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彼らの登らない古塔生活  作者: うめつきおちゃ
僕を守る君を守る人
36/50

討伐組とこれからの話

「おい!そこの、時期ハズレのルーキー!ちょっと待ってくれないか。」


買い出しを済ませた帰り道に声を掛けられた。

  

(……誰だ?)


 見覚えのない女性だ。

 この感じはたぶん知り合いなんだろう。

 とりあえず合わせておく。

 

「あー……どうもです。……お疲れっす。」

 

「……さては、私のことわかってないな?」


 すぐバレた。

 

「ははっ、いや、わかってない訳じゃないんですけどね。はい、今急いでるんすよね。はい。」


「チッ!まぁいい。普段と格好が違うからわからなくても仕方ないか。」


「すんません、わかんないっす。」


「最初からそう言えば……まあいい、[討伐組ベルセルク]のエスメラルダだ。何度か会ったことあるだろ。」


 (いやベルセルクってアンタら普段顔半分を布で隠してるヤツらじゃねーか!!そんなのわかるわけがないだろ!)


 と言いたかったが辞めておく。

 なぜなら相手はウチみたいなルーキーパーティとは違い大手だからだ。


「あー、ベルセルクの……すんません、いっつもほら顔見えないんで。」


「もういいよ、それよりクラマーは元気か?」


「え?クラマー?ウチのリーダーとなんか知り合いだったりするんスか?」


「なんだ、聞いてないのか。ふーん、じゃあまぁそのうち本人から話すだろう。よろしく言っといてくれ。それじゃ。」


 そう言ってエスメラルダは踵を返した。



 相変わらずここの人間は言いたいことだけ言って消えやがる。



 (まぁいいや、クラマーに聞けばわかるだろう。あの感じだとたぶん……前のパーティ関係か。)



 ――――


「クラマー、エスメラルダってわかる?ちょっと高圧的で背の高い前衛者っぽい女の人なんだけど。」

 

「うん、もちろん。あれ?アヤトってエスメラルダと交流あったっけ?」


「いや、買い出しの帰りにちょっとだけ話しかけられたよ。


「そうなんだ、どんな話したの?」


「あぁ、よろしく言っといてって言われたよ。それ以外はクラマーが話すだろうって。チェック。」


 シイナとノエルが夕食を作ってる間クラマーとチェスをしながらさっき起きたことを教えた。


 ちなみにチェスは最近、流行り出して今ではバックギャモンに次ぐ人気の娯楽としてこの街で流行っていてウチのパーティにもその熱が流れてきている。


「んー……エスメラルダらしいなぁ。」


「彼女は、以前に聞いた前のパーティメンバーだったりするのか?チェックメイト。」


「あっ、……うん。そうだよ。懐かしいな。元気そうだった?」


バックギャモンと違いまだクラマーのチェスの腕は中の下ってところか。まだ勝てる。


「まぁ元気そうだったよ。正直そんな話してないからわからんけど。」


「じゃあきっと平気だね。よし、ご飯にしよう。」


 チェスを片付けるとノツダがトレーニングを終えたのかつまみ食いに来てそれを阻止するノエルと争っていた。


 

 ――――――


「うーん。微妙に硬さが残ってるなぁ。もうちょっと長く煮込んだ方が良かったかも。ドードー鳥の肉は扱いが難しいな。」


 ノエルは最近市場に出回り出したドードー鳥を使った料理に凝っていてキッチンに入り浸っている。

 

それを自発的に手伝っているシイナと2人並ぶ姿は歳の離れた姉妹のようだ。

 

「肉は肉だろ!それよりもスキルだよ!スキル!!オレらも取りにいこうぜスキル!!」


 (まぁコイツはそうなるわな。)


