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星喰いのキャンプ

作者: 白川怜夜

 星間ガスの寝床から這い出て、サリアはあくびを一つした。

 少し顔を上げれば、相方のローリーが大きめの恒星の上に鍋を置いて、スープを作っている。食欲をそそるいいにおいに、サリアは口の中でよだれが出てくるのを感じながら、火の元に近づいた。


「お、もう起きたのか。完成までまだちょっとかかるぞ」

 ローリーが顎に生えた髭をじょりじょり触りながら言う。鍋の中は、一口大に切られた恒星や、ふわふわした食感のガス惑星が、ぶつかりあって爆発したり、互いの重力でひっぱりあったりしている。


「混ぜさせて」

 サリアはブロンドのロングヘアを後ろで一つに結ぶと、ローリーからおたまをひったくってかきまわした。おたまの動きに合わせて、鍋の中はうねり、銀河をを形成して回る。

「機嫌いいな」

「あ、わかる? わたし結構鍋の中みるの好きなのよね」


 宇宙のいたるところにある星々だけれど、鍋の中で一か所に集められると、全部の光がかたまりのように目に飛び込んで、中々綺麗だとサリアは思う。


「あ、そうだローリー。わたし未来から来てるから」

「そうなのか? 今、何回目なんだ」

「七十回目」

「多いな」


 ローリーが呆れたように笑う。

 


 世界を構成する原子たちには、全てに進行方向というのが定められている。それは二つに一つ。未来という正の方向に進むか、過去という負の方向に進むか。

 過去に進む原子たちで身体を満たせば、二人はいつだって過去にいける。未来に進みたいときは、逆もしかり。

 四次元に住まう二人に、時間の流れというのは些末なことだった。


「じゃあ俺は、もう七十回もスープをつくってるわけだ。俺はいいけど、サリアは飽きないのか?」

「まさか! こんないいキャンプ、まだまだ飽きないわよ」

 三百六十度、この辺りには澄んだダークマターが遍く存在している。汚染された都会宇宙とはあまりにも違う。美味しい星々が暗闇の宇宙の中、小さく光る。この辺境宇宙の美しさを、飽きるなというほうが難しいだろう。


「あ、そうだサリア。起きたついでにドリンクつくってくれ」

「サイダーでいい?」

「スープにサイダー? あうか?」

「ここらへんにいい彗星があるのよ。冷たくて美味しかった」

 

 丁度お目当ての彗星が通りがかり、サリアは手のひら大のそれをぱしりと捕まえると、半分に割って、一つずつグラスに入れた。彗星は徐々に溶けながら、グラスの中で暴れてパチンパチンと音を鳴らす。彗星サイダーの出来上がりだ。


 ローリーの方も準備がおわったようで、器にスープをよそってくれる。

「それじゃあ、いただきます」

 星屑のスープは、色んな具材が混ざった田舎風の味付けだ。ほっこりと、まるで実家のような優しい味の中に、ほんの少しピリリとした辛みが食欲を増進させる。


「美味いだろ。実はそれ、さっき見つけた赤色超巨星をちょびっといれてるんだ」

「この辛いやつでしょ」

「そうそう」

 ローリーが嬉しそうに笑う。それから二人は和やかに会話を楽しみ、食事を終えた。後片付けをしたら、あとはもう眠るだけだ。


「サリアはまた過去に行くのか?」

「ええ、そのつもりよ」


 サリアは過去に進む原子たちが集まっているガスを吸い込もうとした。

「あ、そうだ忘れてたわ。いけないいけない」

 

 サリアは吸い込むのをやめて、ほんの少しだけ宇宙を泳いだ。

「見つけた。これ食べないと、一日が終わった気がしないのよね」


 サリアは一つの星を見つめる。それはサリアの指の先でつまめるほどのサイズだった。


 三割の大地と、七割の海で形成された、小さな小さな水の星。

 サリアは水の星をひょいとつまみ、口の中に入れた。

 

 ぷちっと弾けて、じゅわっと水が溢れる。ほんのすこし、しょっぱい味。

 

 七十回目の水の星を、サリアは満足そうに味わった。

                           おしまい



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