帰宅、そしてまた団らん
見慣れた広場に帰ると夕方になっていた。
体感だとあっという間だったのにだいぶ時間が経っていたらしい。
ローガンたちは皆別々の場所に住んでいるようで即時解散となったのでとりあえずいつも行く買取屋に[イエティの右腕]を預けて帰路に着く。
解体屋がなんか感謝していたがもう聞こえない距離だった。
宿に帰るとドっと疲れが出て玄関から入ってすぐのところで座り込む。
慣れない雪山を歩いたり走ったり、帰り道で軽く迷ったりしたので身体中が悲鳴を上げている。
「おかえりーどうだった?って聞くまでもないか。」
クラマーがこちらの表情をみて色々と察してくれた。
ノエルがコートを拾って「こんなの持ってたっけ?」と言いながら洗濯場へ運んでくれた。
シイナはわざわざお茶を淹れてくれているようだ。
なんと仲間に恵まれたもんだ。としみじみしていると
「お土産はなんもないの!?!」
ノツダが2階から大声を上げる。
「んー、解体屋に預けてきたよ。」
「ちげーよ!魔法石だよ魔法石!」
「ノツダ、アヤトは疲れてるんだからそっとしてあげなよ。」
荒ぶるお子さまを我らがリーダーが制してくれる。
いつも助かってますほんとに。
「はい、お茶です。」
シイナがお茶をくれた。
ありがとうと礼を言い口につけるがはちゃめちゃに熱いので「ンーンーっ!」としかめ面になる。
「なんだその顔ー!!」
ギャハハハハ
どうやらノツダは顔芸がお好きらしい。
ごっごめんなさい!
と謝るシイナに、大丈夫だよと伝える。
ポケットの中から小さな魔法石を出して謝るシイナに渡す。
「これ、初級の光魔法だって。俺は魔法のこと全然わからないんだけどエドガワさんがシイナなら適正あるからってくれたんだ。」
「おーー!やっぱあったじゃん魔法石!」
なぜかノツダが嬉しそうにしている。
シイナは両手の平で魔法石を持ってマジマジと見ている。
「どう?適正ありそう?」
クラマーが尋ねる。
クラマーとシイナはウチのパーティの魔法担当だ。
門外漢の俺がいても仕事はなさそうなのでコートの洗濯をしようと立ち上がる。
ピキピキっ!
グエッ!
変な声が出た。
その場の全員がこちらを見る。
恥ずかしい。
座っている時は平気だったがほんの少し動いただけで身体が思い出したように悲鳴を上げたのだ。
「回復魔法使いますか?」
シイナに聞かれる。
「いや、やめとく。なんか筋肉痛に回復魔法はあまり効果がないらしいし、それをすると筋力が付かないから強くなれないってローガンに言われた。」
と今日学んだことを全員に聞こえるように伝える。
「え?そうなの?知らなかったそんなこと。」
クラマーは驚いてる、いやクラマー以外も似たり寄ったりな表情を浮かべてる。
そういうことを周知させる機関があればありがたいんだけどな。
学校的な。
無理やり這うように洗濯場に向かおうとするとノエルが「私がやっとくから休んでなよ。」と言ってくれた。
ノエルさんマジでママ。
「貸1ね。」
こちらに気負わせない優しさって事にしておこう。
「それよりシイナ!その魔法石なんの魔法なんだよ!」
ノツダが話題を戻す。
「光魔法だけど、ちょっと毛色が違うかも。上手く説明出来ないけど。……小さな光の球を動かせるみたい。」
魔法適性のある人間が魔法石に触れるとそれがどんな魔法を秘めたものなのか感覚的にわかるらしい。
それがなにもわからないのが俺たちのような魔法適性の無い人間だ。
つまり今シイナの言うことがよくわからないのはコチラ側の問題だといえる。
「いや、全然わからん。何言ってんだお前。」
ノツダの全力ストレートがシイナを襲う。
「だって!難しいんだもん!」
珍しいシイナが吠えた。
「ナッ!」ンンンー
何か追撃しようとしたノツダの口をクラマーが抑えつける。
さすがだよ。我らがリーダー。
洗濯を終えたノエルがシイナに近づくとシイナもソレに気づきノエルの後ろに隠れる。
前にも見た光景だ。
「イメージでわかるだけだから口にして説明するのは難しいんだよ。ね、シイナ?」
ノツダを抱き抱えつつシイナのフォローをするクラマーの優しさが光る。
うんうんっと何度もノエルの陰に隠れたシイナが頷く。
ノエルはシイナの頭をポンポンしてる。
ノツダは理解したのか諦めたようにクラマーに抱えられている。
俺は疲労が限界にきて床に突っ伏している。
地面が冷たくて気持ちがいい。




