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彼らの登らない古塔生活  作者: うめつきおちゃ
そびえる塔、群がる人たち
9/50

会敵/戦闘


ノエルと2人、川沿いを外れて少しだけ迂回する。


少し進むと匂いが急に消えた。

この辺りで川にでも入ったのかもしれない。


代わりに他の、なんとも言えない臭いがしてきた。


川下を覗くと何かが動くのが見えたので川沿いから離れた木陰に隠れながら近づいてみる。


その影は何か棒のようなものを持った泥だらけの子どもだった。


「こんなところに子どもがいるんだ?」


少し後ろにいるノエルに尋ねる。

ノエルが慌てた表情をし、口をパクパクしている。


なんだ?読唇術の類は習得してないからわからない。


音を立てないよう慎重にこちらに近づくノエルの振る舞いから察するになんらかの敵対生物のようだ。


(あんな子どもが敵??)


隣に並んだノエルが囁くような小声で

「ゴブリン」と言った。


たしかそれは昨日クラマーたちから聞いたクラマーの怪我の元凶となったモンスターの名前だったはずだ。


一階層から現れるモンスターの一種だとかなんとか。

話に聞いていたのに失念していた。


こちらの声が届く距離ではないと思っていたがどうやらその大きな耳は飾りではないらしく警戒し周りをキョロキョロし始めた。


ノエルは口に手を当てて何か思案するような表情をしている、が恐らく本当はパニックにならないように努めているのだろう。


明らかに目が泳いでいる。


(つい数日前にリーダーであるクラマーが怪我をさせられたんだ、怖いと感じるのは当然だろうな。)



自分のせいでバレたんだ、責任は自分で取ろう。

自己犠牲のつもりは毛頭ないがせめてもの贖罪だ。


ゴブリンが少しずつこちらに近づいてきている。

2人ともバレるまでもう少しもないだろう。


ノエルにはその場を動かないようジェスチャーで伝えて自分はゆっくりと動く。

草葉の擦れる微かな音や踏みつける枯れ木の音にゴブリンが反応する。

間違いなく捕捉された。



「おい!こっちだクソヤロー!」



ノエルからなるべく離れた位置に飛び出して大声をあげる。



ノエルは恐らく驚いているだろう。

ギロッとその大きな眼でゴブリンがこちらを捉える。


他に仲間のいる雰囲気も臭いもない。


(1対1・・自分の実力がよくわかるいい機会だ。)


クラマーたちはつい先日、4対2の状態でゴブリン達と不意遭遇からの戦闘になり一体を討ち取ったがその際にクラマーが怪我をしたので離脱したと言っていた。


つまり5人パーティになった今、2体までならおそらく倒せるはずだ。


(だがそれはあくまで『俺が先頭において使い物になる』という前提の基に算段されたものだ。)


(自分の実力を早めに測れるのは助かるな。)



ここで俺が倒せれば上々だが最悪、倒せなくても川上から3人が降りてくるまでの時間稼ぎができれば隠れたノエルと連携し問題なくこの場を制圧できるだろう。


今、自分がするべきは攻めることよりも怪我せず時間を使うことだろう。


自分の価値は自分自身で示す必要がある。

今がきっとその時だ。


それに確証はないがなんでか負ける気がしない。

荒事は嫌いじゃなかったのかもしれない。


その証拠に目の前で本気の殺意を向けながら大仰な威嚇を繰り返す化け物を見ても膝は笑わないし頭も冴えている。


グエェエエエっ!


とかなんとか言いながらゴブリンが襲いかかってくる。

隠し持っていた石を胴体めがけて投げつけるとゴブリンが少し怯んだ。


さっき買ったばかりの安物の中型のナイフを続けて投げるフリをしたらゴブリンは警戒したのか立ち止まって避ける態勢をとった。


その隙に一気にコチラから距離を詰める。


腕を前に組み防御態勢を取る相手にナイフで攻めるなら多分脚を狙うべきなのだろう、石だらけで踏ん張りにくい川原という立地からそれも厳しいと今更ながらに気づく。


(今更そんなことに気づくなんてなっ。)


身長差もあるし有効そうな蹴りに移行する。


ドンっ!!!


右のミドルキックがゴブリンの腕越しに入りその体が少し浮いた。



軽い。


体格差があるにしても感触が軽すぎる。

恐らくコンタクトの瞬間に少し後方に跳んだのだろう。


(コイツ上手いな。)


見た目からは想像つかないがどうにも賢い相手だ。


ナイフを前に構えてカウンターを警戒する。


ゴブリンも最初の、勢いでどうにかなる相手じゃないと気づいたのか少し膠着した時間が流れる。


と言っても数秒もないだろう。命の取り合いとはこんなにも時間の流れが遅く感じるのか。



ーービュンッーー


何かが放たれる音がし、ゴブリンの肩に刺さる弓矢。

ノエルの弓か。


何事かと矢の放たれた方にゴブリンが視線を向けた。


(今のうちに攻めるか?いや距離が微妙だ。)


この戦闘中はじめて視線が外れたのでノエルのいない方へ少しだけ移動し死角に入る。


ゴブリンはその移動に気づくがノエルの放った弓矢のダメージが大きかったのかコチラよりも見えないノエルに警戒しているようだ。


2人の位置がゴブリンを挟む形になる。


「外してもいい!もう一度射ってくれ!」


隠れていて姿の見えないノエルに叫ぶ。


直後木の裏から弓を構えたノエルが飛び出る。

ゴブリンは回避の構えをとる。

背中が見えた。


ノエルの弓矢が明後日の方向へ飛ぶ。

外れたのを確認したゴブリンは喜ぶような鳴き声を発する。


(今だ!!)



なるべく速く静かに動いてゴブリンの脇腹にナイフを突き刺す。

硬い表皮を突き破り肉を切り裂く感触が握った手に伝わる。


しかしゴブリンは刺されたくらいじゃすぐに止まらないらしい。


コイツが特別なのかわからないが、すぐに腕を振り回してきた。


10代前半程度のその小さな体躯からは想像がつかない膂力でぶん回された腕に身体が飛ばされる。


(これが命のやり取り。ナメてたわけじゃないがしぶとい!!)



運良く川に着水できたが、もし背中側に大きな石でもあったら大打撃だっただろう。



ゴブリンは腹のナイフと肩の弓矢を抜き、ノエルの方へ歩き出した。


「ノエル!逃げろ!!」



シエルのいるであろう林に向かって叫ぶ。


こちらの声にゴブリンは少し振り向くもすぐにまた歩き始めた。


石を投げた程度じゃ止まらない。

急いで川から抜け出し追いかける。


落水した時川の中の石で脚を切っていたらしい。

打撲もしている。


うまく走れない。

でも走る。


わからない事ばかりだけど、今走らないと絶対に後悔することだけはわかるからだ。



「無視してんじゃねぇぞ!」


ゴブリンの背中にそう叫んだ。




2024/08/08 修正しました。


今更誤字に気づきました。

恥ずかしさと申し訳なさでいっぱいです。

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