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新たな聖女

 イルシア聖教国の大聖堂に差し込む光は、まだどこか鈍い。ミリアナが黄昏の契約者として闇の力を解放し、聖女としての地位を失った今、国全体が深い混乱に包まれていた。


民衆は信じるものを失い、聖騎士団もまた、その中心を欠いていた。


そのような中、聖騎士団長グレイヴとセルス、エレンが大聖堂の一室で向かい合っていた。窓から漏れる薄い光がグレイヴの傷だらけの鎧を照らし、その刻まれた戦歴を物語っている。


セルスはその場の静寂を破り、問いかけた。

「グレイヴ団長、これからイルシアはどうなるの?ミリアナが偽りの聖女だったとわかった今、民衆は信仰を支える柱を失ってしまった。この国が崩壊するのではないかと心配しているの」


グレイヴは一瞬考え込み、低い声で答えた。

「確かに、ミリアナが偽りの聖女だったことは、民衆にとって深い傷を残した。だが、我々が信じてきた『信仰の力』そのものが偽物だったわけではない。信仰はただの形ではなく、人々の心の力だ。あの祈りの奇跡――光の力で闇を払った群衆の想い――が、それを証明している」


セルスはその言葉に頷いたが、なおも不安げな表情を浮かべた。

「でも、その信仰を導く存在がいなければ、この国は混乱を続けるだけではないかしら?」


グレイヴは微かに微笑み、立ち上がると扉に向かって歩み寄った。

「心配はいらない。すでに神に選ばれた新たな聖女様がいらっしゃる」


グレイヴが扉を開けると、そこには幼い少女が立っていた。わずか6歳ほどの小柄な体、透き通るような金髪、そして純粋さが宿る澄んだ青い瞳。まるでその存在自体が光そのもののようだった。


「こちらが新たに神に選ばれた聖女――アリスティア様です」


セルスとエレンはその幼い姿に驚きを隠せなかった。エレンが困惑したように口を開く。


「この子が……聖女だって?こんなに幼い子供が、この国をどうやって背負うんだ?」


その声に怯むことなく、アリスティアは一歩前に進み出た。その小さな体に似合わない、しっかりとした瞳がセルスに向けられる。


「セルスト・エルスフィア様……イルシアを救ってくださって、本当にありがとうございます」


透き通る声に、セルスは一瞬言葉を失った。だが、アリスティアの瞳に宿る純粋な感謝の気持ちを感じ取り、深く息をついた。


「……ありがとう、アリスティア様」

戸惑いながらもそう返すと、アリスティアは微笑みを浮かべた。


グレイヴはその光景を見守りながら、改めて二人に向き直った。

「我々聖騎士団は、このアリスティア様を全力でお守りする覚悟だ。アリスティア様が新たな信仰の光となり、この国を導いてくださるだろう」


エレンは腕を組み、鋭い目つきでグレイヴに問いかける。

「それはいいが、闇の魔女が再び動き出すのは時間の問題だろう。その時、イルシアはどうするつもりだ?」


グレイヴはエレンの目を真っ直ぐに見据え、重々しい声で答えた。

「その時は、我々も共に闘おう。イルシアを脅かす闇の魔女は、我々の信仰心を踏みにじった敵でもある。力が必要な時は、遠慮なく声をかけてくれ」


その言葉に、セルスは一瞬驚いたが、すぐに笑みを浮かべた。

「ありがとう、グレイヴ団長。あなたがいることが、この国の未来への希望になるわ」



その後、セルス、エレン、クルスの三人は戦いを振り返りながら言葉を交わしていた。静かな部屋の中で、光のロッドがテーブルに置かれ、微かに輝いている。


「まったく……今度は聖女相手に本気で戦う羽目になるなんてな」

エレンがぼやくように言うと、クルスが苦笑いを浮かべながらスマホをいじっていた手を止めた。


「確かに、聖女が黄昏の契約者だったっていうのは驚きだったな。でも、彼女の言葉の中には真実もあったんじゃないかって思うんだ」


クルスの言葉に、セルスが眉をひそめた。

「どういう意味?」


「ミリアナは光と闇の関係を正しく理解していたんだ。光が強まれば闇も強まる。そのバランスがどちらに傾いても、世界は不安定になるってことさ」


クルスはスマホの画面を見つめながら、さらに続けた。

「ただ、彼女のやり方が間違っていた。闇で全てを覆い尽くせば静寂が訪れるかもしれないけど、それは希望や自由を奪うことになる。そんな世界、誰も望まないだろ?」


セルスは頷きながら、静かに言葉を紡いだ。

「確かに、ミリアナの闇の力は圧倒的だった。だけど、あの時、民衆が祈りを捧げてくれたおかげで私たちは勝てた。誰も闇を望んでいない。それが分かっただけでも、この戦いには意味があったわ」


