嘘の信仰
夜の静けさがイルシアの街を包む中、クルスたちは隠れ家で次の一手を練っていた。
クルスはストラテゴウスを起動し、これまで集めた情報を分析しながら作戦を立てていた。
テーブルには地図やメモが広げられ、ランタンの明かりがその上に揺れている。セルスは地図を睨みながら指で特定の場所をなぞり、エレンは剣を膝に乗せ、静かに作戦の内容を聞いていた。
「聖女ミリアナが隠している真実を暴く必要がある。それができなければ、光の封印を解く手がかりも掴めない。」
クルスの声は静かだが、その声には決意が宿っていた。
セルスが腕を組み、少し苛立ったように口を開く。
「でも、彼女が簡単に口を割るとは思えないわ。これまでの態度からして、完全に私たちを警戒している。」
エレンが剣の刃を確認しながら言った。
「確かにな。だが、隠しきれない何かを突き崩すことはできるはずだ。そのためにどう動くかが重要だ。」
クルスはスマホの画面を見つめながら、分析を進めていた。
「ストラテゴウスはすでにいくつかの有力なデータを抽出している。それを元に作戦を立てる。」
画面には、ミリアナに関する解析結果が表示されていた。
◇
解析結果:ミリアナに関する重要なポイント
1.ミリアナと闇の魔女との接点
信頼度:85%
理由:聖教国の記録には、「ミリアナの血脈」に不自然な空白期間が存在。その間、闇の魔女との関係があった可能性が高い。ミリアナ自身が黄昏の契約者の可能性も。
2.封印の信仰の起源
信頼度:80%
理由:イルシアの信仰は光の封印を基盤としているが、実際には「闇の魔女」の力を封じ込めるための信仰ではなく、闇の魔女の力を利用して封印した痕跡がある。信仰させるのに闇の魔法を使った痕跡が確認される。
3.心理的揺さぶりによる突破口
推奨:ミリアナに対して闇の魔女を批判する言葉を投げかけ、彼女の感情を揺さぶることで隠された真実を引き出す。
◇
クルスは解析結果を見つめ、深く息をついた。
「ミリアナは闇の魔女に関わっている可能性が高い。そして、それを突き止めれば彼女の信頼を揺るがすことができるはずだ。」
セルスが鋭い目つきでクルスを見つめる。
「でも、具体的にはどうするの?ただ感情的に挑発するだけじゃ、逆に私たちが不利になるかもしれない。」
クルスは頷きながら答えた。
「だからこそ慎重に計画を練る。彼女が隠しきれない反応を引き出すためには、心理的な揺さぶりが必要だ。」
クルスはさらに解析を進めながら、セルスとエレンに作戦の概要を説明した。
「まずは、セルスにはミリアナをできるだけ挑発してほしい。そうだな…闇の魔女の名前を使ったりとかミリアナの怒りを誘うんだ」
セルスは頷きながら、「わかったわ。ミリアナを挑発するのね。私の話術で追い詰めてやるわ」と、自身満々に答えるが、その姿にエレンは少し不安を覚える。
「セルスは馬鹿正直だから演技とかお前できるのか?」
「大丈夫よ!これでも表の顔と裏の顔を使い分けるのは得意なの。そうじゃなきゃ王族として外交もできないでしょ!」
「よしセルス期待しているぞ。ミリアナが感情を露わにして決定的な反応が現れた瞬間を俺はシェアビジョンで録画する」
エレンは作戦をすぐさま理解してクルスに質問する。
「なるほどな。だけど録画しただけではヤツを追い詰められないぞ。どうするつもりだ?」
「俺に考えがある。試作段階の新しいアプリがあるんだ。名付けてヴィジョンミラーリング、俺のスマホの画面を投影する機能だ。その映像を見せながらセルスは俺のアークリンクを使って民衆に訴えかけるんだ。王族としてのスピーチ力に期待しているぞ」
セルスは計画の全貌を聞き終えた後、静かに呟いた。
「本当にそれで彼女を追い詰められるのかしら……」
クルスは力強い声で答える。
「大丈夫だ。俺が全力でサポートする。それに、セルスにはこの国を変える力がある」
エレンが剣を収めながら言った。
「いいだろう。その計画に乗る。だが、注意しろ。ミリアナはただの聖女ではない。彼女もまた、何らかの手を打ってくる可能性がある」
クルスは作戦の準備に取り掛かる一方で、新しいアプリ「ヴィジョンミラーリング」の開発を進めていた。
このアプリは、スマホ内の映像や写真を異世界で大型スクリーンのように投影する機能を持つ。
開発には数時間を要したが、クルスはその完成したアプリをテストしながら言った。
「これで、ミリアナの真実を民衆に直接見せることができる」
セルスはその機能を見て驚きの表情を浮かべる。
「クルス、あなたはいつも私たちを驚かせるわね」
クルスは微笑みながら答えた。
「驚かせるのはこれが最後じゃないさ。次は民衆の心を動かす番だ」
隠れ家で最後の打ち合わせが行われた。クルスはストラテゴウスを使い、計画を細部まで調整した。
「ミリアナに対しては、セルスが直接会って話す。僕は共鳴を通じて状況を把握し、指示を送る」
クルスがそう言うと、セルスは頷いて立ち上がった。
「彼女を追い詰めるわ。信仰の嘘を暴くために」
エレンは剣を腰に据え直し、静かに言った。
「準備は整った。後は実行するだけだ」
