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闇の魔女の影響

王宮の重厚な扉が静かに開かれた。そこから姿を現したのは、精悍な顔つきと冷徹な眼差しで周囲を圧倒する剣神エレンだった。


彼はミルニアの激戦から一刻も早く帰還し、即座に国王のもとへと赴いていた。玉座に座る国王もまた、エレンの帰還を待ちわびていた様子で、立ち上がって彼を迎え入れた。


「エレン、無事で何よりだ。しかし、状況はどうだ?ミルニアの救援は…」


エレンは深々と頭を下げ、顔を上げると、真剣な眼差しで国王を見つめた。


「陛下、ミルニア救援の中戻ってきたことをお許しください。しかし、事態は深刻です。アゼルド帝国の本隊がすでにエルスフィアを攻める準備を進めています。セルス様はミルニアへ向かい、救援を完遂されるべく奮闘中です」


国王はその報告を聞いてしばし言葉を失い、複雑な表情で玉座の肘掛けに手を置いたまま沈黙していた。


「セルスが…ミルニアに残ったのか…」国王の脳裏には、広大な戦場に独り残された娘の姿が浮かび、心の奥底に重苦しい痛みが走った。


エレンはその様子を見つめながら、静かに、しかし強い意志を込めて進言を続ける。「陛下、セルス様はミルニアの人々を守るためにご自身の意思でそこに残る決断をされました。そして、我が国が迫る脅威に備えることも彼女の強い望みです。セルス様は、私がここに戻るべきだと、私が帰還することでエルスフィアが備えを整えるべきだと仰いました。…あの方は、一度言い出したら聞かないことは陛下もよくご存知のはず」


国王は静かに目を閉じ、深呼吸して一息ついた。娘の選択が、彼女の信念に基づくものであることを理解している。それでも、胸中の葛藤は計り知れない。しかし今、この瞬間に優先されるべきは国全体の守りであり、王として決断を下さねばならない。


「…分かった。エレン、ただちに軍の編成を行い、セルスが無事に帰還できるよう全力を尽くすぞ」


エレンは小さくうなずくと、手元の地図を広げ、事前にクルスから伝えられた戦略予測について国王に説明を始めた。クルスが《ストラタジア》を駆使し、敵軍の行動を詳細に読み取っていたことが明かされる。


「クルスの予測した敵の布陣がこちらです。アゼルド帝国は東の山道を通り、我々の補給線を断つ作戦を取ると推測されます」


「…となると、補給線に我が軍を配置し、敵を待ち構えることになるのか?」


エレンは頷き、続けた。「はい、陛下。クルスの案によれば、敵が補給線を狙うであろう地点に我が軍を伏せ、奇襲をかけることで敵軍を混乱に陥れ、侵攻速度を遅らせることが可能です。この戦術によって、セルス様の帰還と救援が間に合うように調整できます」


さらに、エレンは慎重な表情で国王に新たな情報を伝えた。「クルスはこうも言っていました。国境近くに魔物が急増しているのは、どうも尋常ではない。アゼルドが闇の魔女の手に落ちている可能性があると…そうでもない限り説明がつかないと」


国王の表情が変わり、驚愕の色を隠せない。「アゼルドが、闇の魔女に操られている…?」信じがたい言葉に、国王は眉間に深い皺を寄せた。


だが次の瞬間、王の瞳には確固たる意志の炎が宿る。「もしアゼルドが闇の魔女の手に落ちているなら、放置すれば我らエルスフィアはもちろん、周辺諸国も危機に瀕するだろう。しかし、それでも、クルスの戦略予測があれば、我らも確かな自信を持って戦える。彼の策に従い、我が軍を配置し、万全の守りを固めるのだ」


エレンはその言葉に力強くうなずき、国王に深々と頭を下げた。



一方、アゼルド帝国の陣営は冷たい闇の中、静寂と緊張感に包まれていた。数多くの兵士たちが、整然と配置につき、次の命令を待っている。その最奥には、闇に満ちた気配を漂わせながら、皇帝ザハード・ヴァルザークが立っていた。彼の隣には、黒いローブをまとい、暗闇と一体化したかのような異様な存在、「黄昏の契約者」ローグが控えている。


ローグは冷たく光る眼を細め、静かに皇帝に向かって声を落とした。


「今が好機だ。剣神エレンはミルニアに出向いている。エルスフィアは彼の力を欠き、まさに手薄。今こそ帝国の力を見せつけ、エルスフィア王国を完全に制圧する時だ」


ザハードはその言葉に不敵な笑みを浮かべ、ローグに目を向けた。


「ローグよ、まさにこの時を待っていた。長きに渡り積み上げてきた力が、今まさに花開く瞬間だ。エルスフィアを打ち砕き、我が帝国の支配を確立するのだ」


ローグは冷淡な微笑みを浮かべると、再び冷たい声で告げた。「では闇の魔女の力を解放し、魔物の軍団を召喚するとしよう。その圧倒的な力をもって、エルスフィアの防衛線を崩し、彼らの心に恐怖を植え付けようぞ」


