表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/91

闇の魔女の御前

闇に包まれた広間は、重苦しい沈黙と瘴気に満たされていた。天井の高い暗黒の空間には、微かに漂う闇の波動が渦を巻き、中央には六つの席が円を描くように配置されている。そのうち一つ、右端の席は空席のままだ。


その空席はローグのものだった。


その空席に目を向けながら、五つの席に座る者たちは禍々しいオーラを漂わせ、暗闇の中で冷ややかな視線を交わしていた。


中央の席に座るリーダーと思われる女性が、片手でテーブルを軽く叩く。長く尖った爪が不気味な音を立てた。


「ローグが討たれた――エルスフィアの王女と剣神エレンに。」


その報告に、筋骨隆々とした大柄な男が苛立ちを隠せず低く唸った。

「あの小賢しいだけの出来損ないが……闇の名に泥を塗ったな。俺たちの恥だ。」


左端に座る細身の男は冷笑を浮かべながら、薄暗いテーブルを指でリズムよく叩いていた。

「まぁ、ローグ程度の存在がいなくなったところで、我々にとって大した損失ではない。むしろ、闇の力を分け与えた価値すら疑わしい。」


言葉にどこか毒を含ませた彼らのやり取りに、リーダーの女性は冷たい視線を向けるだけだった。次の瞬間、広間全体に圧倒的な気配が満ち、全員の動きが止まった。


瘴気の中心で空間が歪み、そこから漆黒の闇を纏う存在が現れる。ゆっくりと姿を現したのは、闇の象徴たる魔女――彼女の降臨だった。


広間の奥にある巨大な闇の門が重く開き、その中から漆黒のローブに身を包んだ女性が悠然と歩み出てきた。


その美しい顔は冷たく無機質で、見る者の心を凍らせるような威圧感を持つ。紅い瞳が闇の中で妖しく光り、彼女の存在が広間全体を支配した。


彼女が一歩足を踏み出すたびに瘴気が揺らぎ、その場にいる全員が無意識に息を呑む。


「闇の魔女様……お戻りなさいませ。」


中央の席に座るリーダーの女性が椅子から立ち上がり、深々と頭を垂れた。声には緊張が滲んでいたが、それは恐れではなく、畏敬の念によるものだった。


「ローグが討たれたとの報告が入りました。どうかご裁可を……」


闇の魔女は冷ややかな視線をリーダーに向けるが、その報告に何の感慨も抱かない様子だった。彼女はゆっくりと席に腰を下ろし、片肘をついて瘴気を弄びながら小さく微笑む。


「ローグが?……くだらない。どうでもよい」


その一言は広間全体を凍りつかせた。魔女の言葉に込められた冷淡さは、全てを飲み込む闇そのものだった。


闇の魔女がかつてローグが座っていた空席に視線を送ると青白い炎に包れその空席は姿を消した。


筋骨隆々とした男が低い声で口を開いた。

「ですが、エルスフィアの王女がここまで迫ってきたことは看過できません。ローグの死が小さな損失だとしても、奴らが光の痕跡に近づいているのではないかと懸念されます。」


その言葉を受け、闇の魔女は視線を上げた。その目は底知れない闇の色を宿し、彼女の口元にわずかな笑みが浮かぶ。


「光の痕跡……ああ、あの忌々しい輝き。」


彼女の指が闇を掬うように動き、静かに語り始めた。


「かつて、私がこの世界を支配した時、ただ一筋の光によって私は封印された。たった一筋で、全ての闇が否定され、消し去られたのだ……」


その声は静かだが、言葉の奥に秘められた怒りと憎悪が全員の胸を刺す。


「光など、存在するだけで闇を消し去る。どれほど広げたとしても、それが一度灯れば全てが無に帰す。不公平だと思わない?」


彼女の視線が広間を巡る。誰一人として声を発する者はいない。ただ、彼女の言葉が場を満たしていく。


「だからこそ、闇を広げる必要がある。世界を、次元を超えて、全てを闇で覆い尽くす。そうすれば、光など影響を及ぼすことができなくなるのだから。だが、光が強くなればその分、闇も濃くなるのも確か。私の力の全てを解放するためにはまだ光が足りない。」


リーダーの女性が慎重に言葉を選びながら進言する。

「魔女様、東の大陸でエルフたちが光の痕跡を探し始めています。」


闇の魔女はその報告を受け、目を閉じて一瞬の沈黙を挟んだ後、再び微笑む。


「あの忌々しい光の調律者め。次元の狭間でいつも妾を邪魔してくれる…ええ、あの痕跡が奴らに相応しいかどうか見極めなければならない。相応しくない場合は殺してしまいなさい。」


