新しいチカラとライカンスロープ
これがスキル…実感しかない…。
「試したい。」
ノツダがつぶやいた。
キラキラした目でコチラを見てくる。
いやノツダに限った話ではない、全員が高揚しているのか目がキラキラしてる。
最初からずっと反対していたクラマーさえ、この高揚感に酔っているようだ。
「いくぞっ!!《フィジカルブースト》!!」
ノツダが叫ぶと同時に先程まで俺がいた大岩のさらに上までほんの一瞬で駆けて行った。
一瞬何が起きたかわからなかった。
「「え?!」」と声を上げるよりも速く移動するその姿に驚きを隠せない。
(身体能力が上がっているのか?俺のスキルと同系統みたいだな……。)
「お前らはどうなんだよ?!どんな能力なんだよ!??」
テンションの上がりきったノツダの言葉にノエルが静かに反応する。
「ふーっ。」
いつのまにか背中の弓を下ろしているノエルが息を整えていた。
弓を構えて川の向こうへ射った、その軌道はまるで蛇のように曲がり無警戒でいた魚に中る。
「スキル名は《ドッグファイト》狙った獲物に矢が追従するようになるスキル。……曲がり方の限界と追従距離の限界はあるんだけどね。」
「わぁぁ!凄い!凄いよ!ノエル!!」
シイナが飛び跳ねて喜んでいる。
人のことでこんなに喜べるのは素敵なことだ。
女性陣二人が喜び跳ねている優しい光景からは想像もつかない殺意が臭っていることにふと気がついた。
「アヤトはどんなスキ……
「敵襲!!!」
クラマーの言葉を遮る!
俺たちはもうルーキーじゃない。
俺の言葉を聞くや否や、すぐに全員が武器に手をかけつつ俺の視線の先を睨みつけながら体形を整える。
森の中から嗅いだことのないニオイがする。
強烈な獣臭だ血と混ざり合って不快さを覚える。
パキッ!パキッ!
辺りの森の中から枯れ木を踏み分ける音が聞こえる。
(コイツら包囲しようとしてる?)
「複数体いる!恐らく三体!一ヶ所に集中せずに広い範囲で警戒しろ!目を逸らしたらなにか飛んでくるぞ!」
「まだみんなのスキルを把握できてないのに!」
「クラマー!俺はノツダと同系統の身体能力強化系だ!恐らくサシでやり合っても多少は耐えれる!」
「オレも《フィジカルブースト》があるから大丈夫だ!!」
「わかった!二人はそれぞれ単体で当たって!ノエルとシイナは僕のカバーをお願い!!」
「了解!」「了解……!」
「「くるぞ!!!」」
俺とクラマーが敵の襲撃を告げると同時に遠吠えが聞こえた。
(遠吠え?!襲撃のタイミングを合わせるため?いや、違っ!!)
バッッッッ!!!!!
木をかき分けて
ガウウッッッッ!!!
黒い狼が飛び出してきた!!
「ライカンスロープ!!」
クラマーの叫ぶ声が聞こえた。
敵攻撃を捌くのに必死で返事をする余裕がない!
が、多分このモンスターの名前だろう。
事前に聞いていた毒持ちのモンスターじゃない事はわかった。
ライカンスロープ、二足歩行にも対応した黒狼、ゴブリンより速く強い。とかが特徴なはずだが、
(クッ!!とにかく攻撃が速すぎる!想像の何倍も速い!!防御に徹してもすぐに間に合わなくなる!!)
二足歩行と四足歩行両方得意らしくコチラの想定範囲外の攻撃を織り交ぜてくる。
それを捌ききれずに何発もくらう。
力はゴブリンよりは強いがまだ即致命傷ってわけじゃない。
(クラマーもシイナもスキルを使ったような声が聞こえない!まさか二人は戦闘向きのスキルが貰えなかったのか?!)
ノエルは時折スキル名を叫んでいるし、ノツダは発動し続けるタイプなのだろう。
たが他の二人はまだスキル名すらわからない。
「クソっ!!スキルを使う隙が見えない!誰かフォローくれ!!」
「クラマー!」
「うん!いいよノエル頼んだ!」
俺の叫びにノエルが反応し一瞬クラマーのフォローから外れる。
(あとで回復頼むぞシイナ!!)
俺はライカンの攻撃をわざとくらう。
「がっっ!!!、」
想像以上の痛みが上半身を襲った。
この戦闘中上半身はマトモに動かせないかも知れない。……でも
《ドッグファイト》!!
ガヴッッ!!?!
