表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
evil tale  作者: 明間アキラ
第五章 「暗躍」 ー第二地区防衛編ー
87/239

第六十四話「女の喧嘩」


泡を吹いて倒れる人々の横を通り抜けて

ゼノとルーカスは大きな百貨店に入る。


幸い、その中に人は

あまり残っていない様だ。


いくらかは残っているが

外ほどではない。


「どうすればいいんだい?」

「コノ変身を解く。

ちょっと時間がかかるから

それができる場所に行きたい。」

「わかった。じゃあ」


彼女が立ち止まり

階段の下を指さす。


「こっちに行きましょう」


彼女が言った通りに

二人は地下へと下っていく。


階段は段々と狭くなっていき、

ある一つの扉の前に着く。


「本当にここか?」

「この先は広いし、頑丈よ」


彼女がそう言って

勢いよく扉を開け、中へ入る。


そこに広がっていたのは

カジノだ。


ルーレットに、カードゲームの台、

人はいないが、賭け事には欠かせない

道具の数々が並ぶ、カラフルなカーペットが敷かれた

部屋がそこにはあった。


目が赤く染まった

ディーラーらしき人物や

スーツを着た男たちがいたが、


部屋に入って早々、

ゼノはそれらを無視して

その小さな入り口に向かってテーブルを移動させる。


彼女が手を動かすと、

ひとりでに浮いたテーブルたちが

扉を塞ぎ、バリケードのようになった。


ルーカスは取り残された人々に向かって、触手を伸ばして、

部屋の隅に投げ飛ばし、叩きつける。


彼らはそれで動かなくなった。


「ここは?」


「裏カジノよ。

そのギャング連中が管理してたみたいで、

逃げるための通路だってある」


彼女が指をさした方向の床に

取っ手の付いた金属製の板がある。


「あれがその入り口」


どうやらあそこを開けると

小さな通路が繋がっているらしい。


「何でアンタがそんなこと知ってるんだ?」


「こ、この町の事はちゃんと調べたんだよ

公的な人間じゃない分、取り締まらないといけない理由もないし

そんなことより、変身解くんだろ?」


「・・・・ああ」


彼女の言った通りに

ルーカスは体の変化を解いていく。


溢れ出す触手は溶け、

皮膚の形状は人のものへと戻る。


服を彼の体と繋げていた黒いモノも

床へと溶け落ちていった。


「これで」


そう言って彼はジャケットの内ポケットに

手を入れトランシーバーを取り出す。


「良いか?」


「ああ、これであの人に」


それを受取ろうと

ゼノが近づいた瞬間、


「ッ!!」


ルーカスは動いた。


ゼノの手を引き、彼女の体を強引に引っ張る。


それと入れ替わるように前に出た彼は、

真横へ床と平行に吹き飛んでいった。


彼が吹き飛ばしたギャングたちの山に突っ込んでいった彼は

そこからピクリとも動かなくなってしまう。


「な、何が!?」


思わず驚き、後ろを振り返るゼノ。


そこにいたのは、

三匹目の化け物だった。


紫の混じった黒く、短い髪の女。

出るところは出て、

引き締まるところは異常なほど引き締まった

煽情的で、艶やかな身体を持つ

ソレは、ゼノの前に立っている。


「・・・・カミラ」

「ふふふ」


カミラは余裕のある

嘲笑するような笑みを浮かべて、

必死な形相のゼノを見つめていた。


その体つきも、佇まいも、息遣いも

変わらないようだが

その外見はあまりについさっきまでとは

かけ離れすぎている。


頭には紫色の二本角

指先には紫の大きなかぎ爪

背中には紫色の毛のない翼

腰からは細長い鱗で覆われた黒い尻尾。


服は何も着ていないようだが

彼女の体は紫色を主とした外骨格に覆われ、

肌色は顔以外に見られない。


彼女は

ゼノと同じような化け物に

変わっていたのだ。


そして、

そんな彼女の目は、

真っ赤に染まっていた。


「ほんと、しぶとかったわね」

「・・・・・・」


赤と赤の視線がぶつかり合う。


睨みあった後、

ゼノは少し下を向き、

顔を上げて、吠える。


「・・・・返せ」

「?」


「返せ!!」


彼女は人が変わったように

激情をあらわにして怒鳴り散らした。


その一言で

周りの床や机にひびが入るほど

激昂している彼女は

今にもカミラに食ってかかりそうだ。


疲労困憊のはずだが、

その気迫だけは衰えを見せない。


「最初に言うことがそれ?

もっと言うことないの?

