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彼らの登らない古塔生活  作者: うめつきおちゃ
そびえる塔、群がる人たち
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髭のオッサン

「俺は誰なんだ。」


無意識のうちに自らの口から出た言葉を後悔する。


ソレを言葉に出したことで足場を失ったような錯覚に陥った。



「アナタの個体名は【アヤト】です。」



無機質な声でそう告げられた。


(アヤト、それが俺の名前‥。

それを言われたところで何も思い出せない。

それが自分のものだという記憶も戻らない。



「ほかに質問がなければ終了します。」



相も変らぬ無機質さに今は逆に落ち着くのだから不思議だ。


自分自身のことを聞いたところでこちら側にはそれを確かめる方法がない。


(なら聞くべきは自身の事ではなく、この世界のことだろう。)



「アンタ、さっき確か、勝利って言葉を使ってたよな。つまり勝者は何かもらえるのか?それと勝利があるなら敗北もあるのか?」



思いついた質問を投げかける。この世界のことはそこいらの奴らに聞けばすむだろう。


ずっと遠巻きにこちらの様子を伺って楽しそうにしている奴らに。


「勝利者には輝かしい明日をプレゼントさせていただきます。」


・・・はあ?????


こいつ何をふざけてやがる!?


「おい待て、そんな抽象的な返事が…「以上でよろしいですね。それでは失礼いたします。」



こちらの言葉を遮るように別れの言葉を被せるとソイツは消えていった。


当たり前のように後半の質問無視しやがって。


聞きたいこともっとあったのに。なんて途方に暮れているといつの間にか遠巻きに見ていたはずのギャラリーが近づいてきていた。


「お前今説明受けたってことは最近こっちに来たのか?」

「そら何日も彷徨うことはできねぇだろ。下らねぇこと聞くな。」

「おいお前、身長いくつだ、体力に自信あるならウチで荷物持ちから始めねぇか、三食宿付きだぞ。」

「命のやり取りに興味ねぇか?ウチに来たら毎日生きてるって実感できるぞ。」


みんな好き勝手な言葉をぶつけてくる。

言葉よりもまるで商品を見定めるようなその鋭い目つきが嫌な気分にさせてくる。


内容的になにがしかのスカウトなのだろうが怪しさしか感じない。


「おいおい、お前らちょっと通してくれー。」なんて声が人だかりの向こう側から聞こえるとその場にいた人間がみな一様に場所を開けた。


そうして出来た人だかりの割れ目の先に赤毛で髭面の大男が立っていた。


ガハハハッおめぇら、ずいぶん行儀いいじゃねぇか。なんて言いながらこちらに向かって大男が歩いてくる。


「よう兄ちゃん、オレはジャック・ローガンってんだ。訳わかんねぇ事の連続で疲れてるだろう所悪いんだがよ、二人きりで話がしてぇ。」


(デカい、周りと比べても頭2つは抜けてる。いざとなった時俺はコイツに勝てるか‥?)


想像通りすぎる快活で豪快なその男の言葉に興味が引かれたので素直に答える。


「俺はアヤト、話をするのは構わないが話す内容がない。信じられんかもしれんが俺には記憶がどうやらないらしいんだ。」


「ガハハハッ!安心せぇ、ここにいる奴らも来たときはみんなそうだった。なぁお前ら。」



そういって辺りを見渡すとみんな頷いたり懐かしいなぁなんて呟いてる。


(ここにいる全員に記憶がない?そんなことありえるのか?‥)


ローガンの言葉の真意を探ろうと訝しんでいるとローガンと名乗る男が


「とりあえずここにいてもしょうがねぇし場所かえるか。ついてこい。紹介したい奴らと場所がある。お前の寝床に案内するぜ。」


と言って歩き始めた。

行く当てもないのでついていくことにする。

まぁいざとなれば逃げれるだろう。


どこに逃げればいいのかは知らんが。

2024/08/08 修正/変更

読みやすく、見やすく、わかりやすく書き換えたつもりです。

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