自分ができる事
アキラは電話を切り、改めてクルスのことを思い返した。彼のように魔法を再構築したり、リアを直接支援する方法は自分にはできない。それでも自分にできることは何かないかと、彼は考え込んだ。
「僕にできるのは……ゲームで言うところの“僧侶”かも知れないな」と、ふと気づき、自分なりのサポートのあり方を見出したアキラは、少しずつ迷いを振り払っていった。
4日目の朝、アキラはリアに伝えた。
「リア、僕は直接戦うことはできないけど……できる限り、後方から君たちを支えたいんだ」
リアは一瞬驚いたようだったが、すぐに微笑んで「ありがとう、アキラ。あなたの支えは、私たちにとってかけがえのないものよ」と優しく答えた。
アキラは彼女の言葉を受け、さらに力を入れるようにスマホの画面を操作し、バトルビューを開いた。画面にはエルフの里の人々が進むルートと、周囲の地形、魔物の動きが示されている。彼はその情報を細かく確認し、敵の動きだけでなく、エルフたちが進む経路や周囲の安全にも気を配りながら、リアへ適切なアドバイスを送ることを心に決めた。
「リア、君たちの進行方向には少し開けた平地が見える。そこに着いたら、少し休憩を取ってはどうかな?」
「分かったわ、ありがとう」
しばらく歩き続けた後、リアたちは平地にたどり着き、アキラの言葉通りにそこで一息ついた。エルフの人々は疲労の中にも前を向く力強さを見せており、その姿を見つめるリアの表情にも決意が見て取れた。
「アキラ、あなたが事前に送ってくれた食料や水のおかげで、ここまで順調に来られたわ。ありがとう」
「いや、リアが頑張っているから、俺も全力でサポートしようって思えるんだ」
アキラは再びクリエイトキャプチャを起動し、エルフの人々が必要とするであろうアイテムを作り出し始めた。長い移動に疲れている彼らのために、簡単に栄養補給ができる食料や、携帯用の水筒など、できる限りの支援を行った。
「リア、少しでもこれで役に立つといいけど」
リアは感謝の気持ちを込めて応えた。「本当にありがとう、アキラ。あなたのサポートがなければ、今の私たちはここまで来れなかったかもしれない」
その言葉がアキラにとって大きな励ましとなり、彼も自分がリアやエルフの人々を支えることができていることに自信を持ち始めていた。クルスのように攻撃的なサポートはできないが、自分の存在が彼らの支えになっているということが、少しずつアキラの心に使命感を植え付けていった。
「この役割でいいんだ……これが僕にできることなら、それを全うしよう」
アキラは再びバトルビューを確認し、リアに今後の進行方向についてのアドバイスを送った。「リア、10時の方向に小さな魔物の群れがいるけど、こちらには向かってこないみたいだ。大丈夫だよ、今のルートで安全に進める」
リアはアキラの言葉に安堵しつつも、その指示に従って仲間たちを誘導し、安全な経路を進むことができた。アキラの的確なサポートが、リアやエルフたちの心を確実に支えていた。
さらにアキラは、リアたちが日中の移動で少し疲れていることを考え、回復のポーションを生成し、リアに送ることを決めた。リアがそれを確認したとき、彼女の表情には喜びと安心が混じっていた。
「アキラ、本当にありがとう。こうしてサポートしてくれることで、私も安心して前に進めるわ」
リアの言葉は、アキラの中で確かな自信を育む種となった。「自分なりのやり方で、彼女たちを支えているんだ」——そう確信を持つことで、アキラの心には揺るぎない決意が根付いていった。
夕暮れが近づくと、道の先に小さな川が流れているのがバトルビューを通じて見えた。アキラはリアに水の補給を進言し、エルフたちが安全に渡れるようにアドバイスを続けた。そして、水筒や食料の追加物資を準備し、彼らが夜の宿営に備えられるよう、細やかなサポートを行った。
「リア、食料や水の補給をちゃんとして、明日に備えてね」
リアもその心遣いに心から感謝しているようだった。「アキラ、あなたがいてくれるおかげで、本当に心強いわ」
アキラは彼女の言葉にただ「ありがとう」とだけ応えた。リアが、そしてエルフの人々が、彼の支援によって少しでも前を向けるのなら、それが自分の使命なのだと感じていた。
「リアを支えて、この世界のためにできることをやる。それが今の僕の役割だ」
その夜、アキラは改めてリアと深く話し合い、お互いの心の距離が少しずつ縮まっていくのを感じた。
二人の絆が深まり、彼の心には次第に使命感とともに温かな思いが広がっていった。