スキルとツノウサギ
「スキルについて話しておいたほうが良さそうだね。」
夕食後、今だにノツダがうるさいので黙らせようとクラマーがそう言った。
「僕も別にスキルの全てを知ってるわけじゃないから何か知ってる人がいたら説明に付け足してくれるとありがたいな。」
と前置きをするとクラマーは話し始めた。
――――――
ぐあっっ!!!!
ノツダの脳みそがパンクしたのか叫びながら倒れる。
シイナが汚物か脚の多い昆虫でも見つけた時のような表情を向けている。
(嘘だろこの程度でリタイアするのかよ。)
「ごめん、難しく説明しすぎたかな。」
「いや、クラマーが謝るような事じゃないでしょ。」
「でもノツダが……」
「ノツダはこうやって賢くなっていくんだから大丈夫だよ。」
ノエルママはノツダに厳しい。
「あー全員の理解を共有するために掻い摘む感じになるが今までの話を纏めてみていいか?」
間違ってたら指摘してくれと言ってクラマーの方を見ると、クラマーはどうぞ。と促してくれた。
「ひとつ、スキルは7の倍数の階層にある入り口の石碑に触れると手に入る。
ふたつ、それは個人になんらかの力を付与するもの。
みっつ、それは選べないし使える回数に限りがある。
よっつ、その回数は人それぞれだが半日で回復する。ってのが今わかってるところか。」
「うん。僕もそうやって要約して説明できたらノツダをこんな風に傷つけなくてすんだのに……ごめんねノツダ。」
ノツダはまだ苦しんでる演技をやめないのでシイナからの好感度を下げ続けている。
「人によって違い、選べないってのがミソになりそうだね。」
とノエルが言った。
役割や仕事とスキルが噛み合うとは限らないってことだろう。
ノエルは事前にスキル保持者とそう言った話をしているだけあって話が早い。
「まぁつまるところ、手に入れなきゃ話にならないってことか。」
「うん、アヤトのいう通りだと思うよ。だから今日は早く寝て英気を養って明日から頑張ろう!」
というクラマーの発声で解散の運びとなった。
部屋へ戻ろうとするとシイナがきて「今度は無茶しちゃだめだよ。」と俺にだけ聞こえるように囁いてきた。
「記憶にないんだけどな、まぁ気をつけるよ。」
と言って部屋に戻り眠りについた。
――――
翌日、五階層から探索を始める。
しかし夕方になってもサイクロプスと思しき痕跡すら見つからなかった。
代わりにジャッカロープを数体見つけたのでこれを狩って帰宅する。
「あの一つ目オレ様にビビって隠れやがったな!!弱虫め!今度あったらこうだ!こうだ!」
帰宅早々、ノツダが庭でトレーニングをしながら叫んでる。
元気が有り余ってるのだろう。
夕飯の支度をしているノエルも包丁の音がいつもより幾分か大きい。
たぶんノツダと似たような理由だろう。
(うちの好戦派筆頭だからなあの2人は。)
非好戦派のクラマーと元好戦派のシイナは大人しくチェスに講じている。
かくいう俺もノエルと同様に夕飯の準備に力が入っていたようでノエルに「もっと優しく回して!」注意された。
――――
また翌日もサイクロプスは見つからないが代わりにジャッカロープを見かけた。
「ジャッカロープがコレだけ簡単に見つかるってことは近くに大型の敵性モンスターがいないって事かもな。」
「あ、たしかにそれは関係あるかもしれない。フフッアヤト、あれ見て。」
クラマーが笑いながら指を刺す方を見るとノツダが水浸しになりながらジャッカロープを追いかけ回していた。
「牧歌的だねぇ。」
「そうか?あのエグいツノがなかったからそうかもしれんが……。ウィンドウォードだっけ?あの風の檻を出す魔法使ってあげればすぐ終わるんじゃないのか?」
ちなみにノツダが素手で追いかけ回しているのには理由があり、それは広場の裏通りにある生産区画と呼ばれるところから来た依頼によるものだ。
依頼内容は[繁殖用のツノウサギを無傷で複数体捕獲すること(怪我は厳禁)]ということで今の状態になってる。
惨状になってるともいえる。
「ウィンドウォードは午前中で結構使ったからあんまり残ってないんだよね。残りの分は非常時に取っておきたいし。」
(さすがリーダーよく考えてる。こうやってノツダは素手での立ち回りを考えるようになり依頼も達成、魔法も温存。いい事だらけだな。)
なんて考えていると
「しゃああーーー!!ようやく捕まえた!!おら!!」
ノツダが吠える。
「こら!むやみやたらに大声出さないの、ナニに聴こえるかわからないんだからダメだって言ってるでしょ。」
シイナと2人で食べれる野草を摘んでいたノエルがノツダを叱った。
「いつまでもこんな日が続けばいいのに。」
クラマーが少し切ない背中を向けながらそう言った。
(気持ちはわかる。わかるけど物足りないと思ってしまう俺たちを許してくれ。)
そんなこと思っていると[捕獲用固定魔法石]とかいうのに入れられたジャッカロープと目があった。
「悪いな、生きるために必要なんだ。」
そんなことを呟く。
まだ命のやり取りの場の真っ只中にいるのも忘れて。




