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彼らの登らない古塔生活  作者: うめつきおちゃ
そびえる塔、群がる人たち
10/50

みんなで一緒に帰ろうか。

ゴブリンに後ろから飛び乗る。


体格差があるので崩れるように倒れたがすぐ立ち上がる。

起きあがろうとしているゴブリンに蹴りを入れる。


ドンッドンッ!



思っていた以上に先ほどのナイフが良いところに入っていたようで

ゴブリンの腹部からは大量の血のようなものが流れ出ていた。



(だから追いつけたのか。)


動かなくなったそれに気づくまで何発蹴ったかわからない、ふと冷静になり


「これハタからみたら相当やばい絵面だろ‥」と小さく呟いた。


ドッと疲れが出てその場に座り込む。


「ヤバい事してる自覚あったんだ。」


隠れていたであろうノエルが出てきてそう言った。


「助かったよ。ありがとう。」とも言っていた気がする。


死んでる?と聞かれたから、わからない。と答えた。息が整うまで喋れる気がしない。



ふーー‥単身じゃ勝てなかった。

本物の命のやり取りの大変さに気づいた。


なにが少し時間稼ぎができたら上々だ、そんなこと全て忘れて全力を出して倒しにいったのにヤツはしぶとかった。


(そりゃそうか、向こうも死にたくないもんな。)




しばらくしてクラマー達が合流する。

3人は驚いていた。


ノエルが細かな状況を説明したらノツダはソロ討伐じゃないのか、と呟き安堵の表情を浮かべていた。


シイナはまるでモンスターを見るような怯えた目でこちらを見ていた。


クラマーは‥多分怒ってる。


「クラマー、いやみんな、悪かった。独断専行して危険に晒したこと、謝るよ」と頭を下げる。


ノツダは我関せずといった様子でゴブリンの死骸を覗きに行った。


「違うんだよ。今、説明したけどアヤトは私が危険にならないように自らを囮にするために出ていったんだ。」とノエルが庇ってくれる。


「でも元々は俺が油断して声を出したから警戒状態に、」

「そうじゃないだろ。」



と言いかけてるおれに被せるようにクラマーが口を開いた。


「なんで自分の命を大切に出来ないんだ!出会って1日も経ってないけど僕には君も仲間なんだよ。失いたくないんだよ。」


驚いた。こんなふうに怒るだなんて意外だった。

うっすら涙を浮かべたその姿はまるで今までの大人びた彼とはかけ離れた少年のようだった。


「‥‥ゴメン、もっと楽だと思った。相手の膂力を見誤った。モンスターと人間を同等だと都合よく解釈してた。命を捨てるつもりはなかった、本当だ。でもゴメン、気をつけるよ。」


再度謝る。けど多分、今すぐに許してもらえるもんでもないだろう。


「アヤト、なぁ、ちょっといいか。」


ノツダに呼ばれた。

クラマーの近くにいるのは気まずいのでそちらに向かう。


「俺も聞いた話なんだけどな。」


ノツダが話し始める。


「ゴブリンとかの二足歩行のモンスターには顎と胸を繋いだ三角形の真ん中に魔法石が埋まってんだってよ。それがあるから喉とか胸とかは弱点になんねぇんだって。脇腹狙って正解だったな。」


「……先に教えてくれるともっと助かるわ。」


もしかしたらコイツなりに怒られて落ち込んでいる俺を慰めてるのかと思うと少しだけ、可愛げがあるな。


気のせいかもしれんが。


「よし!解体してみようぜ!魔法石ほしいし!」


とノツダが座り込みナイフを取り出す。

やっぱコイツあんま考えてないだけかもしれん。


解体作業か、二足歩行相手に行うのはなかなかクるものがあるな。


なんて考えているとナイフを渡された。「ホレ。」

……お前がやれってことか。


ゴブリンの胸元にナイフを突き刺そうとすると


「たぶん周りから削るべきだ。」


ノエルがそう言って近づいてきた。


言い出しっぺのクセに直視できずに傍目にコチラをみているノツダと違いノエルは肝が据わっているらしい。


言われたとおり少し腹の辺りにナイフを入れる。


ザクっ、確かに入った。


(骨の造りは人間と近いな、二足歩行だと似るのかな。)


