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evil tale  作者: 明間アキラ
第一章 「弱き人」 ー幼少期編ー
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第八話「狂人の宴」


ルーカスの言葉に


マリは驚いて、謝るのをやめてくれた。


唐突で無神経な言葉、

だが、明らかに彼女に図星だったのだろう。


(お、効果あったな)


明らかにマリの態度が変わる。


「な、何言ってるの?

私は別にそんな」


泣きっ面の代わりにマリの顔には動揺が見え始めた。


「俺にはそう見えたんだが」


「私はただ、仲良く」


「ジョルジュ、ナタン」


その名前を突き付けた途端

彼女の顔がまた引きつっていく。


「あいつら元気にしてるか?

ジョージ、スミス、ジョン、オリバーもいたよな」


「・・・・・・」


「一人ぼっちでいる奴が他人の事を全く知らないって思ってたか?

実際は逆なんだよ。いつ絡まれるか、いつこっちに来るか怯えながら

ずっとあんたらみたいなのには、一応目は付けとくんだ。

詳しく知ってるわけじゃない。

だけど、誰と誰が繋がってるかぐらいは表面的な会話だけからでも

察するようにしないと一人きりはやっていけないんでね」


「そして、もちろん、あんたのことだって知ってる。

ジョルジュと仲良かったよな。俺が目玉くりぬいたアイツ


ここだって、いいとこあんたらの盛り場だろ?

これは関しては確証ないけどな」


完全に俯いて、動かなくマリに

構わずルーカスは続けた。


「で? 俺をここに呼んでどうする気だったんだ?

待ち伏せとかじゃないらしいが・・・

一人で仇討か? そういう罰ゲームかなんかか?

喧嘩に負けたら相手を仲間をいれるみたいな制度があんのか?」


「違う、私は・・・」


「じゃあ何なんだ?

 教えてくれ 」


「・・・・・・・・」


何も言わずうつむいたまま動かないマリ


「言ってはくれないか?・・・そうか」


確認するようにそう告げると、

ルーカスは立ち上がり、彼女に背を向けて歩き出す。


「待って」


それを引き留めるように、マリはゆっくりと話し始めた。


「ごめんなさい、そういうんじゃないんです。

ただ・・・その、私このままだとろくな目に合わないから」


「へえ」


「あなたが病院送りにした二人ってね

私がいたグループだけじゃなくて周りにも幅を利かせてたし

調子に乗って色々無茶苦茶してたの

だから、グループ自体が周りから好かれてなかった。」


ゆっくりと震える声でマリは話をつづける。


「だけど、あいつらが強かったから問題なかった。

喧嘩に負けないことだけがあいつらの取り柄だったし

でも、それも・・・・・」


「ああ、それで? なんで俺と仲良くするんだ?」


「私はジョルジュの愛人ってことになってた。

実際は、みんなに使われてたし、ジョルジュも

気持ちのいい穴ぐらいにしか思ってないだろうけど

そのジョルジュが病院送りになった今、

嫌われたグループの、しかも嫌われる原因だった男の

愛人なんて、絶対碌な目に合わない。」


「なんで、そこで俺が出てくるんだ?

