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彼らの登らない古塔生活  作者: うめつきおちゃ
僕を守る君を守る人
43/50

その名は≪バフォメット≫

 この世界にきて、おおよそ半年が過ぎた。

 あと五か月もすればまた誰かがこの世界へやってくる。


 まぁ何が言いたいかっていうと俺たちは日々成長しているし、このわからない事だらけの世界とも、実はうまく付き合っているということだ。


 知らないことを知るのは楽しい。


 わからなかったことが理解できるのも楽しい。


 でも、目の前の景色はその範疇を超えていた。


 知りたくないと思った。

 この感情はおそらく恐怖だ。


 理解したくないとも思った。

 それは逃避だ。


 なにから逃避したいのか、それはこの圧倒的な現実からだ。



 俺たちのパーティを蹂躙できるほどの数と力を持ったライカンスロープ。


 そのライカンたちに単独で挑み、自らが傷つきながらもリーダー格と取り巻きを屠ったユニコーン。



 その両陣営の屍が山のように積み上げられていた。

 まるで自分の所業を自慢するかのように、またはただ落ち葉を邪魔だから纏めて置いておくかのように。


 なにを考えて、あの山が作られたのか知りたくない。


誰がやったのか、理解したくない。


 ただこの場所にきて最初に感じたのは恐怖でも不快感でもなく『視線』だった。



 赤い目がこちらを見ている。

 黒いヤギがこちらを見ている。

 死がこちらを見て、笑っている。


 誰も声を出せない。

 誰も動けない。



≪バフォメット≫

一月ほど前からウワサで聞いていた存在だ。

どの階層にいても出会うことがあり得る存在。

討伐組の定めた現在、最優先討伐目標だ。


(死んだな・・・。)


多分、全員がそう思っただろう。


(俺がひきつけたところで瞬殺だろう。仮に一撃をきせ


きてき・・・)



ドンッッッ!!!!!!


思考の途中でアンドレが吹き飛ばされた。

音がその速さについていけず遅れてやってきた。


うめき声もなく気絶したようだ。


「俺が・・・・。」


「やる」の二文字が出ない。


 刺激臭とシイナのすすり泣く声が聞こえる。


 

ドンッッッ!!!!!!


 と音がしたほうを見ると先ほどまでそこにいたドゥナが消えていた。


 エスメラルダが目をつぶり泣いているのが見えた。


 俺はなにをしているんだ。


 俺は・・・俺は今、戦う前から負けることを考えているだけの馬鹿だ。


 誰の言葉かは残念ながら思い出せない。

 

 

 ドンッッッ!!!!!!


 エスメラルダが飛ばされた。

 それが蹴りなのか殴りなのか体当たりなのかわからない。

 わからないけど・・・馬鹿でいたくない。



 「おいクソヤギ!!」


 と、大声で呼びかけた瞬間に身体が空に浮かぶ。

 そのさなかに遅れて衝撃音が鳴り、全身を痛みが駆け抜けた。


 「ああっ!!あ・・あ・・っ!」


 言葉にならない。

 

 「アヤト・・・」


 シイナの声が聞こえる。

 

 (痛すぎて笑える・・・ゴメン、シイナ・・・その言葉に返す力が湧かない・・・)


 「アヤト・・・わたし、死にたくないよ・・・。」


 「ああああ・・・ああああああああ・・・ああああ」


 言葉にならない声が出る。


 体力も気力もない、でも立ち上がる。


 声も出ない眼もほとんど見えない。


 「アヤト!!!!!!!!」


 シイナの声だけが聞こえた。


 俺が守るよ。


 頭のどこかを切ったのか血が滴るのを感じる。


 俺が守るよ。


 ()()だから



 「俺たちは・・・家族だから。」


 その言葉を前にも言った気がした。




 (いや、あの時は確か、言いたいのに言えなかったんだ。)


 (あの時って、いつだったっけ・・・)


 その言葉を口にしたことで落ち着いた。


 いや体力も気力も切れたこの身体に最後に残ったモノが燃えているのを感じる。

 

 


 バフォメットは先ほどまでテンポよく攻めてきていたのに今は動かない。


 こちらを警戒するニオイがする。


 それがどんなニオイか説明はできないが理解できた。

 

 アンドレが実は生きていて立ち上がろうとしてることも

 ドゥナが今すぐ回復魔法を必要としていることも

 エスメラルダが心折れて唇を噛んで耐えてることも


 見なくてもこの場が把握できる。


 (たぶん、これが俺のスキルの覚醒状態だ。)

 

 覚悟を決めたバフォメットが殴り掛かるのが見える。


 さっきまでは見えなかった攻撃が見える。


 避けて、その腕をつかみ、関節に膝を入れる。


 ガアアッ!!!!!!!!!


 と鳴いたバフォメットが距離を取る。

 

 (終わった。)


 確信した。

 バフォメットからは殺意も敵意も今は感じない。


 「行けよ・・・」


 そう呟くと、言葉は通じないはずだが、ヤツは飛んで消えていった。


 バタッ!!!


 と倒れこむ。

 

 「アヤトっ!!」


 と叫びながら近寄るシイナの姿に、俺よりもドゥナがやばい、と告げると後ろ髪をひかれながらも彼女のほうへ行ってくれた。


 (いつも強敵と戦うとこんな風に満身創痍だな・・・)


 過去最強クラスの相手に生き残った、それだけで満足だ。


 なんて思えないのは俺がおかしいからだろう。

 

 「次はちゃんと・・・倒してぇえええ!!!!」


 ノツダを彷彿とさせる俺の叫び声が峡谷地帯にこだまする。


 


 シイナの回復魔法を受けて肩を抱いてもらう形でようやく石碑へたどり着き家路につく。

 

 今日も生きて帰れる。 

 それは素晴らしいことだろう。

読んで頂きありがとうございます。

あとはエピローグでこの章は終わります。

長々と付き合っていただけた方、ありがとうございました。


このサイト自体に慣れてなくて評価を頂いてることに今更気づきました。

評価をくれた方、ブクマしてくれた方、

大変励みになります。ありがとうございます。



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