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聖教国イルシア

冷たい朝霧が立ち込める中、エルスフィア王国の城門が静かに開かれた。

クルス、セルス、そして剣神エレンの三人は、次なる目的地である聖教国イルシアに向けて馬車を進めていた。


セルスは馬車の先頭に立ち、剣を携えながら鋭い目で前方を見つめている。エレンは後部に腰掛け、鋭い目で周囲の気配を探りながら、剣の柄を指でなぞっていた。クルスは馬車の中でスマホを取り出し、魔法構成アプリ【アルケウス】の画面をじっと見つめていた。


「かつての力は失ったけど、それでも私にできることがあるなら、この旅に同行させてほしい。戦いこそが再び私を強くする。少なくとも今の力でもセルスには勝てる自信がある。」


それがエレンの言葉だった。彼女は先の戦いでその剣技を存分に発揮したが、剣神としての進化で得た力を失ったことで、どこか自分の役割に疑問を抱いている様子だった。


セルスは振り返り、少し笑いながら言った。

「あなたはいつも私を下に見ているけど、エレン、あなたがいるだけで頼もしいわ。」


エレンは真っ直ぐ前を見つめ力強く言う。

「それに、剣神としての進化を失ったわけじゃない。新たな可能性を見つければ、過去を超えることだってできるはず。今回の旅で強敵と出会えば私の剣もすぐに進化するだろうしな。」


馬車が揺れる中、セルスは険しい表情を浮かべながら口を開いた。

「イルシア……あの国は信仰の国として知られているけど、どこか腑に落ちないのよ。」


「どういう意味だ?」クルスが問いかける。


「私の知る限り、イルシアは聖属性を信仰の中心に据えているけど、本来なら光の力を祀るべき国でもあるはず。なのに、彼らは光の力に触れようともしない。それがずっと引っかかっているの。」


エレンは腕を組み、静かに呟いた。

「私も昔、イルシアの聖女――『ミリアナ』に会ったことがある。信仰の象徴として人々から崇められているけど、彼女の目にはどこか違和感があった。本当の信仰者の目ではなかった気がする。」


