二人の共鳴者
クルスはアキラからのSNSメッセージをじっと見つめていた。
その言葉は期待を抱かせる一方で、彼の中に重い不安をもたらした。
「これも……魔女の罠かもしれない。」
彼の脳裏には、過去の痛みが鮮明によみがえる。
クルスガリアと共鳴していた時、クルスはリアを支援するために「闇の魔女」に関する情報をリアと一緒に検索していた。
焦りと好奇心に駆られてタップしてしまった謎のリンク。そこに記されていたのは「秘されし真実」という不気味な文字だった。
そのリンクを開いた瞬間、魔女の声が響き封印が解かれてしまったことを知らされる。
「……愚かな子よ。伝承通りだな共鳴者は好奇心が強い」
あのとき自分の軽率な行動が、リアの世界にどれだけの災厄をもたらしたか……その記憶が、今でも彼を苛んでいた。
「もう二度と、あんな過ちは繰り返さない……。」
今目の前にあるアキラからのメッセージも、同じような罠かもしれない。リアを知っていると言う人物が本当に共鳴者なのか、それとも闇の魔女の策略なのか、今の彼には判断がつかない。
「慎重に確認しないと……。」
クルスはポケットからスマホを取り出し、【ストラテゴウス】を起動した。このアプリには解析機能がある。過去の魔女の影響を受けたデータや紋様を解析し、異常な魔力痕跡が含まれていないかを検出することができる。
彼はアキラのメッセージのスクリーンショットを撮影し、ストラテゴウスにアップロードした。さらに、SNSアカウントの情報や投稿内容を解析対象として指定する。
「このアカウントのデータを解析して、魔女や契約者の痕跡がないか検証してくれ。」
青い光が画面を走り、解析が始まる。結果が表示されるまでの数分間、クルスの心臓は緊張で早鐘を打った。
結果表示:
•魔力痕跡:検出されず。
•黄昏の契約者との関連性:低い。
•投稿内容の信憑性:高い(過去の異世界情報との一致率92%)。
クルスは深く息を吐き出した。少なくとも、魔女や契約者の罠である可能性は低いようだ。
「信じても……いいのか?」
それでも完全には安心できない自分がいる。だが、このメッセージが本物であるならば、リアに繋がる重要な手がかりとなる可能性が高い。
クルスは慎重に言葉を選び、返信を打ち始めた。
「君の言うリアはエルフの剣士の事か?」
メッセージを送信して数秒後、即座に通知が返ってきた。
『その通りだ。リアと僕は共鳴している。君は……もしかしてクルスか?』
クルスは驚きに目を見開いた。自分の名前が出てくるとは思っていなかった。
「この人物は……本当にリアから僕のことを聞いたのか?」
疑念と期待が交錯する中、彼は次のメッセージを慎重に送った。
「俺がクルスだと、どうしてわかった?」
しばらくの間、通知は来なかった。クルスはスマホを握りしめながら、過去の出来事を思い返していた。
リアとの共鳴を通じて数々の危機を乗り越えたこと。そして、自分が彼女を支えるために全力を尽くした日々。リアが他の共鳴者と繋がっているその事実に少し複雑な想いを抱く。
数分後、アキラからの返信が届いた。
『リアから、クルスという名の共鳴者がいたと聞いている。彼女は君のことを信頼していたようだ。僕は君に会いたかった。僕はアキラという。』
その言葉は、クルスの胸にわずかな温かさをもたらした。
「リアが今も俺のことを信頼してくれているのか。それならなぜ、俺たちの共鳴が途切れたんだ……?」
クルスの中に残るわだかまりが、完全に消えることはなかった。だが、この人物――アキラ――がリアと本当に共鳴しているのなら、今の彼にできることは明白だった。
『わかった。直接会って話そう。場所と時間を教えてくれ。』
幸いにもアキラはクルスの近くに住んでいた。近くといっても電車で40分位は離れているのだが。
送信したメッセージの内容に、ほんの少しの迷いが混じる。それでも、行動を起こさなければ何も変わらないという思いが、彼を突き動かしていた。
数分後、アキラから待ち合わせの提案が送られてきた。
『お互いの中間地点の駅前のカフェはどうだろう? 場所を教えるよ。明日はどうだろう?』
クルスはそのメッセージを見つめながら、深く息をついた。「これが次の一歩になるかもしれない。」
『了解では明日よろしく!』
◇
次の日、クルスは駅前のカフェでアキラと向き合っていた。
二人とも慎重に相手を探るような視線を交わしていたが、共通の話題がリアであることは明白だった。
アキラが口を開いた。
「まず、リアの話をしよう。僕は彼女と共鳴して、東の大陸で魔女に対抗するための戦いを続けている。」
その言葉にクルスは身を乗り出した。彼もリアの状況について知りたかった。
「リアは無事なのか? それに、魔女との戦いはどうなっている?」
アキラは頷きながら答えた。
「リアは無事だよ。でも東の大陸は状況がひどい。魔女の瘴気が広がって、魔物が大量発生している。街や村が襲われることも珍しくないらしい。」
クルスは眉をひそめた。その状況は彼の予想以上に厳しいものだった。ただリアが無事だという頼りに天を見上げ心からホッとする。
(リアが無事だった…よかった…本当によかった)
「そんな中で、リアはどうやって戦っているんだ? 魔女に対抗する手段は?」
アキラは少し誇らしげに話を続けた。
「僕は【クリエイトキャプチャ】というアプリでこっちの世界の素材からアイテムを作り出してリアを支援している。ついこの間、リアと一緒に神殿で光の剣を手に入れたんだ。それが、魔女に対抗できる唯一の武器だと言われている。けど……戦力が足りないんだ。」
「戦力が足りない……?」
