ローグとザハード
アゼルド帝国の戦場本陣に、焦燥の色を浮かべた兵士が駆け込んできた。
厳格な戦場の空気を一瞬にして乱す彼の表情は、ただならぬ報告を伝えるためだった。玉座に座るアゼルド皇帝ザハード・ヴァルザークは、鋭い視線をその兵士に投げかける。
「陛下、緊急の報告です。エルスフィアの戦場に剣神エレンが現れたとのこと!」
その言葉に、ザハードの目が大きく見開かれた。「何だと?剣神エレンが…戦場にいるだと?」声を荒げると、苛立ちを隠すことなく玉座から立ち上がる。「エレンはミルニアにいるはずではなかったのか!ローグ貴様どういう事だ!」
場の空気が凍りつき、周囲の兵士たちが一様にうつむく中、隣に立っていた黒いローブを纏う男、黄昏の契約者ローグが静かに呟いた。「どうも腑に落ちないな…。まるでこちらの作戦を読まれているようだ。この感覚は前にも…」
ローグは目を細め、険しい表情で遠くを見据えた。しばらく思案したのち、静かに言葉を紡ぐ。「エルスフィアにも共鳴者が現れたのかもしれぬな」
「共鳴者だと?…それがなんだと言うのだ?貴公が用意した言い訳か?」ザハードは眉をひそめ、明らかな不安を露わにした。
ローグは無表情のまま、冷たい声で続ける。「共鳴者の存在がエルスフィアにあるならば、こちらの策がすべて読まれていた可能性が高い。そしてその共鳴者は、エレンの動きを指揮しているに違いない」
「この失態は貴様ら黄昏の契約者の責任だ!狂信者風情が!」ザハードは怒りを込めて言い放ち、ローグを睨みつけた。「黄昏の契約者は、闇の魔女の力を持ってしても、エルスフィアを征服することができぬというのか?これは全て貴様の失敗だぞ」
その瞬間、ローグの口元が冷酷な笑みに歪んだ。「陛下、随分とお言葉が過ぎるようだ…」
言葉が終わるか終わらないかのうちに、ローグは手を振り上げ、凄まじい闇の力が皇帝の首元に閃いた。
——————次の瞬間、ザハードの首が無惨に切り落とされ、地に転がる。
その光景に周囲の兵士たちは凍りつき、一瞬の沈黙が場を支配した。
「黙れ。お前はもう用無しだ」ローグは冷然とした口調で言い放ち、まるで何事もなかったかのように周囲の兵士たちに目を向ける。その眼差しは冷たく、しかし確固たる威厳がそこにあった。
「お前たち、よく聞け。ザハードは我ら黄昏の契約者の手により処罰された。エルスフィアへの侵攻を中止することは許されない。我々の目的はこの地に光の痕跡を残さぬこと。そのためには、エルスフィア王国を徹底的に打ちのめすのみだ」
兵士たちは怯えながらも、その言葉に従うしかなかった。皇帝の命令であろうと、黄昏の契約者に逆らうことは禁忌であり、その代償は計り知れない。
「よいか、剣神エレンが現れたとしても、それが何だというのか?奴が一人で戦場を支配できると思うな。闇の魔女の力に比べれば、ただの人間にすぎぬ」
ローグは冷笑を浮かべたまま、手をかざして呪文を唱え始めた。すると、地面から闇の瘴気が立ち昇り、その中から次々と魔物たちが召喚されていく。彼はゆっくりと兵士たちに振り返り、冷酷な声で命じた。
「これでエルスフィアは終わりだ。アゼルドの軍勢に加えて、この魔物の軍団を従え、エルスフィアの大地を我らが闇で染め上げる。逃げるものは容赦せぬ。ザハードのようになると思え」
兵士たちは恐怖に震えながらも、ローグの命令に従うしかなかった。
黄昏の契約者ローグが帝国を支配し、闇の魔女の力でエルスフィアを完全に制圧しようとするその光景に、アゼルド帝国の軍勢全体が新たな恐怖と狂気に包まれていった。
ローグはゆっくりと手を挙げ、冷たく輝く瞳を持ち上げて言い放つ。「エルスフィアめ、これで計ったと思ったら大間違いだ。いずれ貴様らの希望を一つずつ打ち砕いてくれる」
「まずはアゼルド帝国軍全軍でエルスフィアを攻め込め。後退する者、逃げる者は全員死だ」
(アゼルドはもう用無しだ…エルスフィアさえ落とせばこの大陸に用はない)
こうして、エルスフィア王国への侵攻は新たな段階に突入し、戦場には更なる闇と混沌が降り注がれる運命が待ち受けていた。




