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彼らの登らない古塔生活  作者: うめつきおちゃ
僕を守る君を守る人
40/50

七階層到達〜新しい環境〜


「今日の目標を再確認するね。まず五階層と六階層を全ての敵と素材を無視してできる限り最短で登る。七階層に着いたら辺りを索敵しつつ帰りの石碑が光るのを待ってスキルを獲得でき次第、即撤退。いいね?」


 クラマーが全員に向けて説明する。

 昨晩の話し合いで決まった事なので全員納得済みだ。


 「もし問題が起こるとしたら石碑がもう一度光るまでの時間か。どれくらいの時間がかかるか定かではないが無事終わるのを願うしかないか。」

 

「うん。アヤトの言うとおりその時間が1番気をつけるべき時間帯だと思う。アヤト、索敵役の負担が多くなってわるいけど頼むね。」


「あぁ、任せてくれ、俺の変な提案のせいで数日無駄にしたからな。取り返すよ。」


「それはみんなも納得してたわけだし……それよりもさ、あんまり気張って最初の頃みたいな無茶しないでよね?」


 わかってるよ、ノエル。

 

「実はオレよりアヤトの方がヤバいよな?割と単独で戦おうとしたりするし。」


「ノツダのヤバいとは方向が違うと思うけど……。」


「シイナ、今なんか言った?!」


「聞こえてないなら良いよ。」


「ふふっ、よしっ!じゃあ出発だ!!」


 クラマーの号令に思い思い返事をした。 

 そしてスキル獲得()()を目的として塔へ向かう。


 ―――――――


 いざ登ることのみを考えて探索をすると登りの石碑が見つからない。

 探索範囲を広げるためのスキルが欲しくなる。

 

 そんな都合のいいものがあるのかわからないが。 



 どれくらい探したからわからないが上空を見ると太陽が真上にきていた。

 この世界の法則はわからないが日没まであと数時間といったところか。

 なるべく早く見つけたいな、なんて話を年長組で話しているとノツダが叫ぶ。

  

「あった!石碑だ!!」


 ようやく見つけた。

 時間はかかったが敵には見つからなかったので気力体力共にまだまだ余裕がある。 

 

「ホントだ!ついに来たね。」


「よっしゃ!!スキルゲットだぜえ!!」


「それは向こうに行ってからって朝言ってたじゃん。」


「細かいことはいいんだよ!はぁ……最近なんかシイナもノエルみたいになってきたな。」


「聞こえてるよ。」


 3人の漫談を横目にクラマーと2人で石碑に触れると3人も急いで寄ってきた。

 全員揃って石碑に触れる。


「いざ七階層へ!!」


 まばゆい光に包まれる。

 

 いつも階層を登るたびに思うが不思議な感覚だ。

 柔らかく温かい何かに包まれるような。


 なんて思ってるとその感覚が消える。


 目を開けなくてもわかる。

 水の流れる音。

 草木の匂い。

 涼やかな風。

 正直ここまでは平原地帯と変わらない感想しか出ない。


 目を開ける。

 高原とは何もかもが違う。

 まず目につくのは大きな青々とした森。

 足を取られそうなほどの急流の川。

 見た事のない小型モンスター。 

 1番大きな違いはその視界の狭さと足場の悪さだろう。

 虫の声もうるさいくらいだ。


 



 


 《七階層〜峡谷地帯〜》


 



「ここが七階層。」


 全員が辺りを見渡している。

 警戒のためではなく単純な興味本位だ。

 初めて塔へ入った時を思い出す。

 新鮮さと異様さとが入り混じる。

  

「……高原と違いすぎる。」


 ノツダの漏らした言葉に示し合わせたようにみんなが頷く。


「とにかく視界が狭い。見えてる範囲が狭すぎる。これはきちんと索敵しないと不意遭遇が避けられないぞ……。」


「……うん。アヤトの言うとおり、これまで以上に気をつけて行こう。」


「クラマー…………アレ何?」


 シイナが何か見つけた。


 (……蛇?)


 クラマーの方を見るがクラマーもわからないらしい。

 

「あーあれはジャバラオオトカゲだね。毒はないって聞いたよ。」


「え?ノエルなんで詳しいの??」


「エドガワさんが料理に使えるモンスターのこと色々教えてくれるからね。」


 まじかよ。うちのパーティにおけるMVPって実はエドガワさんの豆知識説あるな。

 うちで食べてる料理のレシピってだいたい元はエドガワさんから教えてもらったモノらしいし。


 とかまぁふざけた事考えてる余裕はない。


「あの少し高いところへ行って周り見てくる。」


「うん。高原とは違うモンスターが生息してるみたいだから気をつけてね。」

  

 高原以上にさまざまな生物がいるのか、まだ俺が慣れてないだけなのかわからないが、とにかくニオイが多すぎて判別がつかないので大岩の上へ登って辺りを見渡す。


「どう?何か見える?」


 とクラマーが尋ねてくるが何も見えない。


「木と山肌、それと向こうにも大きな川が流れてる。」


 岩から降りずにそのまま見張を続ける。


 (これは想像以上にヤバいかも知れない。)


 とにかく五感に集中して索敵を試みるしかできることがない。

 大岩の下では全員が等間隔で森を監視している。


 頼むからこのまま何も起こらないでくれ。

 全員の背中からそんな願いが聞こえるようだ。

 あのノツダでさえ緊張感が見えてる。


 とにかく時間の進みが長く感じる。

 何も起きないし何もわからないまま石碑が光を灯すのを待ち続けた。


「きたっ!」


 その時は不意にきた。

 ノツダが最初に気づき叫ぶ。


 全員が石碑に近づく、俺も大岩から飛び降りて駆け寄る。


「じゃあ、……触るよ。」


 いつも通りクラマーが声をかけ全員が石碑に触れる。



 川から聞こえる水の音が消えた。

 虫の鳴き声も風の音も消えたようだ。

 完全な無音と暗闇に包まれる中声だけが響いた。


 [おめでとうございます。アナタにはボーナスが与えられます。] 


「」 


 (声が出ないっ!??)


 [返答は最後に受け付けます。まずは説明を、ボーナスには3種類あります。

 1.スキルを得る。

 2.アナタ自身に関する記憶を戻す

 3.この世界のルールを知る

 これらの中からボーナスを選んでください。]


 (ローガンたちに聞いていた通りだ。ここで1以外を選ぶと上にはまず行けない。大昔はそれで詰んだ人たちが山のようにいて、その人たちが広場や旧市街の発展に寄与したと聞いている。)


 聞くまでもなく決めていた答えを口にする


「1だ。スキルをくれ。」


 [1ですね。わかりました。それではまた。]


 声が聞こえなくなり暗闇が晴れる。

 環境音が全て戻る。

 周りを見ると全員が同じような表情をしていた。


 (全員同時に戻ったのか?)


「これで……完了……なのか?」


 なにが変わったかわからない。

 傍目には誰も何も起きていない。

 ただ感覚でわかる。

 瞬きや呼吸のように自然とできるのがわかる。


 こうして俺たちは念願のスキルを手に入れた。

 

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