クルスはスマホを握りしめ、共鳴を通じて二人を支える決意を新たにした。
「行こう。真実を暴き、光の力を取り戻すために」
彼らの戦いは次の局面を迎えようとしていた――信仰の嘘を暴く、その瞬間が目前に迫っている。
◇
イルシアの朝は荘厳な鐘の音で始まった。大聖堂の尖塔から響くその音は、街全体に広がり、信仰の象徴としての存在感を示していた。
だが、クルスたちはその裏に隠された真実を暴くため、大聖堂へと足を踏み入れる準備をしていた。
「今日は絶好の機会だ。今日は聖女ミリアナが朝の祈りを捧げる日だ。その間、俺たちは彼女と直接対話する。」
クルスは共鳴を通じてセルスとエレンに状況を伝えた。
セルスは深呼吸をしながら、剣を握り直した。
「彼女が何を隠しているのか、必ず暴くわ」
エレンが淡々とした口調で続けた。
「私が後方で支える。セルス、ミリアナを揺さぶるのはお前の役目だ。冷静に、だが強く行け。図々しいのがセルスの長所だ」
「…エレンそれ褒めてる?」
クルスはスマホを操作しながら共鳴を維持し、セルスに指示を送る準備を整えた。画面には作戦のステップが順に表示されている。
セルスとエレンが大聖堂の内部に足を踏み入れると、荘厳な装飾が目に飛び込んできた。
長い回廊の先には、高い祭壇の前で祈りを捧げるミリアナの姿があった。
彼女は静かに立ち上がり、二人の来訪者に目を向けた。
「再び訪れるとは、勇気があるのですね。何の用ですか?」
セルスは一歩前に出て、まっすぐにミリアナを見据えた。
「光の封印について、あなたに確認したいことがあります」
ミリアナは薄く微笑みながら答えた。
「そのようなものは存在しません。この国を守るのは、信仰の力です。それ以上でも以下でもありません」
その言葉にセルスは反応を見せず、クルスからの指示を思い出した。
「感情を揺さぶるには、相手の核心を突くことが重要だ」
セルスは冷静に言葉を続けた。
「ですが、その信仰は嘘に基づいているのではありませんか?あなたの言葉は、信仰を利用して光の力を封じるための方便に過ぎない」
ミリアナの目が一瞬険しくなった。
「方便……ですか?民衆を守るために必要な真実を、あなたは方便と呼ぶのですか?」
セルスはその変化を見逃さなかった。さらに挑発的に切り込む。
「それだけではありません。闇の魔女……あなたは彼女と何らかの関係があるのでは?」
その瞬間、ミリアナの表情が硬直した。彼女は数秒間沈黙した後、冷たい声で答えた。
「根拠のない言葉で私を揺さぶろうとしても無駄です」
だが、その一瞬の動揺をクルスは見逃さなかった。共鳴を通じてセルスに指示を送る。
「今だ、闇の魔女についてさらに突っ込むんだ。彼女の感情を揺さぶれ」
セルスはさらに攻勢を強める。
「闇の魔女は恐ろしい存在です。でも光の力は闇では封印できない。だから貴女は光の封印に聖なる力を利用しているのでしょ?闇は光に弱い。貴女がやっている事はその事を証明してしまってる」
その言葉に、ミリアナは目を見開き、静かに語り始めた。
「光が闇より勝ると言いたいのですか?あのお方はあなたのような無知な者が理解できる存在ではありません」
その瞬間、ミリアナの感情が露わになった。彼女の声には怒りと苛立ちが混じっている。
「闇の魔女の力は、この世界を形作るための礎となるもの。それを恐れ、否定することこそ愚かしい」
セルスはその言葉を聞きながら、さらに問い詰めた。
「では、あなたは闇の魔女の力を利用していると認めるのですか?」
ミリアナは息を詰まらせた後、微笑を浮かべた。
「あなたが何を見抜いても、この国の信仰が揺らぐことはありません。民衆にとって、信仰こそが生きる希望なのです。それが例え偽りの信仰でも」
クルスはその会話をすべて録画していた。スマホの画面には、ミリアナの言葉と表情が映し出されている。
「これで十分だ……彼女の真実を証明する証拠になる」
セルスはミリアナを睨みつけながら言った。
「あなたが何を隠そうとしても、私たちはその嘘を暴きます。そして、この国を正しい道に導くために、光の力を取り戻す」
ミリアナは冷たい目でセルスを見返し、静かに答えた。
「ご自由に。ですが、覚えておきなさい。貴方が何をしようが無駄です。光がこの世界を包む事はない」
大聖堂を後にしたセルスとエレンは、隠れ家に戻った。クルスは録画した映像をストラテゴウスで分析しながら、次の作戦を立てる準備を進めていた。
「セルスよくやった。これで、民衆に真実を伝える材料が揃った」
クルスは画面を見つめながら呟いた。
セルスは深い息を吐き、椅子に座り込んだ。
「次は民衆を動かさないといけないわね……簡単なことじゃないけど」
エレンが剣を磨きながら静かに言った。
「だが、今の私たちには証拠がある。それをどう使うかが鍵だ」
クルスは微笑みながら言った。
「大丈夫だ。僕たちにはストラテゴウスも、ヴィジョンミラーリングもある。次はこの国全体に真実を響かせる番だ」
彼らの目の前には、新たな挑戦が待ち受けていた――信仰を揺るがし、真実を民衆に伝えるための戦いが始まる。




