追跡と合流
足場が緩いので何度も転ぶ。
シイナも転んでいるのか距離は離されていないようだ。
いや、少し離されている。
何もない平坦な道ならありえないことが今は起きている。
足を取られ顔をあげる、もう後ろ姿は見えない。
痕跡を探そう。
あれだけ全力で走ったんだ辺りには大量の痕跡が残っているはずだ。
追跡の素人でも容易なはず。
どのくらいの時間が経ったかわからない。
太陽がいつの間にか沈みかけている。
どうにも追跡の大変さをわかっていなかったらしい。
ところどころで痕跡のようなものを見つけるので完全に見失ったらわけではなさそうだ。
ここまでの道中、ゴブリンが3匹ほど雨宿りしてるのを見かけたがお互いに見つからずに済んだらしい。
不幸中の幸いだろう。
雨はまだ止んでいない。
もうあと少しもしたら完全に日差しが遮られ辺りは闇に包まれるだろう。
もうなりふり構っている余裕はなさそうだ。
「シイナーーー!」
大声で呼びかける。
返事はない。
少し移動し呼びかける。
そんなことを何度か繰り返すと視界の端で何かが弾けるのが見えた。
暗闇に耐えかねたシイナが魔法を使った痕跡だ。
確証はないがもし違ったとしてもどうせ他に行くあてもないのでそこへ駆け寄る。
「シイナ!」
古木のウロに縮こまってる少女を見つけるやいな叫んでしまう。
ビクッとしたシイナがコチラを涙目で見つめる。
なんて声をかけるべきか、すぐに思いつけない自分がイヤになる。
シイナもきっと自分がイヤになったから逃げたのだろう。
単純にノツダに嫌気がさした可能性も大いにあるが。
「帰ろう。上手く言えなくて悪いんだけどさ、ノツダはバカだしイヤなことも言うけど、とりあえず今は帰ろう。」
しゃがみ込み手を差し伸べる。
頼む、手を取ってくれ。
シイナは逡巡している。
バキッ、
と背後から音がする。
後ろを振り返りナイフを取り出す。
迎撃態勢をとる。
ニタニタと汚らしい笑顔を向けるゴブリン達がこちらに近づいてきていた。
つけられていたようだ。
急いでシイナに指示を出す。
「シイナ逃げろ、新魔法を上空に飛ばしながらここから離れろ!クラマーたちならきっと見つけてくれるはずだ!」
シイナが何か言ったがそちらに意識を割く余裕はないので無視する。
1対3か、タイマンですら荷が重かった俺にこの場を切り抜けられるとは思えないが
「やるしかない」
自分で自分に言い聞かせる。
ゴブリンが一斉に飛び込んでくる。
「フラッシュバン!!」
ボンッ!
光がゴブリンと俺の間で炸裂した。
前にこの魔法を見たときは昼間だったので大した効果のない魔法だとタカをくくっていたが暗闇の中だとここまで脅威なのか。
何も見えない。
ゴブリンたちも同じように目が潰れたのか思い思いに叫んでいる。
「ごめんなさい!」
シイナの声が聞こえる。
「気にしなくていいから逃げろ!」
視力が戻らないから声のする方に向けて叫ぶ。
「いやです!もう、足手纏いなんて言われたくないんです!」
シイナの叫び声をはじめて聞いた。
叫び慣れてないのか少し声が上擦っていた。
「ライトボォォール!」
ドンっという音とゴブリンの呻き声が聞こえた。
何が起きたのかまだ見えない。
うわぁぁぁぁぁぁー。
シイナの叫び声が遠ざかる。
少しづつ視力が戻ってきた。
最後にシイナの声がした方を見ると2匹のゴブリンがそちら側へ動き出していた。
片方のゴブリンに飛びつき首筋にナイフを突き立てて倒すともう1匹が踵を返してコチラに襲いかかってきた。
振り下ろされた棍棒に防御した両腕が潰される。
折れた、もしくはヒビが入った。
激痛で声が出ない。
逃げるように声をかけることも出来ない。
負ける。頭の中が真っ白になる。
ゴンっ!
と音がしてゴブリンが倒れる。
倒れたゴブリンの背後から棍棒を振り下ろしたシイナの姿が現れる。
「とりあえずこの腕治してもらってもよろしいでしょうか。」
語尾に音符でも付けて喋り出しそうなくらいご機嫌なシイナに回復魔法を懇願した。
「もちろん♪」
笑顔が眩しい。




