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evil tale  作者: 明間アキラ
第五章 「暗躍」 ー第二地区防衛編ー
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第六十一話「強襲」

耳の横を通り過ぎる風切り音

それが聞こえた時、彼の手に一瞬だけ

違和感がする。


ルーカスがそれに気づき、

そちらを向いたころにはもう

自分の前腕が床に転がっていた。


「ちっ」


彼は、舌打ちをしながら後ろを振り返る。


床を裂き、自身の腕を切り落とした

その相手の顔を見てやろうと

視線を送ると、

兵士たちの間に小さな背丈の男がいた。


白に水色の混じった髪を短く切りそろえ、

執事のように紳士服をきた小さなこの城塞の管理人。


「ウィリアム・・・・」


疲れと怒り。

不機嫌で、低い、唸るような

声がルーカスの口から漏れる。


彼の先にいたのはウィリアムだ。


あの少年が彼の眼前に立ち、

ニヤニヤと笑いながら彼を見ている。


そして、その目はどす黒い赤色へと変わっていた。


「はあ、はあ」

「へへへ」


これまでの純朴な少年といった

彼の雰囲気はどこかに消え去ったらしい。


意地の悪い笑顔を浮かべた

憎たらしい餓鬼の顔へと変貌していた。


「あれれ、おっかしいですねえ」


ウィリアムは

わざとらしい、子供っぽい声で

嘲りながらルーカスを見ている。


「バラバラにしたはずなんですけど」

「はあ、はあ」


余裕綽々と言った様子の彼を見た

ルーカスは浅い呼吸を少し繰り返した後、


「ッ!!!」


向き直り、跳びかかった。


残った左腕で、

ウィリアムの憎たらしい顔を

殴りつけようと迫る。


が、その拳は

バチンッ!!!