クルスはふと思い出したようにスマホを取り出し、以前魔力不足でエラーになった【アルケウス】を試してみることにした。


「セルス。ちょっと試したいことがあるんだ。」


「何を?」セルスが興味深そうに振り返る。


「現実世界で、このアプリを使って魔法を発動できるかどうか。共鳴中なら君の魔力を利用できるかもしれないと思ってね。」


クルスはアルケウスを操作し、簡単な防御魔法「シールド・バリア」を構成する。しかし画面には再び「魔力不足」のエラーが表示された。


「やっぱり現実じゃ無理なのか……?」


セルスは冷静にアドバイスする。

「私の魔力を意識して。流れるイメージを掴んでみて。」


クルスはもう一度深呼吸し、セルスとの共鳴を意識しながら再度操作を行った。すると、画面に「共鳴エネルギーを検出」と表示され、エラーが消えた。


「いけるかもしれない……!」


再び「シールド・バリア」の発動ボタンを押すと、クルスの身体の前に光輝くバリアが展開された。


セルスも驚いて目を開いた。

「私の魔力がクルスに流れている確かな感触があるわ。」


「成功した……!」クルスの声には驚きと喜びが混じっていた。


セルスは微笑みながら言った。

「共鳴さえしていれば、クルスの住む世界でも魔法が使えるのね。」


「闇の魔女の影響が俺の住む世界にも侵食している可能性があるんだ。黄昏の契約者のような組織と戦う方法を準備しておきたかった。」


セルスは悪戯っぽく笑いながら言った。

「今度は私がクルスを操る番になりそうね。」


「いやいや、セルス、操るなんて言葉はやめてくれ。」


その夜、三人はイルシアへ続く最後の関門である山道の休憩地点に到着した。眼下には聖教国の街並みが広がり、遠くには尖塔が天を突くようにそびえ立っていた。


エレンが剣を磨きながら静かに言う。

「明日にはイルシアに着くだろう。だが、用心するべきだ。」


セルスは遠くを見つめながら険しい表情で呟く。

「信仰の象徴として崇められている国の中に、闇の影が潜んでいる。そんな矛盾を暴くのは簡単じゃないわ。」


クルスはスマホを手に取りながら、二人の言葉に頷いた。

「だけど、進むしかない。異世界も現実世界も、守るために。」


エレンは剣を腰に据え直し、冷静に答える。

「何が待っていようと、私たち三人なら乗り越えられる。それだけは確かだ。」


その言葉に励まされながら、三人はそれぞれの覚悟を胸に眠りについた。翌朝、聖教国イルシアが彼らを待ち受けていた。


次の日、エルスフィア王国から続く道を抜けるとようやく聖教国イルシアへとたどり着いた。


壮麗な街並みと人々の祈りの声が街全体に響き渡る中、三人は聖女ミリアナと会うために進んでいた。


イルシアの街は信仰の中心地にふさわしい荘厳さを誇っていた。白い石造りの建物は光を反射し、通りを歩く人々は皆、神聖な雰囲気を漂わせている。


道端では祈りを捧げる者や、聖属性の魔法で病を癒す騎士団員の姿が見受けられる。


「これが聖教国イルシア……。」

セルスが呟くように言った。

「すごいわね。全てが聖なる力を象徴しているように見える。でも、何かが違う気がする……。整いすぎているというか…」


エレンは通りの様子をじっと観察しながら応じた。

「違和感……か。表面的には整然としているが、確かに何かが隠されているようにも見えるな。」


クルスは共鳴を通してこの会話を聞いていた。スマホの画面にはセルスと【シェアビジョン】を通して視界が映し出され、街の様子が手に取るようにわかる。

「見た目は完璧だけど……隠された真実があるのかもしれない。」

クルスはその映像を録画し、後でストラテゴウスで解析するつもりだった。


「さて、どうやって聖女と会うか」


クルスが考えていると、セルスが口を開く。

「そんなの宮廷でお願いしたらいいんだよ」


その言葉を聞いてエレンが吐き捨てる。

「馬鹿かお前は。いきなり行って話なんか聞いてくれるか」


「なによ。みんな心配性ね。私に全て任せて!」

セルスは自信満々に宣言した。王女育ちのセルスは失敗するかもという思考が皆無であった。そこがセルスの良さであり短所でもあった。


セルスは聖教国の宮廷に向かい、聖女ミリアナとの会談を求めた。しかし、宮廷の衛兵が立ちはだかり、警戒心を露わにしていた。


「聖女様にお会いするには正式な許可が必要です。何者で、どのような目的でお越しになったのかお伺いします。」


セルスは堂々と前に進み、王女としての威厳を込めた声で答えた。

「私はエルスフィア王国の王女、セルス・エルフィアナ。この国に眠るとされる光の力について聖女ミリアナ様とお話ししたいのです。」


衛兵たちは一瞬驚いた表情を浮かべた後、深く敬礼をして道を開けた。

「失礼しました。すぐに聖女様にお伝えいたします。少々お待ちください。」


セルスはエレンの方を何か言いたげな瞳でじっと見つめた。

「ほらね。うまくいったでしょ?エレン、私を誰だと思ってるの?」


「ちっ…調子に乗るなよ。」

エレンは下を向いてぼそり呟く。


待つ間、セルスは周囲を観察し、エレンは衛兵たちの動きを注視していた。クルスはスマホを操作しながら、共鳴を通して状況を把握していた。

「セルス、会談が始まったら視線の共有を続けてくれ。その様子を録画して後で解析する。」


「わかったわ。何かあればすぐに指示をお願いね。」

セルスは静かに頷き、心を落ち着けた。


やがて衛兵が戻り、会談の許可が下りた。

「聖女様がお会いになります。どうぞ中へお進みください。」


大広間に通された三人を出迎えたのは、荘厳な雰囲気と静謐さに満ちた空間だった。高い天井、白い大理石の床、そして中央に立つ聖女ミリアナ。彼女は柔らかな微笑みを浮かべながら、三人を静かに見つめていた。


「ようこそ、エルスフィアの王女セルス様そしてエレン様、貴方たちの訪問を心から歓迎します。」


「セルス様、アゼルド帝国の侵攻についても聞きました。西の大陸の平和を揺るがしかねない許され難き暴挙です。闇の魔女の復活という脅威に協力して立ち向かわなくてならないのに…何よりエルスフィア王国の無事を心より安堵しております。」