ゼノ・・・じゃなくて、今はミアかしら?」


一方、カミラはわざとらしく不思議そうな顔をして

彼女をおちょくっている。


そして、嘲りながら、

左手を前に出し、

長いかぎ爪の付いた

指を曲げて、彼女を挑発して来た。


「あなたらしく取り返してみれば?」


その言葉を聞いて、

彼女の足元の地面へひびが入り、

大気が揺れる。


「ーーーーーーー!!!!」


人外の声で吠え、

カミラに跳びかかる。


左手に向かって行った彼女だったが、

カミラが軽く手を振っただけで吹き飛ばされてしまう。


「!?」


態勢を崩すことはなかったが、

驚きが隠せない。


「あなたがいくら強くても

そんなに弱ってちゃ、今の私にだって倒せそうよ?」


余裕のある笑みでそう言うカミラに

彼女は再び唸りながら向かって行く。


「ホント魔獣みたいね。

野蛮だわ」


カミラへ振り下ろされる手。

それが彼女の顔に当たる直前、

カミラは消える。 


「ッ!!?」


そして、

次の瞬間、

彼女の背中から勢いよく血潮が飛び散った。


いつの間にか

彼女の後ろに回っていたカミラの大きなかぎ爪が

背中を深く、大きく切り、抉っていたのだ。


「がぁっ!!」


思わず背中に手をやりながら

後ろを振り返る。


爪を赤い鮮血で染めたカミラは変わらず、

嘲笑を浮かべていた。


「ゼノに交代してもらった方がいいんじゃない?

駄目じゃない、もっと冷静に戦わないと」


カミラにおちょくられた

彼女はより息を荒く、顔を怒りに染めたまま吠え、

カミラに跳びかかるが、何度やっても同じだ。


尻尾での打撃、

爪での引っ掻き

固い外骨格を纏った足での蹴り


どれもが、テーブルを砕き、床を砕き、壁を裂く。

しかし、どれもカミラには当たらない。


彼女の引っ掻きが空を切り、

それと同時に彼女の横へ移動していた

カミラがお返しと言わんばかりに引っ掻く。


肩をひっかかれ

固い外骨格が裂け、赤い血が流れる。


「グァア!!」


怒りのままに彼女は手を振り回すが

カミラはまた消えて、

「どうしちゃったの?」

反対側に現れ、もう片方の腕を切りつけた。


「アァ・・」


ヨロヨロと後ろへ下がってしまう彼女の元へ

カミラはまた現れ、体を切りつけていく。


「ウゥ・・・」


腕で顔を覆い、

体を丸くしながら耐える彼女は

傷が増えるばかりだ。


腕に、背中に、翼に

彼女の固い体表を切り裂かれ

血が流れる。


徐々に傷はふさがりつつあったが

完治する前に新たな傷が作られてしまう。


「アハハハハハ!!」


そうやって意気揚々と

攻撃を続けるカミラだったが、

「!?」

突然、彼女の動きが止まった。


(お、重・・)


カミラの足元の床がへこみ、裂ける。


見るからに彼女の顔から余裕の色が抜て、

自身にかかる圧力を必死に耐えていた。


「この・・・」


一度消えて、彼女の後ろにまた現れるカミラだが、

そこに行ったとしても何も変わらない。


(まだこんな力が・・・)


カミラは指一本たりとも動かせず、

そうこうしていると

段々彼女の傷がふさがっていく。


あらかた治ると、

彼女はゆっくりとカミラの方を向き、

腕を振りかぶり、跳びかかった。


今度は部屋の端まで

瞬間移動することで

カミラは事なきを得たが、

先ほどまでの余裕はもうないらしい。


「ハァ!!」


その離れた場所から

カミラは雷を放つ。


笑いながらではなく

真剣な顔で、左手を前に出し

爪の先から赤い雷が発射する。



彼女は

どうにか、それを両手で受け止めたが

その腕は焦げていった。


「うっ」


力も抜けて、片膝をついてしまう。


「もう終わりね」


勝ちを確信したカミラは

少し余裕を手にしたのか、そう口にした。


雷の勢いが強まり

彼女の固い体表がどろどろになって溶けていくのを見て、

満足そうにしている。


しかし、

「何よ、その目

まだ何かやれるつもり?」


彼女の目はまだしっかりとカミラを見据え、

そこに失望も絶望も、そういったものは見えてこない。


「鬱陶しい・・・・早く死んでよ!」


その目を嫌がり

痺れを切らしたカミラはもう片方の手からも

雷を出そうとする。


だが、

「・・・・・・・」

彼女がぼそぼそと何かを呟いた瞬間、


「何言ってんのよ、根暗女!」

「し、死体の確認ぐらいした方がいい」


カミラは吹き飛び、壁に突き刺さった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