 ノツダは(オレを置いて)帰ってきてからずっとスキルの話をしているらしい。


 普段なら他の3人同様呆れた顔をするが今回ばかりはその気持ちがわかる。


「まぁ俺はノツダの気持ちわかるけどな。」


 (あっ……) 思わず口をついて出てしまった。


「だよな!!アヤトもそう思うよな!スキル欲しいよな!!!」


「まぁ……さすがにノツダほどじゃないけどスキルのことは気になるよ。正直、最近は停滞気味っていうか。悪いって訳じゃないけど頭打ちって感じだろ。」


「アタマウチ?」


 ノツダ発信の話題だがついて来れなそうだ。

この際無視する。

 すまんな。


「あれ以来サイクロプスも見てないし。ほぼ毎日野菜やら果物の採集か川魚を獲るだけで、たまの戦闘はジャッカロープ(ツノウサギ)かゴブリンがニ、三体。みんなだってこれで良いのかって思わなくもないだろ。」


 それが悪いわけではないがコレで良いとも思えない。つまらない訳じゃないが心の底に燃えたがってる部分がある気がする。


「じゃあ七階層へ挑むってこと?」


 クラマーから少し冷たい雰囲気が漂う。

 以前の、俺がパーティに入りたての頃ほどではないが、彼はいまだにこの手の話題には消極的だ。

 

過去の辛い経験からそうなったのは重々承知しているがいまや、ウチのパーティはクラマー以外はその大小はあれど4人とも好戦的な部類に入るようになったのだ。


もちろんリーダーとして歯止めをかけなきゃいけないのもわかる。

しかしその熱はクラマー1人では到底押さえつけられないものになっている。


 その証拠にシイナもこの話に乗り気なようで目が合うと


「明日すぐにっていうのは怖いけどちゃんと準備して、いつか行ってみたいなって思う。スキルも気になるし。」


 と言ってノエルに目配せする。


「まぁ私もエドガワさんからスキルの話は何回か聞いたことがあって……気にならないとは言えないかな。ごめんクラマー。」


 エドガワさんとは[攻略班]を名乗っているパーティの人でノエルの友人で料理の師匠だ。


「4人とも行きたいのか……じゃあ……」


 クラマーはそう辛そうに呟いた。

 

 まずいな、このまま行く流れになっても余り気持ちのいいものにならなそうだ。

もう少し全員が納得した状態で挑みたい。

そう思ったので口を挟む。


「ちょっといいか。たぶん今のまま[4人が行きたがってる]から行ったとしても余り気持ちのいい事にならなそうだし、なにか、『自分たちで条件を設定する』ってのはどうだろう、コレができたら七階層へ行っても平気だろうからコレができるまでは辞めておこう。みたいな。」


「えー、めんどくせぇよ、そんなの。俺らだってもう半年もこうやって冒険してきたんだしそんなの今更なくたって余裕だろ!」

 

「いや、ノツダは少し静かにして。なるほど……条件か、良いかもね。」


 ノエルが空気を読んでくれた。


 えーすぐ行こうぜなんて言ってるノツダとは年季が違う。


 目標……?と余りピンときてないシイナに、


「サイクロプスとかね。」


 と言うと眉間に皺を寄せた。

 嫌な思い出しかないから仕方ない。


 かくいう俺もあの日の事は思い出すだけで落ち込む。なぜなら殆ど思い出せないからだ。俺個人の話で言えば完全に大敗した相手だ。 


「サイクロプスか……確かにいつかリベンジじゃないけど戦う必要はあるかもしれないし、試金石になるね。」


 クラマーもあの日のことが心残りのようだ。

 それは俺と同じく彼もサイクロプスに完敗した仲間だからだろう。


 あの日唯一戦闘において活躍したノツダは何やら調子のいいことを言いそうな雰囲気で必死に口の中の食物と戦っている。


「みんなもそれでいいよな。」


 ノツダが食べ終える前に俺は全員に問いかける。

 4人とも問題なさそうだ。


「じゃあ決まりだね。明日以降サイクロプス討伐を目標にしていく。倒せたら七階層へいってルーキーパーティ卒業だ。」


 全員が納得できる妥当なラインだろう。


 問題があるとすれば相手もモンスターといえ生き物なのでこちらの想定した通りに動いてくれるとは限らないということを失念していたことくらいかな。


どのくらいの、文章量だと読みやすいんでしょうかね。

面白ければ文章が上手ければ多くても問題ないんでしょうけど。


とにかくここまで読んでくれた方にありがとうございますと言いたいです!

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