもらう必要がある。その過程でさらに純度の高い闇の結晶が得られるだろう」


ミルニアは困惑した表情を浮かべる。


「光を高める手助けを……?」


「そうだ」

魔女の言葉は冷たく響いた。


「だが、その前に取り除くべき障害がある」


魔女は玉座から立ち上がり、その目を細める。その目には深い闇が宿り、どこか遠くを見るような視線を向けた。


「光の調律者の眷属――クルスとアキラだ」


その名を口にした瞬間、空気が重くなる。ミルニアは驚き、顔を上げた。


「奴らは光の継承者ではありません。それが、なぜ邪魔になるのですか?」


魔女は冷たく笑う。


「奴らは忌々しい光の調律者の眷属、共鳴者だ。光の継承者の力を調律し、均衡を保つ存在。それゆえに、光の力が暴走することを防ぎ、結果として闇の成長を妨げるのだ」


「だからこそ、彼らを排除しなければならない。共鳴者がいなくなれば、光の継承者たちの力は暴走し、闇の力はさらに深まる」


魔女は手を広げ、空間に闇の魔法陣を描き始めた。その線は黒い輝きを放ち、空気を切り裂くような音が響く。


「私の力の一部は眷属が住む世界に残されている。封印が弱まったときに生じた痕跡だ。それを使えば、黄昏の契約者を一人、奴らの世界に転送できる」


ミルニアは息を呑む。


「契約者を一人……誰を送り込むのですか?」


魔女は迷いなく答える。


「イシュレッドだ」


イシュレッド――彼は黄昏の契約者の中でも最も冷酷で、戦略家としての能力に長けている男だ。


その剣技は敵を一撃で葬る速さを誇り、同時に複雑な魔法陣を瞬時に展開する能力を持つ。


イシュレッドの主な能力は「影縛り」と呼ばれる闇の術で、相手の動きを封じるだけでなく、影を通じて生命力を吸収する恐ろしい技だった。


しばらくして現れたのは、黒い外套を纏ったイシュレッド。彼の瞳は深い闇を宿し、その一挙手一投足からは凄まじい力が感じられる。


「命令を」


「クルスとアキラ――光の調律者の眷属を抹殺せよ」


闇の魔女は闇の結晶をイシュレッドに手渡す。その瞬間イシュレッドの闇の力が爆発する。イシュレッドは一礼し、魔法陣の中心に立つ。その瞬間、魔法陣が激しく輝き、彼の姿は漆黒の光に包まれて消えた。


魔女は再び玉座に戻り、微笑みを浮かべる。


「さあ、舞台は整った。光が強まるほど、闇も深まる。新たなる闇の時代の幕開けだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