クルスはその言葉に反応した。アキラは苦い表情で続ける。
「東の大陸は瘴気がひどすぎて、大規模な軍勢を動かせない。それに、現地の人々も恐怖で動けないんだ。リアと僕、それから数人の仲間だけでどうにかしているけど……限界がある。」
クルスは黙り込み、考え込んだ。異世界でも現実でも、魔女の影響が広がっている。その事実を目の当たりにし、何かをしなければならないという思いが強くなった。
クルスはゆっくりと口を開いた。
「俺も異世界で戦っている。今はリアとは共鳴していないけど、西の大陸にいるセルス――エルフの末裔で、エルスフィア王国の王女と共鳴している。」
「セルス……?」アキラはその名前を反復した。
「そうだ。彼女と一緒にアゼルド帝国という侵略国家を倒した。でも、戦いが終わった後も、西の大陸にはまだ問題が山積みだ。光の力が封印されているって話もあるけど、どこにあるのかは特定できていない。」
アキラはその言葉に興味を示した。
「光の力が封印されている……? それって、もしかすると東の大陸の状況と似ているかもしれない。どうやらこの世界では光属性が封印されているんだ。聖属性が唯一の力だって布教されてるけど、実際には魔女には効果が薄い。」
「なるほど……光属性の封印か」クルスはうなずきながら思案した。
アキラは続けて提案した。
「僕の仲間にカイラっていう考古学者がいるんだ。彼女は古代の文献や遺跡について詳しい。西の大陸の光の力についての情報を探してもらうよ。見つかったらすぐに知らせる。」
その申し出に、クルスは感謝の意を込めて頷いた。
「それは助かる。俺も西の大陸で軍事を整えて、可能な限り東の大陸を支援できる準備を進めるよ。」
「ありがとう、クルス。もし光の力を解放できれば、両方の大陸で魔女に対抗できるかもしれない。」
さらに自分の切り札について語ることにした。
「アキラ、俺が使っている【ストラテゴウス】というアプリのことを教えておく。これは戦術計画と情報解析が得意なんだ。もし何か困ったことがあれば、これを使って分析できるかもしれない。」
アキラは興味深そうに聞き入った。
「そんな便利なものを持っているのか。それなら、こっちで何か異常があったらすぐに連絡するよ。」
「頼む。お互い、連携が必要だと思う。」
二人の話題は現実世界にも及んだ。クルスが最近のニュース記事を元に異常現象を説明すると、アキラは真剣な表情で聞き入った。
「異常気象、失踪事件、ビルの崩壊、黒い影……。それって、異世界の瘴気や魔女の影響に似てるよね?」
「ああ。現実世界も危険な状況かもしれない。魔女の影響が現実にも影響を及ぼしている可能性が高い。」
アキラは考え込んだ後、意を決して言った。
「だったら、僕たちがやるべきことは明確だ。異世界も、現実世界も、どちらも救わなきゃいけない。」
クルスはその言葉に頷いた。二人の目には、同じ決意が宿っていた。
「そのために情報を共有しよう。異世界でも現実世界でも、手がかりを見つけたら必ず知らせ合おう。」
「わかった。連絡はSNSで取れるし、異世界での進展も逐一報告する。」
カフェを出ると、二人はそれぞれの道へ向かった。冷たい冬の風が吹き抜ける中、クルスは立ち止まり、アキラの背中を見送った。
「異世界も、現実世界も……大変なことばかりだな。」
そう呟きながらも、心の中には少しだけ安堵感が広がっていた。これまで、クルスは現実世界での異常や異世界での戦いに対して、どこか孤独を感じていた。
リアとの共鳴が途切れた今、その孤独感はより一層大きなものになっていた。
だが、アキラと直接話をしたことで、その感覚に少し変化が生まれた。
「同じように戦っている人がいるんだな……。」
アキラはリアと共鳴し、東の大陸で戦っている。その現実を聞いたとき、クルスの胸には一瞬不安が広がったが、同時に「一人ではない」という安心感が芽生えた。
「これからは、情報を共有できる相手がいる。」
それは、これまでの戦いではなかった新たな感覚だった。異世界も現実世界も、クルス一人で抱え込む必要はない。アキラという共鳴者がいる――その事実が、彼の心を軽くした。
クルスはふと、アキラからの言葉を思い出した。
「僕たちは、どちらの世界も救わなきゃいけない。」
その言葉には迷いがなかった。同じ決意を共有できる相手がいる。それが、クルスにとってどれだけ心強いことか。
「一緒に戦える仲間がいる……それだけで、少しだけ希望が見えてくるな。」
クルスは軽く息を吐き、スマホを取り出した。ストラテゴウスの画面には、先ほどまでの異常現象の解析データが表示されている。だが、そのデータを見る目には、先ほどまでとは違う冷静さと力強さが宿っていた。
「アキラが東の大陸で戦っているなら……俺は西の大陸と現実世界を守る。」
自分の役割が明確になったような気がした。リアを通じて繋がった絆が、別の共鳴者を通じてさらに広がっていく。
クスルも最初はリアと再び繋がる事それが一番大事だと思っていた。そんな事よりもっと大きな問題がある。そう感じた。
そしてそれは、孤独な戦いではなく、仲間とともに立ち向かう戦いへと変わりつつあることを意味していた。
最後にもう一度振り返り、アキラが見えなくなった方向を見つめながら、クルスは小さく呟いた。
「(…ありがとう、アキラ。お互い頑張ろう。そしてリアを頼む。)」
その言葉は、冷たい風に乗ってどこか遠くへ消えていった。だが、クルスの心には確かな温かさが残っていた。
そしてクルスは、もう一度深呼吸をしながら足を踏み出した。異世界も現実世界も救うために。仲間がいるという安心感が、彼の背中をそっと押してくれているようだった。




