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evil tale  作者: 明間アキラ
第五章 「暗躍」 ー第二地区防衛編ー
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第六十八話「返り討ち」


閑静な住宅街のちょっとした広場。

ベンチに腰掛けたりして、談笑でもするのだろうか


そんなぐらいの広さの空間に

白と黒の物体が降り注ぐ。


悲鳴を上げて、人々は逃げていき、

残った二人は黒が上で、白が下、

白は両足を踏まれ、銀色の棒で喉を突かれ、拘束されていた。


「ぐっ!!」

「よお、久々だな!ウィリアム」


人々の憩いの場へ降り注いだ

ウィリアムとテオはとても談笑をする様子ではない。


加えて、彼の黄色い目が近づき、

ウィリアムの赤く染まった目を覗きこんだ。


「転移を使える奴がいるとは驚いたな。

大方カミラなんだろうが、

ゼノ達に聞いときゃよかったよ」


ウィリアムを見る彼の口元は笑っていて、

彼の尖った歯がよく見える。


だが、目は笑っていない。


「だが、そうなると

アンタがここにいる訳は二つに一つだなあ。

一つは、アイツの腕利きっていう触れ込みが嘘で

アンタはただのお茶くみだったか、」


声色も普段と変わらない様子だが、

そのあまりの変化の無さと

目の暗さと鋭さが

不気味さと恐怖を煽っている。


「最初から裏切ってたか、

俺が思うに後者だと思うんだが、どうだ?」


「・・・・・」

動けずにいたウィリアムは

ただ喉を抑えられて苦しそうにしてたが、


「!」


突如として、うねうねと指を動かした。


「おっと」


何かを察知して消えるテオ。


彼が居なくなった背後の建物は

次々と様々な形にスライスされていった。


「綺麗に切るなあ」


ゆっくりと起き上がるウィリアムの後ろ

数メートルの距離にいるテオは、

口角の上がった意地の悪い笑みを浮かべ、

そうやって彼に語り掛ける。


「・・・・・」


その声のする方へ

ウィリアムはゆっくりと振り返り、

彼と向き直った。


「どうした

ウィリアム君

前はもっと喋ってくれたろ?」


「・・・・まさかトップが直々に来るとはね」


「ああ、人手はあるが、

生憎、融通の利かない連中ばっかりでね

こっちじゃ、意味の分からん謀反を起こされる始末だ。

もう自分で動いた方が手っ取り早い」


そう言って、テオは不敵に笑う。


それとは打って変わって

ウィリアムの表情は必死なものだ。


「やっと来た。ついに来た。」


張り詰めた顔に握りこまれる拳。


ルーカスと戦っていた時とは全く違う

真剣で、冷酷な表情をテオに向け


「あんたを殺せば全部終わる。

クレアちゃんたちも何もかも解決できる・・!」


覚悟を新たに、彼は腕を振りかぶる。


大きく後ろへ振られた彼の手は

横なぎに振られた。


その指先から出た半透明の白く細いものが

住宅街を切り裂く。


その奥にある壁も、ドアも、家具も、食べ物も、人も

何もかも綺麗に輪切りにされ、

壁は五つに分かれてしまう。


あっという間に通り過ぎていった

その切り裂き魔たちは周りを破壊したが


「チッ」


目標を捉えることはできなかったようだ。


「なるほど

確かに腕利きってのは

嘘じゃなかったらしい」


テオはその場でニヤニヤと笑みを浮かべ、

変わらぬ姿で立っている。


彼の後ろの建物は

断面から自重で崩れ、

その奥からは悲鳴すら聞こえてこないが

テオ自身に変化はない。


その棒で自身の肩をトントンと叩きながら

彼はウィリアムをじっくりと見ていた。


「しかも」


彼の体に浮かび上がる白い管。

血管のように、しかし、それよりも太い白色の管を

テオはよく観察する。


「ようやく見れたな

ルーカスと同種の人型。

報告じゃあ聞いてたんだが」


「・・・・・・」


「気配や魔力も

魔獣と人が混ざってるような感じがするな」


「・・・・・・」


「ルーカスに聞いても

知らぬ存ぜぬとしか返ってこなかったんだが

さすがにアンタらは何か知ってるよな?」


「・・・・だったら何なんです?」


「別に?ただ・・」


その瞬間、ウィリアムの方へ

オレンジ色の光線が射出された。


床を溶かし、壁を溶かし、家屋を溶かし、

彼の半身を溶かしたそれは

腰元で、遠慮がちに開かれた

テオの右手から出てきたようだ。


「敵のお喋りに

付き合っちゃダメだぜ?」


「くそ、この」