ローグが闇の魔力を操ると、空気が凍るような冷たさが広がり、瘴気に包まれた獣や異形の兵士たちが次々と姿を現した。彼らはローグの命令に従い、静かに陣を成して戦場を見据えている。その不気味な姿からは、威圧感と恐怖が滲み出ていた。


「剣神エレンもいない今、奴らには四聖剣くらいしか脅威とはならん。この地を蹂躙するのは容易い。全軍をもってエルスフィアを破滅に導こうではないか」


ザハードの言葉にローグは満足そうに微笑み、手元に黒い炎のような魔力を集中させ、闇の軍勢を動かす準備を整えていった。



エルスフィア王国の王宮で、クルスの策とエレンからの報告を受け、国王は深く考え込んでいた。


闇の魔女の影響、アゼルド帝国の侵攻という危機が重なり、その脅威に対する備えを固めなければならない。


しかしふと顔を上げた国王の瞳には、決意の光が宿っていた。玉座からゆっくりと立ち上がり、王は力強い声で告げた。


「たとえアゼルド帝国がいかに強大であろうと、我らはこのエルスフィアの民と国土を守り抜くために戦わねばならぬ。セルスが無事に帰還できるよう、エルスフィアの力を結集し、迎え撃つ準備を進めるぞ!」


国王の言葉にその場にいた将軍たちは気を引き締め、深々と一礼をした。王の決意を受け、エレンも一歩前に進み出て再び国王に誓いの言葉を捧げる。


「陛下、私は戦場で最前線に立ち、クルスの策に従い防衛線を構築します。そして必ず、セルス様が無事に帰還するのを待ちましょう」


国王はエレンに深い信頼を込めて頷き、肩に手を置いた。「エレン、頼むぞ。お前の剣と共に、我がエルスフィアの誇りもまた戦場にある。全ての将兵に伝え、エルスフィアの名の下に結束し、命を懸けて守り抜くのだ」


エレンは王の言葉に応え、玉座の前で厳粛に誓いを立てると、すぐに軍の編成に向けて準備を整え始めた。彼女の姿は決意に満ち、そして冷静であった。



一方、アゼルド帝国の陣営では、ローグが召喚した闇の軍勢が次々と集結し、エルスフィアへの侵攻を待っていた。瘴気に包まれた不気味な魔物や兵士たちは、まるで生きた屍のように静かに待機し、その不気味な存在感が周囲に漂っている。


「エルスフィア王国に恐怖を植え付けよ。奴らがどんなに抵抗しようとも、我々は闇の力をもって全てを蹂躙する。光の民とその末裔など、この大陸に生き残らせるわけにはいかぬ」


ローグの冷たい声が響き渡り、闇の軍勢は命を受けてじわりじわりと進軍を始める。アゼルド帝国の皇帝ザハードもまた、前線に立って部隊の動きを確認していた。その顔には満足そうな笑みが浮かんでいる。


「ローグ、今こそこのエルスフィアを手中に収める時だ。闇の魔女の力と我が帝国の力が合わされば、この地を支配するのはもはや時間の問題である」


ローグは再び頷き、闇の軍勢を完全に掌握していった。彼らの侵攻は、西の大陸の光の民の最後の砦を打ち砕くために動き出そうとしている。



エルスフィア王国では、エレンのもとに続々と将兵たちが集結し、最終防衛ラインを築くために士気を高め合っていた。エルスフィアの各部隊はそれぞれの持ち場に付き、緊張感が漂う中で決意を固めている。


クルスの戦略が全軍に伝わり、彼の指示通りの配置が迅速に整えられていった。


「皆の者、これはエルスフィア王国の未来をかけた戦いだ。アゼルド帝国の侵攻を阻み、我らの祖国を守り抜くために、結束して戦おう!」エレンは全軍に向けて力強く呼びかけ、兵士たちの士気をさらに高めた。


エルスフィア軍は、これまでにない結束力と高揚感を持って闇の軍勢を迎え撃つための準備を整えた。


やがて、アゼルド帝国の軍勢が徐々にエルスフィア王国の国境に迫ってきた。


その数は圧倒的で、闇の瘴気が辺りを覆い尽くし、凄まじい威圧感を放っている。しかし、エルスフィアの将兵たちは一歩も引かず、祖国を守るための誇りと使命感で身を引き締めていた。


そして、両軍の間に静かな緊張が張り詰め、まさに一触即発の状況にあった。

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