ノエルは俺への攻撃が成功した後のライカンに生じた、ほんの一瞬の隙を逃さない。
あらぬ方向から飛んできた矢がライカンの気を引いた。
矢の威力自体が上がったわけではなさそうなのが少しだけ残念だが相手の気を引くという意味ではとても強いスキルだ。
まぁ俺のスキルと違い汎用性が高いのは羨ましいが。
矢に気を取られノエルを襲おうとするライカンに仕掛ける。
「おい、犬野郎!女ばっか見てんなよ!」
《バスターキャノン》!!!!!
ドゴンッ!!!!
ライカンの身体は空中を舞って大岩に叩きつけられた。
「いってええ!!」
思い切り蹴り込んだ脚が悲鳴をあげる。
俺自身も悲鳴をあげた。
俺のスキル《バスターキャノン》は諸刃の剣。
自身へのダメージもあるがそれ以上のものを蹴り出せるというものだ。
(しかも左右併せて二回限定って渋すぎるだろ!)
威力は申し分なしだがデメリットがデカすぎる。
「アヤト!ヤバい!時間切れちゃう!!」
ノツダがコチラに助けを求めてきた。
恐らくノツダのスキルは時間制限があるのだろう。
しかしよく見るとノツダが相手していたライカンは満身創痍だ。
「俺が惹きつけるから全力突きをだせ!」
ノツダに伝えるとライカンへナイフを投げる。
コチラを向くライカンの脇腹へノツダが槍を突き刺した。
「コイツらモンスターはここからがしつこいぞ!」
「わかってる!!食らえ!ジェイ直伝の高速連続突きだ!!!!!」
ノツダがローガンのパーティの槍使い[ジェイ]から習ったであろう技でライカンを倒した。
「あとはクラマーのところだ!!急げ!」
「わかってるよ!」
片脚が動かないからノツダに3人のフォローを任せるしかできない。
くそっっ早く倒してくれ!!
「早くしてくれ!!」
「そうはいっても!!コイツ!強いって!!!」
「アヤト!さっきの遠吠えは?!」
少し楽しそうなノツダと違いクラマーは不穏な空気を感じ取ったらしい。
矢が切れて近接戦へ移行しようとするノエルとライトボールで支援中の二人に声をかける。
「シイナ!ノエル!二人はなるべく石碑の近くへ!!」
「なんで?!なにがあるの?!!」
まだ二人は気づいてないらしい。
「確証はないが、あの遠吠えは仲間を呼んだものだ!!!ソイツを全力で…………間に合わなかった……。」
交戦中だった一匹が急に森へ駆け出すと仲間たちが現れる。
(数える気もしねぇ……。)
10数匹のライカンが森の中からコチラを伺っている。
「なんだよコレ!ヤバすぎる!!」
ノツダがパニックになる。
「シイナ!私の後ろに隠れて!」
「でもノエル……」
「いいから!!」
いつ襲いかかってきてもいいように体形を整えるがこの数的不利な状況を打破する策略もスキルも奥の手も俺たちにはない。
「あとは時間の問題だな。」
と諦めたように呟くとクラマーが
「でも……なんで……すぐ襲って来ないんだろう。」
と言った。
確かにそうだ、仲間が二体やられたとはいえ、数の優位を活かさないのは意味がわからない。
「今のうちに石碑の方へ……うわっ!」
石碑と俺たちの間にライカンが飛んできた。
「ノツダ!怪我はない?!」
クラマーがノツダが駆け寄る。
どうやら回り込まれていたようだ。
帰りの石碑自体は目と鼻の先にあるのに物凄く遠い。
「なんなんだよこの状況は……。コイツら何を警戒してやがる……。」
「警戒っていうより怯えてるのかも……。」
「怯えるって俺らにか?」
とシイナに聞くと、ううん、と否定しながら首を振って「別の何かに。」と口にした。
(別の……なにか……?)
瞬間、答えがわかった。
ドンッッッッ!!!
大きな着地音とそれにより舞上げられた土埃の中に赤く染まった一本の角を生やした大型の白馬が現れた。
果たしてどれほどの跳躍をしたらこんな着地音がするのだろうか。
これほどの巨体でなぜそんな跳躍が可能なのか。
コイツは果たして敵なのか。
何が目的なのか。
何もわからない。
わからないが今しかない!!
「全員、石碑に飛び込めっ!!!!」
俺の掛け声にその場にいた全てが反応したように思う。
くしくも開戦の狼煙を上げたのは俺だった。
まずは読んでいただきありがとうございます。
そして長くなってしまい申し訳ないです。
これはひとえに私の短くまとめる才能の不足と客観的に見て取捨選択する能力の不足によるものです。
長々として申し訳ありません。
そして付き合っていただけて嬉しいです。
この先もよろしくお願いします。