という肉と骨がぶつかる音と共に

小さな色白の手に納まった。


「く!!」

「へへへ」


身長は150cmにも満たないであろう

ウィリアムの小さな体躯からは

想像できない、太く、陰影の目立つ

前腕が紳士服から垣間見え

それがしっかりとルーカスの拳を受け止めている。


が、ルーカスはそこから攻め立てた。

左拳を引きながら、右足で回し蹴りを繰り出す。


「おっと」


ウィリアムは手を離し、後ろに跳んでそれを避けた。


そこへ、ルーカスが一気に跳びだし、肉薄する。


右半身を後ろにため何かをしようとしたコンマ数秒、

ウィリアムは自分の側面を守るように足を上げ、

肘を膝の外に出るようにつけながら頭を守った。


腕がない相手が右半身を振りかぶったのだ。


当然、右足の蹴りが飛んで来るのだろうと

彼は予想し、その通りに動く。



しかし、その予想は大いに外れたようだ。


ルーカスが足を踏ん張り

肩を動かして、まるで腕を突き出すような動きをする。


本来、その行動は何の意味もないはずだが

その時だけは違う。


突き出される数舜前から

断面に盛り上がりができる。


黒い水がうごめき、形作られていくそれは

彼の前腕であり、拳であった。


「あ」


治った瞬間に、彼の殴りは完成する。

的確に突き出されたその右拳は

ウィリアムの顔面を捕らえた。


「ぶっ」


拳が当たり、

ウィリアムの顔が歪む。


その衝撃は凄まじく

彼の足は完全に地面から離れ、

ウィリアムは宙に浮いた。


後ろへ飛んでいき、

そのまま頭から地面に落ちそうに

なる彼だが、

両手で着地し、

バク転の要領でルーカスの方へ体を向ける。


だが、そこにはもうルーカスが迫っていた。

拳の雨あられがウィリアムを襲う。


両手で頭を覆うようにして、

その連打から逃れようと後ろへ下がるが、

ルーカスはお構いなしだ。


しかも、その攻撃を守られた、

いや守らせたルーカスにとって

これ以上にやりやすいことはない。


両手を使って

丸くなったウィリアム

彼の頭を掴む。


また殴られると防御を固めた彼の防御を

通り過ぎたルーカスの手は

ウィリアムの頭を掴み、勢いよく自分の方へ引きつける。


そして、ルーカスの方へ

引っ張られたウィリアムの腹に膝蹴りが突き刺さった。


「お゛ぐ」


また宙へ浮くウィリアム。

そこへルーカスの右足の蹴りがさく裂する。


前に押し出すように出された

その蹴りは彼をいとも簡単に

後ろへと吹き飛ばし、

ウィリアムは数メートル廊下の上を飛んだあと、

ごろごろと床を転がりまわることとなった。



口からは血が漏れ、

ぐったりと倒れるウィリアム。


「・・・・ああ、痛った~」


だが、彼はその口から漏れた血をぬぐいながら

平然とした様子で地面に立って見せた。


「子供相手に本気出し過ぎじゃないですか?」


一方、ルーカスの息は相変わらず、

荒いままで彼の方へ近寄るその足も

どことなくふらついている。


「子ども扱いすんなって言ったのは、

どこの誰だよ?」


その言葉と共に

ルーカスはまた殴りかかる。


右拳がウィリアムに迫るが

それが彼の体に届くことはなかった。


「っ!!?」


ウィリアムが右の手の平を

制止を促すように、彼へ見せた瞬間、


ルーカスは、まるで紙の上に描かれた誰かのように

拳を突き出したまま、ぴったりと動きを止めてしまったのだ。


「へえ、黒なんだ」


そう彼は言葉を漏らす。

顔、腕に浮き上がる黒い管、

それをしっかりと見つめ


「僕はね」


手の甲をルーカスに見せる。


「白なんです」


その手の甲に白い血管のような管が

浮かび上がってきた。


顔にもそれが浮かび、

ドクンドクンと脈打つ。


「!?」


驚きを隠せないルーカス。

口は動かせないが

彼の顔は驚きで満ちている。


「次は僕の番」


そう言いながら

ウィリアムは右手を引き、


「ふん!!!」


思いっ切り踏み込んで、

ルーカスの腹を殴った。


動けない状態で止まった

ルーカスにそれを防ぐ術はなく、


そのまま後ろへと吹き飛ばされ、


「あちゃ~、飛ばしすぎたかな・・」

廊下のはるか後方へと飛んで行ってしまう。


そして、彼はそのまま力なく床に転がった。


「皆さ~ん」


ウィリアムが手を叩き、そう言うと、

窓の外や近くのドアからぞろぞろと兵士たちが

出来て来た。


「後はみんなでやりましょう」


そうやって集まった兵士たちは漏れなく

赤い目をしている。


どこを見ているのか定かではないが、

彼らはウィリアムの指示に従い、

ルーカスの方へと歩き出した。


ゆっくりと力のない足取りだが、

確実に何人もの兵士が

ルーカスの元へと近寄り、

魔導銃を構える。


その瞬間、

異様な雰囲気が彼らを包んだ。


生気のない目をして、

ただウィリアムの言うことをこなしていた彼らの手が震え、

照準が定まらなくなる。


「これは・・・・」


兵士たちが邪魔で何も見えないが、

ウィリアムにもその気配は伝わっていた。


魔獣と人間を足し合わせたような

異様で、恐ろしい気配。


それが辺りに迸った

ほんの数秒後、


兵士たちが逆を向いて

逃げ出してしまった。


誰も彼も、無表情で何を考えているのか

わからない生気のない顔のまま後ろへ走り出す。


「ああ、もう」


だが、ウィリアムが

指揮者のように

両手を振り上げると

彼らの動きはピタリと止まり、

不自然な体勢から銃を彼に向けた。


まだ逃げていない者はそのまま銃を向ける。


ある者は、半身の態勢で

あのアサルトライフルを片手で持ち、向ける。


ある者は後ろを向きながら、

銃口だけを向ける。


「撃て」


そんな無理な体勢から撃ちだされた

火の玉は、一切互いの体を傷つけることはなく、

ルーカスの元へ飛んでいく。


しかし、届いても、それに意味はない。


火の玉が撃ちだされ続け、

数秒経った時、


何かが廊下を駆け巡り

一斉に兵士たちが倒れる。


ウィリアムの頬にもあたったそれは

火の玉だ。


魔導銃で撃つような火の玉。


それが、何百発も一斉に

ある方向から全方位に発射され

建物と兵士たちを穴だらけに変えてしまい、

全員がばたんと力なく地に伏せ、血を流す。


残ったのはウィリアムただ一人だけ。


そんな彼の視界は

兵士たちが居なくなったことで開け、

その先が見えた。


「な、なんだ?あれ・・・」


そこにあったのは

六本の触手を身にまとう

あのルーカスの姿だった。


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