「さっきはありがとう。あそこで射ってくれなかったらたぶん負けてた。」


とノエルに告げると訝しげな表情を浮かべたので「2発目の方ね。」と付け加えると納得したようだ。


「つまり中てるだけが仕事じゃないって訳よ。」


ノエルは自慢げにそう言った。



ーーーー



その後3人であーでもないこーでもないと試行錯誤しているとノツダが叫んだ。


「これだ!これ間違いない!うおーーっ!」


バサバサバサッ!!、


対岸にいた小鳥達が逃げ出した。


「騒ぐな!」とノエルに怒られているノツダの手には片手に収まる程度の大きさの石が握られていた。


「これが魔法石か。」



クラマーはまだ拗ねてる。

いや、怒っているので離れたところでこちらの様子を伺っていたシイナを呼んだ。


何事かと怪訝そうな顔で寄ってきたシイナにノツダが魔法石を渡した。


魔法の適性がない俺やノツダやノエルではこの魔法石が「固有魔法石」でない事しかわからないのでシイナに鑑定を頼んだのだ。


「…凄いっ!これ凄いです!」


シイナが石を持って目を瞑り息を軽く整えた後そう言った。


その言葉を聞いたクラマーが駆け寄る。


ノツダとノエルは顔を見合わせて喜んでいる。俺はよくわからないのでとりあえず空気を読んで「おーっ、」とか言って拍手した。



「ちょっと貸してくれる?」


クラマーがシイナから石を受け取ると同じように目を瞑る。



「多分中級クラスの魔法石だ。属性は土。僕らは使えないね。」


と言ったので俺は少しがっかりしたが他のメンバーは変わらず喜んでいる。


「使えないのか…」


と呟くとノエルが「使えないけど売れば良い値段になるよ!中級の魔法石は売ったことないけど初級ですら3日分の食料は余裕で買い貯められるんだもん!」


と教えてくれた。


(ずいぶんと運が良かったみたいだな。)