エレンが剣を鞘に収めながら、少し不機嫌そうに言った。

「でも、ミリアナは逃げた。それに、彼女の最後の言葉――『光が強まれば闇も強くなる』ってやつ――あれはどう考えてもただの負け惜しみじゃないだろう」


クルスは軽く息を吐き、スマホを見つめた。

「そうだな。あれは彼女の脅しじゃなくて、警告だと思う。闇の魔女の完全な復活が近いのは間違いない。そして、次はもっと大きな闇が来る」


その言葉に、一瞬の静寂が訪れる。3人の表情は真剣そのものだった。


「それでも、私は諦めない」

セルスが力強い声で言った。

「どんな闇が来ようと、この世界を光で包むために戦う。それが私の使命だわ」


エレンが腕を組みながら、小さく笑みを浮かべる。

「ま、そこまで言うなら仕方ない。私はお前を守るために剣を振るう。それが今の私の役目だ」


クルスも頷きながら言葉を添えた。

「俺も、できる限りのサポートをする。アルケウスにはまだ未知の可能性があるし、それを使って俺たちの光を強くしていく」


三人の心には、新たな決意と希望が満ちていた。そして彼らは、新たな光を信じて前に進むことを選んだ。闇がどれだけ深くても、彼らの信じる光は、それを打ち破ると信じて――。


静けさが広がるその夜、クルスは一人、戦いの余韻がまだ全身に残る中、クルスの頭の中にはミリアナの言葉が響いていた。


「光が強くなれば、闇もまた強くなる」


ミリアナの冷たい声が耳を離れず、クルスは拳を握りしめた。その言葉にはどこか真理の一端を感じる自分がいることに気づき、苛立ちを覚える。


スマホの画面に表示されたアプリ【アルケウス】を見つめながら、クルスはつぶやいた。

「世界を光だけで染めることは、本当にできないのか……?」


アプリの魔法構成画面には、先ほどまで闇を打ち破るために構築した光属性の魔法が表示されている。その輝きが、かえって彼の心をざわつかせた。


「光が必要なら、闇もまた必要だってことなのか?」

自問自答が止まらない。ミリアナの言葉が思い出される。


「お前たちがどれだけ光を放とうと、それが生む影は常に存在する」


クルスはその言葉を否定したいと思いながらも、完全には否定しきれない自分に気づいていた。


世界には光がある以上、必ず影が生まれる。それは物理的な現象であると同時に、人の心の中にも通じる話だ。


「もし世界に光が必要だとしたら……闇もまた必要だということになるのか?」

彼の問いは深く、解答のない迷宮に迷い込んでいく。


クルスは窓から空を見上げた。夜空には星が輝いているが、その輝きは漆黒の闇によって際立っている。星そのものが光の象徴ならば、夜空の暗さはまさに闇そのものだ。


「闇がないと、光は見えない……?」

そう考えると、闇そのものが光を引き立てるための存在であるように思えてしまう。だが、闇を肯定することは、これまで自分たちが戦ってきた信念を否定することになるのではないか。クルスはその矛盾に頭を抱えた。


「世界に闇が必要な理由って、一体なんなんだ?」

闇が必要だというなら、それはただ存在するだけではなく、何かしらの意味を持っているはずだ。


ミリアナは静寂、調和、安らぎをもたらすと表現していた。だが、その理由を明確に答えられるものはいない。少なくとも、今のクルスにはわからなかった。


「闇の意味か…んーどんだけ考えてもわからない」


クルスは現実世界のデスクから天井を見上げて思わず叫んだ。その時セルスとエレンの共鳴をまだ繋げたままにしている事に気づいた。

「あっやべ。聞こえたかな…」


「お前、一人で何を考え込んでいる?」

まだ起きていたエレンはクルスに問いかける。


クルスはため息をつき、正直に答えた。

「ミリアナの言葉が頭から離れないんだ。『光が強くなれば、闇も強くなる』って……それに、闇が必要だって考えも、何となく否定しきれなくて……」


エレンは黙って聞いていたが、ふと夜空を見上げて言った。

「闇が必要だって?そんなもの、ただの言い訳だろう。闇が必要だなんて考えたら、戦う意味がなくなるじゃないか」


「でも……」

クルスは反論するように言葉を続けた。

「世界には光だけじゃなくて闇もある。完全に闇を消し去ることはできないんじゃないかって、そう思うんだ」


エレンは少し驚いた顔をして、考え込むように腕を組んだ。

「確かに、闇がなければ光も存在しない。それがこの世界の理だろう。だが、それがどうした?闇を消せないからといって、立ち止まる理由にはならない」


エレンの言葉にクルスは目を伏せたが、彼女の次の言葉にハッと顔を上げた。

「闇が必要だとしても、それに支配される必要はない。お前はお前のやり方で、光を作り出せばいいんだ。それがどんなに小さな光でもな」


エレンの言葉に触発されたクルスは、再びスマホを見つめた。そして、アルケウスの画面をスクロールしながら、ふと新たなアイデアを思いついた。


「闇が必要だとしても、それを制御する方法があるかもしれない」

彼の目に再び決意の光が宿る。


「もし闇と光を調和させる方法があるとしたら、それを作り出すのは俺たちの役目だ」

クルスの言葉にエレンは微笑み、立ち上がった。


「よし、それなら迷っている暇はないな。闇が何であれ、それを乗り越える方法を探そう。お前のそのアルケウスでな」


クルスは静かに頷きながら、再び未来への希望を抱き始めていた。彼の心にはまだ答えの出ない問いが残っていたが、それを解き明かすための一歩を踏み出す準備が整った。


「そうか!光と闇の属性の魔法を合成してその効果から何かヒントを得られるかもしれない。と言っても闇属性魔法が解放されていないんだけどな…」


夜空の星々が、そんなクルスの決意を見守っているかのように、静かに輝いていた――

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