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彼らの登らない古塔生活  作者: うめつきおちゃ
僕を守る君を守る人
38/50

ゴブリン ボスゴブリン


 言い訳をさせて欲しい。


「それ」に気づかなかったのは。

いや、気づけなかったのはツノウサギことジャッカロープがノツダから逃げ回っていて辺り一面が獣臭や川で転んだノツダの泥臭さで充満していたからなのだ。


 それとヤツらが上手く風下を移動してきたからなのもあるかもしれない。


 (だとしてもここまで接近されるなんて俺の責任としか言いようがないな。)


 状況を説明すると俺たちはゴブリンに囲まれていた。

 6匹のゴブリンに対する俺たち5人。

 しかしそのうちの1人であるノツダは先ほどまでジャッカロープと追いかけっこをしていて息を切らしている。


 どうしたものかと戸惑っていると


「ここじゃマズイ!ノエルを先頭に離脱して!僕とアヤトで殿(しんがり)を務める!」


「……しんが?」


「アヤト了解」「ノエル了解」「シイナも了解です!」


 クラマーの号令で4人が一斉に動く。


ノツダの首根っこを掴んで放り投げる。


「お前はシイナを守れ!お前らは俺らが守る!!」


「え?あ……わかった!!」


「撤退戦だ!!」


  ゴブリンにどもは疲労困憊(こんぱい)のノツダでも女性陣2人でもなく、指示を出すクラマーに狙いを定めたようだ。


「僕は防御に専念する……!」


「まかせろ!俺が端から削る!」


 ――――――――――


 大きな縁を描くように逃げ元の場所へ帰ってきた。


 どれくらい走ったか分からないがいつの間にか日が落ちかけていた。



 はーっはーっはーっ!


「全員……無事だね。」


 息も絶え絶えのクラマーが声をかける。

 みな疲労から声出さずに手やうめき声だけで返事をする。

 ……なんとか逃げ切った。

 

 (クソっ、2体しかヤれなかった……。もっと強ければ丸ごと倒せたのに……。)


 6体分の魔法石と素材が惜しい、がそれ以上に悔しい。俺だけじゃない全員がそんな表情を浮かべている。


 (数が多かったとはいえゴブリンに苦戦してるようじゃまだ上は目指せない、と誰かが言い出してもおかしくないな。)


 実際は誰もそんなことは言わないが空気はそうじゃない。


「くそッ!!オレの体力さえ残ってれば!スキルさえあればあんなザコっ!」


 悔しさに耐えかねてノツダが癇癪(かんしゃく)を起こすがノエルがそれを注意しない。 

それは疲労もあるがそれよりも同じ気持ちっていうのがあるのだろう。


「僕もウィンドウォードを軽々に使うべきじゃなかった……新しい魔法だからってあんな風に試し撃ちしなければ……。」


「わたしもっ……。」


 シイナが口を開きかけたのでそれを抑制し

「ゴブリンだ。まだ、追ってきてる。」

と小声で全員に伝える。


返り討ちにする体力は残っていない。

全員の顔を見ればそれくらいわかる。


「俺が一人で様子を見てくる。」


 そう言い残してその場を離れた。

 小声でクラマーが何か言っていたが聞こえなかった。


 ――――


 ゴブリンの臭いと同じでゴブリンの見た目をした、ゴブリンとは似ても似つかない体躯のモンスターが丘陵の下を通過していった。


 (……デカい!……あれがゴブリンのボスか。)


 たとえ準備が完璧でこちらの有利な条件がなにもかも揃っていたとしても今の俺たちには勝てない相手だろう。


 (アレがいるからサイクロプスが見つからなかったのか。)


 サイクロプスよりは一回りほど小さいだろうがボスゴブリンの周りには取り巻きもいた。


 ヤツらゴブリンの狡猾さを思えばその討伐難易度は恐らくサイクロプスより上に行くだろうな。


 やり過ごして見たものを仲間たちに告げると「闇に紛れて帰ろう。」

とクラマーが提案し、全員が賛同した。

そして夜の帳が下り暗がりの中逃げるように帰還した。


 こうして俺たちのサイクロプス討伐計画は頓挫した。


 ――――


「ってことだ。」 


 昨日までのあらましをローガンに伝える。


 昨日の今日で塔へ登れるほど俺たちは強いパーティじゃない。ということで今日は休みになった。

 

 俺が出る頃ノツダはまだ寝ていたようだし、シイナとノエルは気分転換に服やらを見に行ったらしい。

 それを教えてくれたクラマーは珍しく庭にあるノツダ用トレーニング人形(木製)で戦闘訓練を行っていた。


 そして俺はローガンに会いにきた。


「はーん、なるほどな。」


 軽くあくびをしながら目の前の大男はそう言った。


「で?俺になんだ?慰めて欲しいのか?」


「んなわけねぇだろ。もう知り合って半年近く経つんだわかるだろ。」


「だからこそわかんねぇ。お前はそういう戦闘に関することは自分でやりくりしてきたじゃねぇか。」


 (チッ!ローガンのくせになかなか確信をつきやがる。)


 今までローガンに頼ったことや質問をしたことは確かに少なからずあったが確かに今言われたように[戦闘に関したもの]はすべて1人で考えて解決してきた。


「その考え方をやめるほどの敗北感っつーか絶対勝てないっていうレベル差を思い知ったからここに来たんだよ。」


「はーーん。なるほどなぁ……まぁアレだな。ここで全部教えてもつまんねぇからヒントだけやるよ。」


 (出た。つまらないか面白いか。ここの奴らは長くいる奴ほどそういうのに拘るからめんどくさい。)


 しかし今それをいうとヘソを曲げてヒントすらもらえない可能性がある。

 ので黙って見つめる。


「ヒントはな、お前ら[そもそもが間違ってる]だな。」


「は?!」


 (何言ってるんだ?…………そもそもが間違ってる?なにがだ。)


「準備できたでー!」


「あっエドガワさん、おはようございます。」


「おっすー!アヤチじゃんオッツー!」


 エドガワさんは人の呼び名も挨拶も全部コロコロ変わる適当な人だ。

 だけど彼女の魔法は1度目にしただけなのにまだ脳裏にこびりついてる。

 あそこまで盤面を制圧できる魔法が使えたらどれだけ楽しいだろうか。


「おう、じゃあ俺らは塔行くからお前はもういいな!?」


「あ……あぁ、お邪魔したわ。エドガワさんもお世話様でした。」


「おう!またな」


「バイバーイ!」


 ――――


 家に戻るとクラマーとノツダが模擬戦を行っていた。

 コンコンと木剣の同士が当たる音が鈍く響く。


 ローガンの言ってたヒントの意味……


 ([そもそも]ってことは前提が違う、という意味だ。つまり話の頭に戻るべきだろう。)


 思考が纏まらないまま気づいたら寝ていて夕飯の時間になりノエルに起こされた。


 当然ながら答えはまだ出ていない。

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