他に行くとかはできないのか」


「私はあなたと同じ外部出身なの

もうどこに行っても結局同じ

まわされるて、使い走りにされるだけ」


マリの体が縮こまっていく。



「だからあなたを助けたし、恩を売ろうとしてたの

ここに連れてきて、何回かすれば、あたしを側においてくれるかなって」


「・・・・・」


ルーカスが何も言わずにいると

マリは切り株から降り、地面に頭をつけた。


「行くところがないんです。

もう気持ち悪いジジイどもに使われたくありません。

あなたみたいに一人で生きていくことでも来ません。

だから、お願いします」


「私を守ってください」


日本でいうなら土下座だ。

手を前に出すわけではないが、

ひれ伏すように頭を地につけ、希う。


それをルーカスは無言のまま見下ろしている。

憐れむような視線を送り、何をするでもなく

ただ眺めていた。


「・・・・俺とするのはいいのかよ」


「一人なら・・・そんなに疲れないから・・」


「一人の俺よりも複数人いた方が安全だと思うぜ?」


「あなたが強いことはもうみんな知ってる

だから・・・・」


マリの方を見ていたルーカスも俯き、震え始める。

手を顔に当て、震える。


「ぶっ くくく・・」


小さく漏れたその声は、笑い声だった。


「アハハハハハハ!!」


抑えきれなくなった声が一気にあふれ出し、

辺りに響いていく。



手で、膝を叩き、手を合わせて笑う姿は

まさに馬鹿笑いだ。


怯えたマリはルーカスを見たままじっとしていることしかできない。


彼が笑い続ける時間がただ流れ、笑いが止んでいく。


「あぁ゛、はあああー-


ほんとくだらねえよな」


唐突に、先ほどまでの物静かで、口数の少なかった男が

深く息を吐き、口角の吊り上がった笑顔を浮かべて、饒舌に話し始めた。


「こんな狭いところでよお

仲良くするどころか、蹴落としあって、

みんなちょっとでもいい地位になろうとばかりしてる。


嫌になるよなあ

努力とか、才能がどうとか

アイツが優秀だとか、あいつが強いとか」


また腹を抱えて笑い始めるルーカス。

今まで溜まっていた何かがあふれ出すように笑っている。

それも時期に止むが、一向にあの邪悪な笑みが顔から消えることはない。

その目でどこか遠くを見つめ、不気味に笑い続けている。


「弱いと困るよなあ、お互いに」


マリはじっと彼の方を見たまま、

体が固まり、這いつくばって、ピクリとも動けない。

目の前のただの人間だと思っていた男が

悪魔のような形相でゲラゲラと笑い始めたのだ。

怯えてしまうのも無理はない。


「それで? 俺に何をして欲しいって? 守る?

俺があんたを? ははははは!! はあ、はあ」


「あんたはそれでいいのか?」


過呼吸でゲホゲホと咳をしながら、

息を整えて、少し冷静になってルーカスはそう口にする。


怯えたマリは動けない。

だが、頭を縦に振り、同意を示す。


「私にはそれしかない。

・・・それしか考えつかない。

あなた言う通り、弱いと苦労するの

だから、狂人でも、悪魔にでもすがる。

あなたにだってすがる。」


マリはおびえながらも決意のこもった目で彼を見た。


「・・・・そうか」


それを見たルーカスはまるで憑き物が落ちたかのように大人しくなり、

静かに切り株に座った。その顔つきは元の彼に戻っている。


「あんたも運がないな。色々と」


落ち着いた様子で遠くを見つめ、


「いいよ

ここに居たってやることなんてないんだ

だったら無理なことでも、面倒くさいことでやってやるさ」


承諾した。


「・・・ほんと?」



「ああ、だが、あんま期待するなよ

結局のところ、二人なんだ。

どうにもならないことだってあるし、

そもそも俺は一騎当千の英雄じゃなく

ただのチンピラでしかないだからな」


ただ元の彼と違うのはその喋る量だろうか

あの悪魔じみた顔は収まったもののルーカスにしてはよくしゃべる。


マリは、その変化に驚きつつもさっきの狂気が

消えたことや約束がなされたことに安堵し、大きく息を吐いて、

四つん這いのまま体を落とした。


「ねえ」


顔を下に向けたまま呼びかけ、

そこから顔を上にあげ、向き直る。

彼女の顔は赤く腫れているけれど、

先ほどまでの絶望感は薄れて、明るい顔になっている。


「何だ?」


「あなたっておしゃべりなのね」


声も、変に明るいわけでも、暗いわけでもない。

朝よりは低い声だが、不満やストレスを吐き出し、

劇物を見たことで、気は晴れているようだ。



「・・・・みたいだな

あんたも急に失礼になったな」


「あなたにはそれでいいかなって」


「思ってても口に出すなよ・・・」


「ふふふ、あはは」


マリの笑い声、先ほどまでの引きつった笑顔ではない、自然な笑顔

先ほどの彼の狂気が移ったのか、それともそれが彼女の本性なのか

少なくとも彼の前に会ったのはそういう笑顔だった。



「後、そうだ。一つ聞きたいことがあるんだが

俺たちはここに後どれくらいいるんだ?」


「どれくらいって日が沈むまでだけど」


這いつくばるのをやめて、マリは切り株に座り直す。


「・・・・それまでなにすんだ?」


「そうねえ、確かにここってヤル以外で使ったことないし、

・・・・・する?」


マリはからかうような顔つきをしながら

指で輪っかを作り、指を出し入れしている。



「・・・・・いや、やめとこう」


それにルーカスは少し考えた後、それを断った。


「ええ!? なんで?」


「あんたにそういうことさせると大事な時に裏切られそうだ」


「ふふ、何それ

じゃあ、いよいよやることないわよ?」


「その缶詰、食おうぜ」


二人で食卓を囲み、何も話すことなく食べる。


失意と絶望の谷の底で会った二人の、束の間の休息

その沈黙に気まずさはなく、かといってお互いを認識していないわけでもない。


その谷に落ちた二人に隠すものも守るべき矜持もない。

何もせず一緒にいることに抵抗はなかった。



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