「アヤト、ありがとう。」クラマーが言った。


「もう怒ってない?」言って後悔した。言うべきじゃなかった。でもクラマーは笑ってた。


その笑顔を見て自分の行動を後悔した。


「反省も後悔もするけど多分、俺は同じようなことがあったらまた同じ事を繰り返す。‥


だからもし受け入れられないなら俺は出て行くよ。」



水を差すようなことを、言っているのはわかっているが言ってしまった。


みんなの笑顔が消えるのを感じる。


「じゃあ私は強くなるよ。守られる側じゃなくて一緒に戦えるように。」


ノエルが立ち上がりそう言った。


「そうだね。僕らみんな強くなる必要があるね。」


クラマーが魔法石をしまいながらみんなに向けて言った。

シイナは少し嫌そうな表情を浮かべる。


「じゃあ飯にしようぜ。そろそろ帰れるだろ。それとも帰って向こうで食べるか?」


ノツダのマイペースさにみんなが少し笑った。


来た時に触れた石碑がこちら側にもあっていくらか時間が経つと光だすそうだ。


光ってない時はなにも起きないが光ってからまた触れると元の古塔入り口に帰れるらしい。


シイナの持つ回復魔法属性の魔法石の力で脚の傷を癒してもらった。


あくまでも初級の魔法石なので治りが早くなる程度らしいが何もしないよりはずっと楽になった。魔法って凄い。


持ち込んだ軽食をとり、後片付けを済ましさぁ帰ろうかって時になって、ふと気になっていたことが口をついた。


「あー、アレなんだけど、その、ゴブリンの死骸はどうするんだ?持って帰って食べるのか?」


「「「「ええっ?!」」」」


あぁこのリアクション、またおかしな事を言ったらしい。おれなんかやっちゃいましただ。


「人型はヤバいだろ」「いやでもこないだアンタ謎肉のなんか食べてたじゃない」「うわっもしかしてアレってそういうこと?!」「だからやめなよっていったじゃん!」



ノツダとノエルが騒ぎ出す。


「気持ち悪い…」

シイナは顔が青ざめている、体調が悪そうだ。


「二足歩行のモンスターはちょっと…ね。」クラマーが苦笑いする。


言わなきゃ良かった。でもさ仕方ないじゃん。

なんも知らないし。


全員で歩き始める。

少ししてから静寂を嫌ったのか。

あーそう言えば、なんてクラマーが気を利かせて話題をふる。


「よく考えたらさ、アヤトが匂いに気づいたから良かったけど気づかなかったら僕たちはゴブリンと川原でばったりってなってたんだよね。良かったよ。アヤトがウチに入ってくれて。」


改めてそんなことを言われて恥ずかしくなる。


「5人いるんだから余裕だったろ。」

「いや相手が何かわからないから2人で斥候に出たんじゃん。」

ノツダとノエルがそんなことを言ってる。


ーーーー


もと来た道を戻り帰路へつく。

石碑まであと半分というところで


不意に違和感を覚える。


何か忘れていた。



戻らなくちゃならない。



なぜかそんな感覚が全身を駆け巡る。


「先に石碑で待っててくれ。」


そう言ってゴブリンの死体の元へ走る。


「忘れ物かよ、なんも持ってきてないだろ。」


なんてノツダが笑うのが背中でわかる。


(なんで気づかなかったんだ!)


わからない事ばかりだが今1番わからないのはあの[最初の匂い]の出どころだ。


ゴブリンは違った。

ゴブリンとは違う臭いだった。



見晴らしのいい所で遠巻きにさっきの死骸を確認する


するとその周りにはその仲間と思しき数匹のゴブリンの姿が見えた。


(やはり仲間がいたか。)


ので岩場に隠れて様子を見る。


多分、あのゴブリンはなんらかの獲物を追いかけて散り散りになったであろう所を「俺たちに」襲われたのだろう。


ゴブリンの一匹が俺たちの残した痕跡に気づき仲間を集める。


クソっ、ゴブリンのニオイも生態もこっちはなんら知ったこっちゃないんだ。それでもわかる事もある。

アイツらは仲間がヤラれて黙って逃げる面構えじゃない。


(あのまま気づかなかったら後ろから奇襲をかけられてた。運が悪ければ‥誰かヤラれてしまっていたかもしれない。)



そして選択肢が生まれた。


一つ目はこのまま隠れてやり過ごす。

(ダメだ、クラマーたちが危ない。)


二つ目は背中を向けて急いでこの場を離れる。

(やつらの全速力がどれ位の速さがわからないがおそらくコレもダメだ。)


三つ目は…俺が今単独でコイツらを引き止める。



カッコつける訳じゃないがコレが1番いいだろうな。

被害を最小限に抑えつつ。

あいつらは多分、逃げられるだろう。

できれば1体、欲張るなら2体道連れにできれば、あとはあいつらでどうにかしてくれ。


冷静になれば他の選択肢に気づけるかもしれないが今の自分にはコレが精一杯だ。


見えてるだけでゴブリンは3匹。

さっきとは違う。


初戦は終えた。

もうペース配分も間合いの取り方も命のやり取りの難しさもわかる。


勝とうとしなければ多分全員が石碑のところまで行く分くらいの時間は稼げるはずだ。



そんなことをごちゃごちゃ考えてる間にゴブリンが動き始めている、すぐ近くまで来ていた、やるしかない。


(やるしかない!)


自分に言い聞かせるようにそう考えた瞬間



「光魔法行きます!フラッシュバンっ!!!!!」








え?と思うと同時に目の前で光の爆発が起きた。

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