ミリアナの声は澄んでおり、広間全体に響き渡るようだった。その声にはどこか不思議な力が込められているように感じられた。


セルスが一歩前に出て丁寧に頭を下げた。

「聖女様、ご心配頂きありがとうございます。そしてこのような機会をいただき感謝します。」


ミリアナは優しく微笑みながらエレンに視線を向けた。

「剣神エレン様。お久しぶりです。一度お会いしたことがございますが、覚えていらっしゃいますか?」


エレンは少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに冷静な顔に戻り、短く頷いた。

「もちろんです。聖女様に覚えていただき光栄です。」


ミリアナは懐かしむように微笑んだ。

「貴女の剣技には感銘を受けました。力だけでなく、どこか人を守る優しさが感じられたことを覚えています。」


エレンはその言葉を静かに受け止めながらも、冷静な目でミリアナを見つめていた。


ミリアナは次にセルスに視線を移し、柔らかく言葉を紡いだ。

「なんでしょうセルス様は実に不思議な力をお持ちなようですね。その力の一部が、この場にも存在しているように感じます。」


セルスは一瞬だけ動揺したが、すぐに表情を整えた。

「そう感じられましたか?」


「ええ、とても微細ですが確かに感じ取れます。それが何かまではわかりませんが…興味深いですね。」

ミリアナの言葉には、どこか含みがあった。クルスは共鳴を通じてその場の緊張感を感じ取っていた。


セルスが意を決して本題を切り出した。

「聖女ミリアナ様。この国に眠ると言われる『光の力』についてお聞きしたいのです。この力が闇の魔女に対抗する鍵になると考えています。」


ミリアナはしばらく目を閉じ、ゆっくりと答えた。

「光の力……それは確かに、この国の伝承に語り継がれているものです。」


ミリアナは表情を崩さず言葉を続ける。

「しかし、それがどのような効果を持つかは、曖昧な部分も多い。実際のところ、存在するのかどうかすら…それに私は光の力は必要だとは考えていません。」


セルスはその答えに納得できず、さらに問い詰めた。

「では、なぜ封印されているのですか? 封印されている以上、何らかの意味があるはずです。」


ミリアナの表情がわずかに硬くなり、彼女は静かに答えた。

「封印とは何の事をおっしゃっているのかわかりません。それに封印があるとしても、それを解放することが正しいとは限りません。」


ミリアナは言葉を続ける。

「我々は既に魔女に対抗する手段を持っています。それを成し遂げるのは、伝承にしかない効果もあるのかどうかすら怪しい光の力ではなく、信仰の力なのです。信仰の力は光に勝るのです。」


その言葉に、セルスは明らかな疑念を抱いた。

「信仰の力……それだけで魔女に立ち向かうことができると、本気で信じていらっしゃるのですか?」


ミリアナは冷静な笑みを浮かべたまま答えた。

「信仰は人々を一つにまとめ、希望をもたらします。それが何よりも強力な武器であると、私は信じています。闇の魔女は人々の不安につけ込みます。信仰の聖なる力は人々を不安から守ってくれるのです。」


セルスは会談から何も得られなかった事でため息をつき、ミリアナに向き直して伝える。

「わかりました。聖女様本日はお時間を頂きありがとうございました。」


「…お力になれずに申し訳ありません。貴女方に神のご加護を。」


クルスは共鳴を通してこのやり取りを聞きながら、心の中で呟いた。

「信仰の力……その裏に何が隠されているんだ?」


会談を終えた三人は大広間を後にし、廊下を歩いていた。セルスが口を開いた。

「彼女は何かを隠している。光の力についても、信仰の力についても……。」


エレンは鋭い目をして呟いた。

「次の手を考える必要がある。この国の真実を掴むためには、もう少し深入りしなければならないな。」


クルスはスマホを手に取り、録画したデータをストラテゴウスに入力しながら、静かに言った。

「真実を暴くためには、信仰の表層を掘り下げなければならない。それに、あのミリアナ……俺たちに何かを探らせたいような態度だった。」


三人は次の一手を考えながら、再びイルシアの街へと歩みを進めた。

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