彼女は再び広間に目を向け、低く冷たい声で命じた。

「誰か一人を送りなさい。」


リーダーの女性は周囲を見渡し、一人に視線を向ける。そして冷たく響く声で名を呼んだ。

「シグル、貴方に任せます。」


その名を呼ばれた中背の男が静かに立ち上がり、冷徹な眼差しで膝をついた。彼の漆黒のローブの内側には、不気味に光る剣が見える。


「かしこまりました。光の民の希望を断ち切ってまいります。」


シグルが立ち上がると、広間の空気が一瞬で冷え込んだ。誰もが彼の背中に漂う冷酷なオーラを感じ、言葉を失った。


シグルが広間を後にすると、闇の魔女は瘴気を弄びながら、再び薄く微笑んだ。その笑みには、深い闇と共にどこか楽しげな狂気が宿っていた。


「光の痕跡……あの忌まわしき輝きが再びこの世界を照らす事は決して許さない。」


闇の魔女”モルヴィナ”はその場から闇に包まれ消えていった。


彼女の言葉は静かに響き、広間の全員が跪き忠誠を示す中、闇はさらなる脅威を広げようとしていた。



静寂に包まれた東の大陸の森。


湿った土の匂いが漂い、木々の間から差し込む薄明かりがリアの顔を照らす。森の奥から聞こえるかすかな鳥の鳴き声が、不気味な静けさを際立たせていた。


リアとアキラは東の大陸の光の痕跡を求め古くからこの地で暮らす古の民の村を探す旅をしていた。


リアは剣を背負い、地面を踏みしめながら進む。その目は鋭く、茂みや木々の影に注意を払い続けている。共鳴を通じてアキラの声が響いた。


「リア、慎重にな。地図に赤い反応がいくつかある。この先、魔物が潜んでる。」


アキラの言葉にリアは短く答えた。「分かったわ。」その声は冷静で、集中力が滲んでいる。


共鳴を通じて共有される地図には、魔物の気配を示す赤い点がいくつも点滅している。リアは深呼吸し、剣の柄を握りしめた。肩越しに見えるその姿勢は、まるで戦いを予感した獣のようだ。


しばらく進むと、低い唸り声が響いた。茂みがざわめき、影のような魔物が姿を現す。瘴気を纏った黒い狼に似た魔物が二体、低く構えながらリアを睨んでいた。


「右側にもいる!三体だ!」アキラの声が緊迫感を帯びる。


リアは剣を構え、周囲を見渡す。視線が魔物の動きを捉えた瞬間、一体が飛びかかってきた。彼女は素早く身を引きつつ、剣を一閃させる。鋭い刃が闇を切り裂き、一体目の魔物を両断した。


「リア、左だ!次が来るぞ!」アキラが警告を送る。


二体目の魔物が鋭い爪を振り上げて飛びかかってきた。リアは剣を素早く構え直し、その爪を受け止める。しかし、強烈な衝撃が体に響く。さらに右側から三体目が加勢しようと迫ってくる。


「これじゃ時間がない!リア、これを使え!」アキラの声が焦りを含んで響いた。


アキラは素早くクリエイトキャプチャの画面を開き、手元にあった材料を確認する。災害用ライター、耐熱性のガラス片、小さな蛍光灯の残骸――これらを選び、赤く輝く魔石『フレイム・ジェム』を生成した。


「完成!叩きつければ範囲攻撃になる。早く!」アキラが送ったアイテムが、リアの手元に転送される。


リアは転送された赤い魔石を手に取り、地面に力強く叩きつけた。


「燃え盛る炎よ、この地を焼き尽くせ!」


魔石が砕けた瞬間、眩い赤い炎が彼女の周囲に広がった。瘴気を纏った魔物たちはその炎に包み込まれ、焼き尽くされて煙のように消えていく。


戦いが終わり、リアは剣を背負い直した。その時、アキラの呆れた声が共鳴を通じて響く。

「リア、アイテムなんだから詠唱は必要ないんじゃないか?普通に使えばいいだろ?」


リアは一瞬言葉を詰まらせた後、気まずそうに視線を逸らす。

「……エルフにとって、不思議な現象と言葉はセットなのよ。」


「それって、ただの癖だろ?」


「文化よ!エルフの文化なの!」

リアは顔を少し赤くしながら、アキラの指摘を振り払うように言い放つ。


二人のやり取りに、一瞬の緊張が和らいだ。リアは小さく笑みを浮かべ、再び前を向いて歩き始める。


森を抜けると、視界が一気に開けた。目の前に広がるのは、古代の面影を色濃く残した小さな村だった。


村の建物は素朴で石造りの家々が並び、その壁には古代文字が刻まれている。村の中心には大きな石碑がそびえ立ち、その表面には複雑な紋様が刻まれていた。


「ここが……古代の民の村ね。」リアは剣を収めながら、慎重に村の中へ足を踏み入れた。


村人たちは一瞬驚いた表情を見せたが、リアの姿を見て徐々に警戒を解いていった。中には、彼女の背中の剣を見つめながら何かを呟く者もいる。


「旅人よ……何を求めてこの地に?」村の奥から現れた白髪の長老らしき老人が静かに尋ねた。


リアはその問いに迷うことなく答える。「光の痕跡を探しています。闇に対抗する力が必要なのです。」


長老はしばらく黙った後、深い皺が刻まれた顔でリアを見つめ、低く呟いた。

「その痕跡を知る者は、もうほとんどおらぬ。しかし、この村からさらに奥にあるエルシェリア遺跡……そこに光の痕跡が眠っていると言われておる。」


「エルシェリア遺跡……次の目的地ね。」アキラの声がリアに届く。


リアは長老にさらに尋ねた。「遺跡にはどんな危険が潜んでいるのですか?」


「エルシェリア遺跡は、かつて光の民が築いた場所。しかし今は瘴気に満ち、黄昏の契約者たちが巣食う地となっておる。彼らは闇の魔女の眷属だ……決して油断してはならぬ。」


「黄昏の契約者……分かりました。」リアは険しい表情で頷いた。


長老はリアの肩に手を置き、真剣な目で彼女を見据えた。

「光の民よ。どうか気を付けるのだ。必要な物資は、この村で揃えていくと良い。」


リアは村人たちの協力を得ながら、遺跡への準備を整えた。その間もアキラの声がリアを支えている。


村で最低限の補給と休息を終えたリアは、エルシェリア遺跡への道を進み始めた。その背中には、新たな戦いへの覚悟と使命が宿っている。


「アキラ、光の痕跡を見つけるためには、この遺跡を越える必要があるわ。」


「分かった。俺も全力でサポートする。もしもの時はすぐにアイテムを用意するから頼ってくれ。」


リアは静かに頷き、再び前へと進んでいく。その胸には、アキラとの絆が新たな力となって灯っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