少しだけ体をひねり

どうにか全身が溶けることは避けられたらしいが、

どう見てもそのダメージは大きい。


一瞬でその光線は

ウィリアムの左手から左肩、左足までを

綺麗さっぱり消し去り、

その消失面からは

ドロドロとしたものが流れだそうとしていた。


支えを失った彼の体は

自然と彼が跳ぼうとした

右側へ倒れたが、

彼はどうにか右手をばねのように押し出して、

右へ跳び、どうにかテオと距離取る。


焼かれた傍から再生をはじめる

ウィリアムの体ではあるが、

その状態で移動できる速度も、距離はたかが知れていた。


「アンタらはどうやって死ぬのかも

あんまりわかってないから

さっさと決めたかったんだが・・・」


テオの手がウィリアムに向けられ、

その中に小さな光る球体が作られていく。


だが、


(来る!)

「・・・・」


ウィリアムがその手から

離れようと残った足で跳びだした先に

いつの間にかテオがいた。


彼の棒がウィリアムの顔面にめり込み、

先ほどまで彼がいた場所まで殴り飛ばされる。


「うぐっ!!」


何もできないまま

顔を殴られるウィリアムだったが

腕や足が大分戻ってきているようで

今度は大して体勢を崩すこともなく

彼の前に立つことができた。


「ふぅー、ふぅー」

「あらら、もう治ったのか」


ウィリアムは

どうにか息を落ち着かせようと

忙しない呼吸を繰り返していたが、


「ああああ!!!」


その疲れも負傷もかき消す勢いで雄たけびを上げ、

テオに向かって手を突き出した。


彼の右手から

先の尖った白い棒のようなものが伸び、

彼の方へ突き進む。


テオは難なく

半身になってそれを躱し、

ウィリアムの方を見据えていたが

「ん?」


彼の体を白い糸の束のようなものが

いつの間にか拘束し、締め付けていた。


「うらあああ!!!」

大きな繭のようにテオを包んだ

白の塊をウィリアムがハンマー投げのように振り回す。


凄まじい速度で、周りの建物を打ち壊しながら

回しに回されるテオ。


繭に閉じ込められ、遠心力を一身に受けながら

ウィリアムを中心として円を描くように動かされ、


「はあ!!!」


彼の頭上に行ってしまう。


そのまま行けば、地面へ叩きつけられ、

あの繭越しでもとてつもない衝撃が彼を襲うだろう。


だが、その繭は一瞬にして溶け、

中からテオが跳びだしてきた。


そのまま下へ下へ重力に逆らわず、

むしろ伴って、勢いよく落下する。


棒を下へ突き出し、避ける間もなく降った彼は

ウィリアムの背中に向かって棒を突き立て、

地面へ押し倒した。


「ぐはぁっ!!」

「ああ、目回って吐くかと思った」


地面にひびが入り、大きな音が鳴る。

鈍い音も同時に響き渡り、

ウィリアムは這いつくばり、

テオに乗られて動けなくなった。


「これなら人には当たらんな」


テオからそう声が発されると、

彼の右手がウィリアムの方を向き、

その中に小さな球体が現れ、


「じゃあな、ウィリアム君」


小さくひび割れていく。


それが壊れた時に訪れる

彼の破滅はもう確定したかのように思えたが

今はその時ではなかったらしい。


ウィリアムが手を動かし、

彼の手に何かが収まる。


「あ?」


その瞬間、地面に向かって

オレンジ色の光線が発射されたが

もうそこに彼の姿はなくなっていた。


「・・・・・・・」


石とコンクリートの床がドロドロに溶けていき、

大きな穴ができてしまうが、

そこに彼の残骸があるわけではないようだ。


残ったのは湯気を放ち、

ぽっかりと口を開けた広場と

バラバラに切り裂かれたり、

同じような穴をあけられた家々だけだった。


「今のは・・・」


ウィリアムの手から伸びた細い糸と

それに引き寄せられた物体、

その光景が微かに彼の脳裏に残っている。


「・・・・サラに渡してたやつか」


その形状と特性から見て彼は察したようだ。

彼が依然サラに渡していた瞬間移動を可能にする魔道具

それをウィリアムが所持し、使用したということに。


「・・・逃がしちまったな」


一度彼は目をつぶり周囲の気配を探るが

敵どころか、人っ子一人、生物の気配がしない。


「・・・帰るか」


彼は無茶苦茶になった町に背を向け、

その場を去る。


「・・・・・・」


一人寂しく何も得られなかったその背中は

突如消え、また二人の元へと帰っていった。



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